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■アルベルト・ヒナステラ (Alberto Ginastera 1916〜1983)

 弦楽四重奏曲第1番 作品20 (1948年)


 南米の音楽と言えば、真っ先に思い浮かべるのはやはりポピュラー音楽でしょう。ブラジルのサンバ、アルゼンチンのタンゴ、ペルーやボリビアのフォルクローレ・・・インディオや白人移民、黒人奴隷の子孫たちの混住する多文化的な状況の中で、多彩で魅力的なポピュラー音楽が生まれました。

 しかしその一方で、南米にもクラシック音楽の作曲家はいます。最も有名なのはブラジルのヴィラ・ロボスですが、今回はアルゼンチンの近現代音楽を代表する作曲家であるヒナステラの作品を紹介します。

 ヒナステラは、若い頃には民俗的な節回しとリズムの反復を主体にした音楽を書いていましたが、後に12音技法を受け入れ、より先鋭な作風に転換しました。彼は言わば南米のバルトークであり、シェーンベルクでもあったのです。

 ヒナステラは弦楽四重奏曲を3曲書いていますが、第1番は12音技法を取り入れる前の作品で、バルトークやストラヴィンスキーの影響の伺われる作品となっています。全体は4つの楽章から成り、構成だけ見れば古典的です。7分かかる第3楽章以外は、4分程度で簡潔にまとまっています。

 第1楽章は突如鋭く鳴り響く短い序奏のあと、刻むような伴奏に乗ってブルース風の第1主題が疾走し、シンコペーションリズムによる第2主題がそれに続きます。ノリのいいリズムによる躍動的な音楽が展開されますが、それはいかにも格好よく、ポップス感覚で楽しむことさえできます。

 第2楽章はピチカートやミュートなどの奏法を駆使したスケルツォで、バルトークの弦楽四重奏曲第4番の第2楽章を思わせる音楽になっています。様々な音色が軽快に飛び交う様が面白く、4分間があっという間に終わってしまいます。

 第3楽章は一転して無調的な節回しによる暗く不安な雰囲気の音楽となります。ミュートやグリッサンド奏法(音程のずり上げ、ずり下げ)が効果的に使われていて、不気味な雰囲気を高めています。この不気味さにもまたバルトーク作品の緩徐楽章に多い”夜の闇”風の曲想の影響が感じられます。

 第4楽章では第1楽章の第2主題によく似た軽快なテーマが展開されます。第1楽章と比べるとやや洗練された感じで、中ほどの部分はリラックスした雰囲気になりますが、リズム主体の躍動的な音楽であることに変わりありません。

 バルトークの影響の明白な部分があるという難点があるとはいえ、ヨーロッパの古典的な形式の中に南米の民俗音楽(白人系)やポピュラー音楽の要素を取り入れ、両者の融合の理想的な形を示した点は素晴らしいと思います。ヒナステラの音楽もまた、南米の多文化的状況の生み出した魅力的な音楽と言っていいでしょう。クラシックファンばかりでなく、ポピュラーファンにも聴いて頂きたい音楽です。

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ヘンシェル・クァルテット ARTENOVA 74321 721252

2002.09.02
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