心(意思)は伝わるか?

2004年7月23日、13年間連れ添ったジャーマンシェパードの "カイ" がこの世で私を支える仕事を終えて、生をまっとうした。

肉体は滅びて、カイの魂は見えない空間に溶けて……

部屋の中からカイの毛や臭いがだんだんとなくなり、庭のカイがいた場所にスズメやネコが往来するようになって、カイの存在がなくなったことが本当に寂しい日々だった。

一人暮らしをしてきて、初めて二人だけで暮らした犬だった。
出会いから成長過程での楽しい出来事など思い出は尽きない。
だから、逝ってしまう数時間前の私の心の中のことを書こうと思う。

猛暑続きで年老いたカイの体力はそうとう弱っていたのは分かっていた。
片目は白内障、後ろ足も踏ん張りがきかず、よろよろしている。
その日の朝の食事も、今まで一度も残すことがなかったのに、ほんの少し残っていたので手に取って口に運んだが、一粒口に入れただけで「いらない」ということだった。

夕方の餌を食べたあと、唸りながら庭をうろうろし出した。
そのうちおさまるだろうと、様子を伺いながら霊気を送ることにした。
私の考えは「年老いたカイが寝たきりになったら……」というものに変わっていった。
正直な話、動物病院でかかるお金は決してわずかではない。
車の免許をもたない私には、カイを連れて病院に通うこともままならない。
カイの体重は38kgあり、寝たきりになったら人間と変わらない世話が必要になる。
動き回ることが大好きな犬種なので、ストレスもたまることだろう。
老犬に必要な栄養や環境を用意してあげなくてはならない。

カイの老化現象を目にするようになって、そんなことをあれこれ思い巡らしていると私はいつも自分の無力感に襲われた。「できることなら、寝たきりにならずに、眠るように死ねたらいちばんいい」
「そんなカイを見るのは嫌だし、生活のことを考えるとどうしたらいいかわからない」

レイキにのせたその祈りはかなり強いものだ。
「どうか、カイが苦しまずに逝くことができますように。これ以上苦しみをカイに与えないでください…!」

それはつまり、私自身もこの先カイのことで苦しみたくないという思いからだった。
祈りながら同時に、罪悪感があったことを今も忘れることはできない。 声はおさまり、いつもの場所に寝転んでいるカイを見て、とりあえずの安心と、これからの不安とを同時に感じていた。

その後、いつもならだいたい決まった時間に窓越しにお菓子をねだりにくるのだが、その夜は来なかった。
そして、小屋からの気配がまったくなくなって変だと気づいた時、カイはいつもの場所で眠っているように、息絶えていた。

私が考えていたこと、おまえは知っていたの?
私がどんなことで不安を感じていたのか、分かっていたの?
私はおまえに充分なことをしてあげられたかな?

朝、仕事の部屋へ向かうと、自分のオモチャを何度も往復して机の下に運び、仕事中は机の下で遊んだり眠ったり。仕事が終わるとまた、居間にオモチャを運んでいた。
フリスビーがとても上手で、楽しそうだった。
生まれつき皮膚が弱く、いつもかゆみが悪化して異常に高い(1錠1500円)薬を買うのに苦労した。
1度だけ、サイレンに合わせて歌ってくれた。
カイの両親は「メオトソウ」という立派な家系?だったが、警察犬に向かない(音響シャイ)ということで、警察犬訓練所で売られた子だった。
教えるということをしなくても、「捜せ」遊びができたほど本当に賢い子だった。