精神障害 忘れないで「年金」
中日新聞2014年1月23日朝刊32面 ・1月30日朝刊23面

 障害を負ったときのセーフティーネット「障害年金」。厚生労働省が昨年に発表した調査では、障害年金受給の可能性があるのに受給していない人は身体障害で0.4%。比較的理解の進む身体障害に比べ、精神障害は非受給率が高いとされる。背景と最近の手続きを2回に分けて伝える。(佐橋大)

進まない手続き  届かぬ情報、偏見も壁
 愛知県精神障害者家族会連合会(愛家連)や名古屋市精神障害者家族会連合会(名家連)の相談電話では、電話してきた人に、精神障害者保険福祉手帳と障害者年金について聞くようにしている。本来、もらえる障害年金を受けずに、生活に困窮する人を何人も見てきたからだ。
 「『年金って何ですか』という反応が6~7割」と、相談電話を受ける名家連の堀場洋二会長は話す。障害年金自体が知られていないという。

名古屋市精神障害者家族会連合会の電話相談の部屋では、障害年金について聞くよう、相談員に呼びかけている=名古屋市熱田区の健身会館で
 それ以外にも、年金受給を阻む要因はたくさんある。「症状が出てしばらくは、家族も精神疾患の症状に巻き込まれて大変。年金の手続きとか考える余裕もない人が多い」と愛家連の木全義治会長は話す。
 若い年代で突然、障害者になることも、受給を阻む壁だ。精神障害の原因の病気の代表例、統合失調症は、二十歳前後で発症しやすい。発症直後は激しい症状が出やすく、特に社会生活が難しくなる時期。受診もままならず、保険料の納付も後回しになりがち。未納の多さで支給要件=別項=を満たせなくなる人もいる。

病気は親にも本人にも不測の事態。親元を離れた学生で未納が起きやすい。
 障害年金専門の社会保険労務士、中島由恵さん=愛知県豊橋市=によると「障害年金を申請すると、障害が周りに分かるから」と、手続きをためらう本人や家族もいる。誤解と病気への偏見が手続きの壁になっている。症状を本人が認めにくい病気の特性や「そのうち良くなる」という期待も、手続きを遅らせる。
 保険料の納付など、医療機関で把握しにくい情報が絡む年金は、精神障害福祉手帳に比べ、医療機関のソーシャルワーカーが注意喚起しにくく、当事者が気付きにくいという。
 申請の書類作りで挫折し、諦めるケースも精神障害では多いという。障害が原因で家族との関係が悪くなるなどして、本人一人で申請書を整える人が多い。病気の経過や、通院の状況などをまとめるが、「何を書くべきか分からないという人は多い」と中島さん。
 申請書に日常生活の状況ではなく周囲への恨みを書き連ねるなど、年金事務所の求める情報が欠けた書類を提出して却下されることも。そうしたケースでも、専門家の助言を受けたり、専門家に依頼したりして書類を整えて再申請すれば、受給に結びつく例もあると中島さんは指摘。「申請の却下で自信をなくし、再申請をためらう人も多いが、申請をめぐる環境も変わってきている。一度申請して棄却されても、あきらめないで」とも話す。

障害年金支給の要件
 障害につながる病気で、初めて医者にかかった日が20歳より前か、20歳以降なら、初診日に年金制度に加入しており、初診日の属する月の前々月までの期間で
(1)直近1年間の保険料の未納がない
(2)保険料の納付期間と免除期間の合計が、被保険者期間の3分の2以上——のいずれかを、初診日前日の時点で満たすことが条件。

その上で初診から1年6ヶ月の「障害認定日」以後、一定以上の障害が認められれば、請求に基づき年金が払われる。障害基礎年金1級は年額97万3100円、2級は77万8500円。初診日に厚生年金に入っていれば、障害厚生年金も受けられる。

 精神障害者の障害年金などの相談先
愛家連の相談電話(月・木、前10~後3)=電052(265)9213、全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)相談室(月・水・金、前10~正午、後1~3)=電03(6907)9212

申請の環境改善  初診日認定、柔軟対応も

 障害年金の受給が特に進まない精神障害者。障害年金に詳しい愛知県豊橋市の社会保険労務士、中島由惠さんによると、支給判断の起点となる初診日の認定が一部で柔軟になるなど、申請をめぐる環境は、少しずつ変わってきているという。中島さんが関わった事例からも、そうした実情がうかがえる。(佐藤大)

 愛知県の男性(34)は、高校生のころから統合失調症。二十歳で障害年金の申請をしたが、該当しないとされ、障害年金を受けずに、生活してきた。昨年、再申請しようと、当時通っていたクリニックに行った。カルテが残っていなかった。カルテは5年の保存期限を過ぎると破棄する医療機関が多い。以前の基準なら、申請しても初診日の証明ができないと棄却されていたケースだ。
 厚生労働省は2012年1月から、障害の原因となった病気で初めて受診した日が二十歳未満で、医師、隣人ら複数の第三者の確実な証言を得るなどすれば、最初の受診日を初診日と認めるように改めた。男性は「高校の制服を着て受診していた」「不眠を訴えられ、睡眠導入剤を処方した」との医師らの証言を得て、再申請。障害基礎年金を受給できた。

 初診日は大切。初診日が二十歳未満のときなら、保険料の納付状況に関係なく支給の要件を満たせる。厚生年金加入期間中に初診日があれば、障害基礎年金に加え障害厚生年金ももらえる。
 本人が思う初診日と、実際の初診日が異なることが分かり、支給の要件を満たせるようになった結果、年金がもらえるようになった人もいる。

 統合失調症の男性(33)は、会社を辞めた後、精神科系の医療機関を初めて受診した日を初診日と思っていた。この日を基準にすると、退社後の保険料未納などで男性は要件を満たさない。ところが男性は退職前、不眠を訴えて精神科以外の医療機関を受診していた。不眠は、統合失調症の初期によく出る症状。これが「初診日」と認められたことで証券が満たされ、5年分さかのぼって受給できた。
 本人の思い違いをただして、実際に受診した医療機関にたどりついた結果、カルテが見つかり、初診日が確定して受給に結びついたケースもある。中島さんは「病気の書記は、記憶も混乱していることが多い。初診日が特定しづらい状況もある」と指摘。さまざまな可能性を考慮し情報を集めるといいという。
 障害年金は原則、初診日から1年6カ月たった時点を「障害認定日」とし、そのときに、一定以上の障害があると、申請することで年金を受給できる。認定日の状態が診断書などで証明できなかったり、認定日以降に状態が悪化して、一定以上の障害の状態になった場合は、「事後重傷」の扱いで請求も可能。この場合、請求日が受給権の発生日となり、その月の翌月分から支給される。
 中島さんによると、本人の状況を役所に伝えるため、医師が書く診断書は数年前、本人の生きづらさが伝わりやすい書式に改まるなど、申請をめぐる環境は改善されているという。「ただ、書式が変わっても、実情が医師に伝わらないと医師も書きようがない。診断書を書いてもらう前に、どう生活で困っているのかを書き出し、それを基に医師に伝えるといい」と助言する。

年金の遡及(そきゅう)
 公的年金は原則、受給権取得後5年以上たってから請求すると、5年分はさかのぼって受給できるが、それより前の分は、時効で受け取れなくなる。障害年金も同様。5年以上さかのぼって障害年金を払うよう求める判決も一部で出ているが確定しておらず、最高裁で争われている。
年金受給の対象になる精神障害
 年金の等級は、精神障害者保健福祉手帳の等級とは異なる。1級は、精神疾患の症状のため常に援助が必要な人、2級は、常に他人の助けが必要ではないが、症状のため日常生活が著しく制限を受ける人が該当する。高次脳機能障害や若年性認知症も精神障害で受給の対象になりうる。