一緒に暮らす親が精神疾患… 不安と孤立感抱える子ら
中日新聞2012年9月4日朝刊19面

 統合失調症など精神疾患の親と暮らす子どもは、親の病気を周囲に言えず、孤立を深めることが多い。大人になっても「生きづらさ」を感じることもある。同じ経験を持つ人たちが語り合う場を専門スタッフが用意するなど、少しずつ支援の輪は広がるが、者会全体の精神疾患への正しい理解が欠かせない。(佐藤大)

交流会など支援の輪

 津市の津駅前に立つ複合ビルの一角。8月中旬に開かれた「三重 子どもの集い・交流会」には、20代~50代の男女10人が県内外から集まった。
 共通するのは、精神疾患を患っていたり、その疑いがあったりする親と暮らしていたか、今も一緒に生活していること。調整役として、三重大看護学科助教で看護士の土田幸子さん(48)や精神保健福祉士が加わる。
 一人の女性が、母の統合失調症の幻覚に振り回される生活で、親戚に助けを求めたのに、そのつらさを理解してもらえず、傷ついた経験を語り始めた。


周囲に理解されない悩みなどを話し合う土田幸子さん(左)や参加者ら=津市で

 「うちもそうだった」「母の病気は父のせいと言われ、『あなたがしっかりしないと』と言われてつらかった」。別の参加者からも、それぞれの体験が口をついて出る。
 月に1度の会によく参加する女性は「ここでは、今まで言えなかったことが言えて、すっきりする」と話した。

「未参加の10代が心配」

 土田さんによると、親が精神疾患だと子どもは、さまざまな影響を受ける可能性がある。20代~60代の29人に聞き取り調査をしたところ、親の病気を説明された人は、ほとんどいなかった。病気のため働けない親に漠然と不安を感じ、「親がこうなったのは私のせい」と自分を責めた人もいた。
 親は病気で苦しんでおり、子は「構ってもらえない」と感じる。周りの大人が親の病気に触れないため、「親の病気は外で言ってはいけない」と思い、不安や寂しさを打ち明けられない。孤立感が深まり、何事にも自信が持てない悪循環に陥る。
 病気の親が心配で、親中心の生活が染み付いてしまい、自分が本当に何をしたいのか分からなくなっていた人もいた。「成人後も、生活しづらさが続く人がいる」と土田さんは指摘する。

 交流会は、調査対象者の希望で昨年9月に始めた。同じような経験をした者同士が語り合い、孤立感を和らげる。「自分だけじゃない」と知り、他の参加者から少し違った物の見方を学び、困難を乗り越えてきた自分の力に気付く。
 課題は、参加者すべて20代以上で、10代がいないこと。まだ親の病気を客観的にとらえられず、交流会のような場に行く気持ちになれないとみられる。
 「困っていると周囲に言えない中高生が多くいるはず」と土田さん。「遅刻が多い」といった兆候があれば、各校に配置されているスクールカウンセラーらが、困りごとはないか、声を掛けるなどの気遣いが必要と説く。理解を促すため、土田さんは、県内の高校や教育委員会を訪問している。
 交流会に行けない人のため、ホームページ(「親&子どものサポートを考える会」で検索)も開設。ネット上での交流の場を提供するほか、交流会の日程も載せている。

子の悩み 把握困難 訪問支援の強化を

 精神障害者の家族支援に詳しい、京都ノートルダム女子大准教授の佐藤純あつしさん(48)は、「子への支援の必要性は、過小評価されてきた」と指摘する。
 精神障害への偏見で、家族は悩みを表に出しにくい。さらに社会経験の少ない未成年者は、困っていても相談先が分からず、一人で抱え込みがちだ。精神保健の相談窓口を訪れるのは、ほぼ全員が大人で、家族会のメンバーも多くは患者の親。子どもの悩みは、特に把握しにくいという。
 佐藤さんは、自宅で暮らす精神障害者を支援する活動を通じて、障害者の世話をする子が多いことに気付いた。「さまざまな立場の家族、特に子への配慮が必要」という。
 佐藤さんらの呼び掛けで、京都市でも5月から子どもの交流会を隔月で開いている。話に夢中になる参加者の表情に手応えを感じつつ、「親に付きっきりで、ここにも来られない人こそ支援しなければ」と感じた。
 精神保健や医療のスタッフが患者宅を訪ね、家族も含めて支援する取り組みも強化すべきだという。「家族支援ばかり強調すると、頑張る家族を増やすだけ。本人支援の強化と並行して進めないといけない」
 母が統合失調症だった静岡県焼津市の児童精神科医、夏苅なつかり郁子さん(58)は、「語ることは治療になる」と交流会の意義を認める。一方で、「病気や家族関係は、人により大きく違う。語るだけでは不十分な人もいる」と、専門的な支援につながる仕組みづくりも必要と指摘する。
 「子への配慮は大切だが、『精神障害の人の子はこうだ』というレッテル貼りになってはいけない」とも。「家族や本人を孤立させる偏見はまだあり、精神疾患への理解の底上げが大事。家族が世話をするのは当たり前という風潮の中で、本人も、どの立場の家族も、葛藤し、苦しんでいることを知ってほしい」と訴える。