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■ジェラルド・フィンジ(Gerald Finzi 1901〜1956)

 ピアノと弦楽のためのエクローグ 作品10 (1929年)


 20世紀の英国では、エルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルスト、ブリス、ウォルトン、ブリテンなど、優れた作曲家が輩出しましたが、そんな近代英国音楽の系譜の中で、ジェラルド・フィンジは地味ながらも特異な存在です。20世紀初頭に生まれた人であるにも関わらず、その作品はロマンチックで聴きやすいものがほとんどです。一部の作品では民俗音楽の素材を用いたり、モダンな手法を取り入れてみたりもしましたが、それらの方向には深入りしませんでした。晩年のブラームスやエルガーの作品にも聴かれるような諦観を湛えたメランコリーの世界こそ、フィンジの本領だと思われます。もっとも、こうしたフィンジの音楽の内面性もまた、英国音楽の美質のある部分を代表していると思いますが。

 晩年(と言っても享年55歳ですが)の『クラリネット協奏曲』や『チェロ協奏曲』もたいへん素晴らしい作品ですが、今回は28歳のときに書かれた『エクローグ』を紹介します。

 「エクローグ eclogue」とは、「牧歌的な対話」を意味する言葉です。その名の通り、『エクローグ』ではピアノと弦楽合奏が交互に現れたり、掛け合いをしたりしながら穏やかな曲想を展開していきます。ピアノパートには難しい技巧は要求されず、ピアノと弦楽合奏が対等な関係を保ちつつ、音楽を紡ぎ出していきます。

 演奏時間が10分ほどの小品ですが、とにかく美しい曲です。冒頭のピアノソロの弾く透明感のある叙情的なテーマから引き込まれます。端正な造形の旋律には常に言い知れぬ孤独感がつきまとっていて、中ほどの音楽が高まっていくところは、つかの間の幸福をいとおしんでいるかのよう。不安の中に沈んでいくかのような結尾も印象的で、フィンジならではの内省的な表現のエッセンスを聴く思いがします。

 後年の作品のような出口のない暗さはここには無く、初々しさが残っているので、まだフィンジの作品を聴いたことのない方には第一にお薦めしたい佳作です。

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ピアノ:ピーター・ドノホー
ハワード・グリフィス指揮 ノーザン・シンフォニエッタ NAXOS 8.555766


2002.06.24
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