中日新聞で「睡眠の不思議」というシリーズでうつ病についての記事があります。
2010年2月25日(木曜日)
睡眠の不思議 浜松医科大名誉教授 高田明和
13●うつと不眠 かかわり密接、薬も同じ
時代が不安定になるとうつ病になったり、自殺する人が増える。同時に眠れないという人も増える。どうも、うつと不眠は関係があるようだ。事実うつ病に効く薬、不安を抑える薬は睡眠薬としても用いられる。
例えばGABA(抑制性の神経伝達物質)だが、GABA神経は中枢、末梢(まっしょう)の活動を抑制する。血圧降下などの代謝作用、精神安定作用、アレルギー予防作用、さらに脳機能を高める作用がある。
問題はGABAを摂取しても脳内に入らないことだ。多くの薬品あるいは食品はGABA神経の作用を高め、興奮を抑制する。それはGABAが放出されると、それが次の神経の膜にある受容体に結合するが、GABA受容体には多くの物質が結合する。
アルコールはここに結合し、能の活動を抑える。一時的には抑制を抑えてしまうので、興奮状態になり暴れたりするが、その後全体的な抑制になると、アルコールを飲んだ人は寝込んだり、うつ状態になったりする。
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とくに関心をもたれているのがベンゾジアゼピンという鎮静剤がGABA受容体に作用して抑制する。ベンゾジアゼピンはたんに鎮静作用があるだけでなく、睡眠薬としても用いられる=図。
さらにセロトニン(神経伝達物質)を増やし、セロトニン神経を活性化する薬、SSRIなども神経を安定させて、眠りを誘発する。
睡眠、うつと、GABAやセロトニンなどは非常に関係があるように思われる。私たちは悩みがあると寝つきが悪くなり、昼間おこったことを考えたり、翌日のことを心配したりする。うつ病になるとひどくなり、不眠になったり、明け方目が覚め、眠れなくなる。不眠はうつ病の症状の一つだ。 |
最近のうつ病の特徴は昼間、体が鉛のように重くなり、体を動かすことができず、ずっと寝たきりになっているという症状が多い。不思議なことに否定型のうつ病と呼ばれる人の場合は寝過ぎるくらい眠り、昼間もだるいが、興味のあることをする場合は元気が出る。怠け病ではないかといわれるのはこのためだ。
最近、これは生体時計の異常という考えが出されている。脳の一部は使った後で眠っていても、自覚的には眠くないということがあるということを述べた。主時計の遺伝子が昼の場合、体の細胞の時計も昼になるのが普通 だ。うつ病では主時計の遺伝子の働きが昼でも、細胞のすべてが眠っている状態、つまり夜になっているから、体が動かないと考えられている。 |
2010年3月11日(木曜日)
睡眠の不思議 浜松医科大名誉教授 高田明和
14●睡眠薬 副作用、効果低下…限界も
睡眠薬の中には長時間持続して作用するものから、比較的短い時間作用するもの、非常に短期的に作用するものなどがある。
最近注目されているのは薬局で購入できるドリエルという薬だ。寝つきが悪いという人に爆発的に売れた。もともと風邪などを引いて、抗ヒスタミン剤を飲むと眠くなるということから注目され、脳内のヒスタミンの受容体を阻害する薬として開発された。
しかしこれは不眠の治療には役立たないとされる。不安、心配などから眠りにつきにくい場合に眠らせてくれるという薬だ。副作用もあまりないことが市販される理由になっている。
すべての睡眠薬について言えるのだが、次第に効きにくくなる。医師に訴えると新しい薬が出る。
前に述べたベンゾジアゼピン受容体に作用する薬はGABAの作用を高進し、鎮静作用をもたらす。以前はハルシオンがよく処方された。しかし記憶が飛んでしまうなどの副作用もあり、最近ではベンゾジアゼピンでもω1という受容体に作用するスマイリーという薬が処方される。
これはω2の受容体に作用するハルシオンなどに比べ抗不安作用は少ない上に、、反復性、つまり依存性が少ないとされ、よく処方される=図。
不眠などを訴える人は「何とか薬を止めたいのだが…」という話が多い。副作用のようなものはなくても、薬でなく、自然の眠りが欲しいという。このことは薬による眠りが、自然の眠りと異なるということを人びとが実感しているということを意味する。これが睡眠薬の限界だ。
不眠の人はうつに悩んでいる人も多いのだから、医師は抗うつ剤、つまりSSRI(パキシルなど)を処方していることが大部分だ。この薬も疲れやすいとか、意欲がなくなるなどの副作用があり、患者は「抗うつ剤も止めたい」と訴える。
もちろん医師は不眠、うつ病が治るまで薬を止めないようにと指導する。しかしこの苦しみをもつようになったことは、新しい病気をもったのと同じように思える。 |
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うつや不眠の人の訴えを聞くと、これは心の病であると痛感する。禅では昔から座禅をすれば、必ず眠れるようになると言ってる。そこで私は自分の息を数える数息観をいすに座りながら「疲れるまでやってごらんなさい」と勧める。たいていの人はその後"不覚にも"眠ってしまったという。
息を数えるほかに、言霊を使う、つまり「すべてはよくなる」とか「困ったことは起こらない」などという言葉をできるだけ長く自分に言い聞かせることも効果 がある。 |
中日新聞 2010年5月30日(日曜日)社会面
精神科受診の自殺者 6割が薬過剰摂取 厚労省研究班調査
精神科治療を受けながら自殺に至った人の6割近くが、処方された薬を過剰に服用していたことが、厚生労働省研究班の調査で分かった。過剰摂取自体の致死性は比較的低いものの、自殺行動を促す恐れがあり、国立精神・神経センター精神保健研究所の松本俊彦室長は「特に若い人に目立つ。乱用を防ぐ方策や、精神医療の質の向上が必要だ」としている。
研究班は自殺の実態把握と原因分析を目的に、2007年12月~9年12月、自殺既遂者76人の遺族への面接調査を実施。精神科受診の有無など精神医学的な観点から分析した。
自殺直前になんらかの精神疾患にかかっていたと推測される人は66人(86.8%)で、罹患(りかん)率は国内外の先行研究とほぼ一致していた。
死亡前の1年間に精神科・心療内科の受診があった人(受診群)は半数の38人。30代以下が3分の2を占め、平均年齢は36.8歳で受診していない人(平均46.3歳)より低かった。
受診群の約8割が薬物療法を受けており、自己判断で治療・服薬をやめた人は約2割にとどまる。自殺時に、処方された睡眠薬や抗うつ薬などの過剰摂取があったのは、はっきり分からない5人を除き33人中19人(57.6%)だった。
死ぬつもりでなくても、薬の多量摂取は抑制が外れて自殺衝動を起こすことがある。松本室長によると、過剰摂取で救急搬送される自殺未遂者が年々増えており、特に若い人が多いという。
同室長は「若い人は精神科受診の抵抗感が少ない。早めの受診は大切だが、一方で薬が行き渡り過ぎるのは悩ましい問題。治療が薬物療法に偏り過ぎて、適切に処方されていない可能性もある」と指摘している。 |