うつ病を防げ
2010年12月23日(木曜日)
20●薬のプラシボ効果 3 認知療法で海馬活性向上


 認知療法もうつ病の心理療法に属する。心理療法はうつ病に効果があるのだろうか。
 認知療法と三環系の抗うつ剤の効果を調べると、認知療法の方がうつ病からの回復率も高く、再発率も低いことが示された。
 他の心理療法の効果はどうか。うつ病の心理療法は400以上ある。そのうち最もよく使われる40の心理療法を調べた学者は、いずれも効果があるとした。効果の差はあまりなく、どれも同じくらい効果があるということも示した。
 その後多くの研究も心理療法はほとんどうつ病に効果があるとしている。心理療法は患者と療法士の間の良い人間関係以外の何ものでもないという意見もある。そこでは信頼、信用、期待、希望などすべての心理療法の基本的要素が関係しているという。
 米国バンダービルト大学のストラップらによる、精神的に不安をかかえる学生に対する対策の研究は非常に興味深い。学生は平均して20年以上の治療経験をもつ臨床心理士と、哲学、歴史、数学などの教授のうち、心の優しさや信頼性で評判の良い人に預けられ、悩みから抜け出すようにさせた。
 学生を預かった教授は一度も精神的な悩みの治療に能ったことなどないが、教授群と臨床心理士群ともに改善があった。程度に差はなかった。あまり治療を受けなかった群、まったく治療を受けなかった群も、ある程度改善したが、臨床心理士群や教授群に治療を受けた人たちの改善度よりも低下していた。

 ストラップらは、この結果は患者と治療する人の間の良い人間関係によるものだと結論づけた。
 心理療法は治療士と患者の人間関係を強化することと、よい聞き手がいることが基本的な要素になっていることが分かってきた。
 心理療法自体がプラシボなのだろうか。これに関しては認知療法と薬物療法、プラシボを受けた人の脳の変化が調べられている。
 陽電子放射断層撮影装置(PET)や機能的磁気共鳴画像装置(MRI)を使って調べると、プロザックのようなSSRIで治療された場合も、プラシボの影響で改善した場合も活性化されたり、活性が低下する場所は似ている。SSRI、プラシボで活性化する部位は背側外側前頭葉、帯状回後部であり、低下する部位は膝(しつ)下野、海馬である。一方、認知療法は内側前頭皮質、帯状回後部、目窩(がんか)回の活動は低下しているが、海馬の活動は高進している=図。
 このことは認知療法とプラシボによる脳の反応の変化は異なることを示すが、他の心理療法でもこのような差があるかは研究されていない。
                         =終わり