働き盛りに多発 慢性疲労症候群
中日新聞2013年4月9日朝刊22面

 ある日突然、全身の倦怠けんたい感に襲われ、疲労や微熱が続く「慢性疲労症候群」(CFS)。働き盛りの20代~40代で発症する例が多いが、詳しい原因は不明で根本的な治療法もない。症状はうつ病と似ていて診断は難しく、病気を知らなかったり、認めなかったりする医師もいて、精神科や内科をたらい回しになる患者もいる。(細川暁子)

原因不明の発熱、脱力感が続く

 東京都内の女性(40)の体に異変が起きたのは2009年3月。39度の熱が出て、解熱剤を飲んだが1週間以上も微熱が続いた。頭がボーッとして会話の内容が理解できなかったり、少し動くだけで息切れしたりするように。全身の筋力が低下して、次第に鍋がつかめないほどになった。治療を受けたが、症状は軽減せず、半年後にCFSと診断された。
 女性はシングルマザーで、中学1年の長女(12)と小学5年(10)がいる。10年8月からは休職中だが、現在も微熱や頭痛が続く。ほとんど寝たきりで、移動には電動車いす。子どもたちが食事作りなど身の回りの世話をしている。漢方薬を服用し、血液循環をよくするマッサージを受けると、少し楽になるという。「思うように動けず、子どもにつらい思いをさせている」
 「CFSの患者は働き盛りの20代~40代に多く、女性の割合が高い」とCFS治療の第一人者で、関西福祉科学大教授の倉恒弘彦さんは指摘する。患者は全国に30万人以上と推測する。

 CFSは激しいだるさや脱力感、微熱が続き、筋肉や関節が痛むのが特徴だ。それが半年以上続き、日常生活に支障が生じていることなどが診断基準で、リンパ節の腫れを根拠にする医師もいる。だが一般的な検査では異常は見つからず、詐病を疑われる場合もある。女性も、症状が急激に悪化して近隣の診療所に駆け込んだ際に、CFSについて伝えると「(CFSとは)診断できない。処置できない」と言われたという。
 多くの患者は身体的な症状だけでなく、不眠や思考力、集中力の低下などの症状も訴える。東京・池袋の「池袋内科」の井上幹紀親みきちかさんは「うつ病との区別が難しく、病院を渡り歩く患者も多い」と話す。症状としては、内科と精神科にまたがっているため、双方の協力が重要という。
 発症のメカニズムは解明されていないが、患者の血液を調べると何らかのウイルスが見つかるケースがあり、倉恒さんは免疫との関連性を指摘している。
 患者は血液中の活性酸素が通常より高いことが特徴で、活性酸素を減らす薬を出すこともある。ただし、現状では、それぞれの症状を軽減する対症療法しかない。通常の日常生活に戻れる患者もいるが、10年以上も症状が軽減せず、苦しむ人もいる。
 倉恒さんらが参加する厚生労働省の研究班では、自律神経のバランスを指先の脈拍で調べるなど、新たな診断基準づくりを進めている。倉恒さんは「疲れを感じたら休息し、それでも改善しなければ、まずは専門医に相談を」と話している。

福祉サービスの対象外

 CFSの患者には、重症になると寝たきりで、食事や外出に介助が必要な人もいる。だが、症状が一定せず、身体障害者手帳の取得は難しい。
 4月施行の障害者総合支援法で、障害者手帳を持っていない難病患者も家事介助や補助具支給など、福祉サービスを受けられるようになったが、CFSは対象外だ。
 東京都練馬区の関町内科クリニックの申偉秀しんいすさんは「病名の『疲労』という言葉は実態を正しく表していない。誤解を与え、社会保障を受けられない一因になっているのでは」と指摘する。
 英国やカナダの一部の医師たちは、重症患者は脳などに炎症があることから「筋痛性脳脊髄炎」への病名変更を提唱しているという。申さんも病名変更には賛同し、「重症者には、優先的に福祉サービスを受けられるようにしてほしい」と話す。