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■ロリス・チェクナヴォリアン (Loris Tjeknavorian 1937〜  )

 ピアノ協奏曲 作品4 (1960、1974年)


 チェクナヴォリアンは、アルメニア系イラン人の作曲家、指揮者です。たびたび欧米に留学して音楽を学んだ彼は、創作活動を行うかたわら、ロンドンやアメリカの各都市で指揮者としての活動も行いました。そして1989年にアルメニア・フィルの音楽監督になりました。ロシア=旧ソ連音楽の録音で彼のことをご存知の方も多いと思いますが、彼は交響曲を現時点で5曲も書いている作曲家でもあるのです。

 「ピアノ協奏曲」は1960年のウィーン留学中に書かれた作品です(1974年に改訂)。フランス近代音楽やバルトーク、そしてアルメニア人の作曲家としての先輩であるハチャトゥリアンの影響をうかがわせる作風で、戦後世代の作曲家の作品としては分かりやすい音楽となっています。

 急緩急の3楽章構成で、演奏時間は30分ほどです。3楽章構成という外観だけ見ると古典的な協奏曲の構成のように見えますが、実際に聴いてみると古典的な形式にとらわれない様々な趣向が凝らされています。

 第1楽章はオケの鮮烈な色彩とピアノの華麗なフレーズが交錯する躍動的な音楽で開始されます。しばらくするとテンポが遅くなり、東方的な節回しのテーマが切々と祈るように歌われます。そのあとピアノ独奏だけになり、短いモチーフを延々と繰り返して瞑想的な雰囲気を醸し出しますが、やがてモチーフは弾き崩されてゆき、中東の弦楽器演奏家が鮮やかな指さばきで即興演奏をしているような感じになります。そしてその緊張感を受ける形で冒頭の曲想が再現されます。

 第2楽章はいくつかの東方的なテーマによる、夜の闇を思わせる静けさと不安感に満ちた緩徐楽章です。中ほどのオーケストラのみの部分ではテーマをフーガ風に展開しますが、それはかなり込み入ったポリフォニーになっていて見事です。

 第3楽章はピアノ独奏の弾く躍動的なリズムのテーマで開始され、そこにオケも加わって力強く前進する音楽が展開されます。次いで第1楽章の東方的なテーマが再現され、悲痛な祈りの歌を聴かせます。拍子の異なる複数の旋律が同時に演奏される不気味な部分を経て冒頭のテーマが再現され、土俗的な迫力に満ちた音楽によって曲は閉じられます。

 中東の音楽の要素がうまく織り込まれ、痛切な訴えかけも感じられる秀作だと思います。もし機会があれば、交響曲も聴いてみたいものです。

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「JAPANISE MUSIC FESTIVAL 2000 IN ARMENIA」
 ピアノ:古曳真則
 井上喜惟指揮 アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団 Altus ALT-013-4
※チェクナヴォリアンの「愛のワルツ」と伊福部昭、外山雄三作品を併録。

2004.01.13
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