見せられる |
父の霊を、私は感じることができた。
それは離婚を前に、子供達を連れて実家に帰っている間のことだ。
玄関と居間を結ぶ、ろうか沿いにある和室に居場所をもらった。
季節は夏で、ふすまは開けっ放しで寝ていた。
ある朝、仕事に出かける母は玄関に向かいながら
「いつまで寝てんの! 早く起きなさい!」
「へーい……起きますよ~ ……あれ?ケンちゃん(弟)まだいたの?」
いつもは母より早く家を出るはずの弟が、母の後をついて歩いている。
こっちを見ながら、妙ににこやかに。
「何言ってるの。もうとっくに出たよ?」
「だって、ほれ今、お母さんの後をついて歩いてるじゃん……」
「ばか言ってないで、起きて! 和尚さんがくるんだからちゃんとやってよ」
月命日に、和尚さんがお経を上げに来てくれるのでその応対をしなさいということだった。
「ケンちゃん、白いツナギ来て、歩いてるってば。」 確かに、玄関での気配は母ひとり。 私は強度の近眼で、コンタクトレンズをしている。 |
弟は整備士で、仕事の時は白いツナギを着ていた。
どう考えても弟だ。
ただ変なのは、弟も結婚していたから妻も子供もいて、私が夜泣きする子供を連れて帰ったせいで、その頃ちょっと不機嫌だった。
でも、その朝は笑っているのだ。
機嫌が悪いはずの弟が、朝からいい笑顔を見せるから(見えたから)よけいに印象的だった。
弟じゃないとすると、誰?
どうしても私には父が、私を怖がらせないように弟の姿を借りて笑顔を見せたように思えてならなかった。
何を伝えたかったのかは分からないが、怖くても何でも、父の姿の方がよかったかなあ。