色にみる 心の叫び
中日新聞2014年7月22日朝刊25面

 君の心をもっと知りたい—。浜松市立東部中学校(南区)では、生徒の心の状態をみる手法に、カラーカウンセリングを取り入れている。生徒が選んだ色の組み合わせなどから、言葉にできない悩みを読み取ろうとする試みだ。非行への誘惑が多いともいえる夏休みを前に、先生たちは生徒の心を離すまいと試行錯誤をしている。(木原育子)

生徒のサイン 見逃さない
 赤や紫、黄緑、黒色。667人の生徒たちが思い思いに塗った、□と▽を組み合わせた不思議な図が机に並んだ。今月上旬の東部中の校長室。 担任教諭と養護教諭が、その図と、カラーカウンセラーの鈴木裕美さん(54)=浜松市西区入野町=と向き合っていた。
 カウンセリング歴20年以上の鈴木さんが、生徒が選択した色や塗った順番、筆力などで心の状態を総合的に判断し、アドバイスしていく。


鈴木さん(右)のカラーカウンセリングに、真剣な表情で耳を傾ける袴田教諭(中)ら=浜松市南区の市立東部中学校で

 ある生徒は、図を無視して画用紙全体に色を塗った。「ルールが守れないのか」と心配する担任教諭に、鈴木さんは「この線の勢いは感性が強い証拠。見守ってあげて」と促す。
 逆に、教諭らが事前に「注意要」としていた生徒とは別の生徒を「注意した方がいい生徒はこっち」と指摘する場面もあった。担任教諭は「その子はクラスでもリーダー的な存在で」と説明するが、鈴木さんは冷静に「色から圧力を感じる。もしかしたら家庭で何か変化があったのでは」。「あっ…」。何かを思い出したかのように担任教諭は押し黙った。
 同校がカラーカウンセリングを取り入れたのは、須山嘉七郎校長(59)の経験がある。管理職になる15年ほど前、同級生からも信頼が厚かった生徒が夏休みを境に非行に走った。須山校長は「教師になって20年以上で自信もあった。だが、心の闇を見抜けなかった」とショックを受けた。
 「教師の感覚に絶対はない。子どもの心には、教師でも見える部分と見えない部分がある。子どもをいろんな立場の大人の目で見る必要がある。子どものためなら、使える手段は何でも使おう」と考えを改めた。2012年度には市教育センター所長として、新人教諭の研修や教員免許状の更新講習にも初めて取り入れた。
 カウンセリング後、教師歴26年の同校の袴田稔教諭(47)は「自分が気づかなかったことを指摘されて、はっとした。夏休み前に生徒の心をがっちりつなぎ留めて、二学期を迎えたい」と語る。新人の石本知佳子教諭(29)も「感情を出さない生徒もいて、正直どう接すれば心を開いてくれるのか悩んでいた。今度、生徒に『あなたはどうしたい?』と声掛けしたい。ヒントになった」と話した。
 内閣府は、夏休みに入る毎年7月を「青少年の非行問題に取り組む全国強調月間」と定め、関係機関が連携して非行防止活動を展開している。

カラーカウンセリング

 楕円(だえん)や三角、四角などの図形に、自由に色を塗ってもらい、選んだ色や塗り方で心の状態を判断する。心理ケアの研究が盛んな英国が発祥の地とされるが諸説ある。仕事への意欲や人間関係の把握にも役立つとされ、学校現場だけではなく、性格診断や研修などで活用する企業もある。講師は民間の協会などが認定する資格が一般的。