とっておきのクラシックトップ

■フランツ・ベルワルド(Franz Berwald 1796〜1868)

 ピアノ五重奏曲第2番 イ長調 (1857年)


 フランツ・ベルワルドは19世紀のスウェーデンに忽然と現れた異才です。シューベルトよりも1年早い1796年に生まれました。整形外科医などの仕事で生計を立てつつ、ベルリン、ウィーン、パリを巡って創作活動を行いますが決定的な成功は得られず、祖国に戻ったあとも音楽の仕事に就けず、不遇な生涯を送りました。彼の作品が理解され、演奏されるようになるのは20世紀に入ってからです。今日ではスウェーデンの生んだ最高の作曲家として、祖国では尊敬されています。

 ドイツ系の家庭に生まれ、主に西欧に活動の場を求めたベルワルドの音楽を”スウェーデン音楽”と呼べるかは疑問ですが、作曲家として彼は紛れもない天才でした。彼の音楽はロマン的な情念の表現よりはむしろ、響きとしての感覚的な美しさが顕著であるように私には感じられます。斬新な転調や音色美に彩られたベルワルドの音楽は、今聴いても新鮮な魅力に溢れています。

 ピアノ五重奏曲第2番は1857年に完成され、リストに献呈されました。リストは作品を好意的に評価したものの、「あなたの生前には理解されないでしょう」と語ったとのことです。この曲の初演は1895年にステンハンマルとアウリン四重奏団によって行われました。

 この曲は伝統的な4楽章構成で書かれていますが、各楽章の間には切れ目がありません。第1楽章と第2楽章の間など、何の前触れもなく次の楽章に移行するので、初めて聴いたときには第2楽章に移ったことに全く気付きませんでした。(^^; ベルワルドの室内楽は、いつもこんな感じらしいです。

 第1楽章はアレグロですが、比較的ゆったり目であり、穏やかで優美な雰囲気が基調となっています。ところどころでピアノの高音や弦のピチカートのチャーミングな音色も聴かれ、感覚的な美の表現の目立つ音楽となっています。これは当時としてはかなり斬新な表現だったのではないかと思われます。第2楽章はスケルツォに相当する楽章ですが、既に触れたように前の楽章とはほぼ地続きであり、曲想も似通っています。ただ、こちらでは後半部分でやや劇的な展開が見られます。

 テンポの遅い第3楽章もまた、先行楽章の穏やかな雰囲気を引き継ぎます。優美なテーマと陰りのあるテーマが交互に現れ、シューマンばりのロマンチックな叙情美を展開します。ピアノからチェロや第1ヴァイオリンへと甘美な旋律が受け継がれてゆく様が何とも美しく、うっとりさせられます。

 第4楽章に入ると劇的で力強い曲調になりますが、あまり深刻になりすぎることなく、音楽は適度に華麗な表現を交えつつ大らかに流れてゆきます。そして最後はゆっくり立ち止まるように終わります。

 いかにもベルワルドらしい、みずみずしいセンス溢れる傑作だと思います。シューマンの同種の曲を10回演奏する機会があったら、その内の1回か2回でもいいからベルワルドのほうを演奏してもいいのではないかと思います。

****************************** 所有CD ***********************************
『ベルワルド・ピアノ五重奏曲全集』
ピアノ:ベンクト=オーシェ・ルンディン
ウプサラ・チェンバー・ソロイスツ NAXOS 8.553970

2002.10.07
とっておきのクラシックトップ