ゆっくり心の傷癒やす 虐待受けた少女ら生活
中日新聞2012年7月13日朝刊26面

 虐待などで家庭の居場所を失った少女たちが、共同生活をしながら生きる力を付けていく「ステップハウス ぴあ・かもみーる」が、愛知県春日井市内に開設された。就労や自立をすぐに目指すのではなく、心の傷からの回復が一番の目的。全国的にも珍しい取り組みだ。(野村由美子)

愛知にステップハウス開設

 

 炒めたニラの香りが、台所から居間に広がった。
 この日の夕食のメーンは「牛肉の韓国風ピカタ」。当番の少女が、スタッフと相談して決めた。
 他の子たちも手伝い、テーブルにトマトや納豆が並ぶ。「この前、教えてもらった納豆キムチ、おいしかったわー」。スタッフの言葉に、少女は笑みを浮かべた。
 二階建ての一軒家で暮らすのは、10代後半の3人と20代の1人。運営するNPO法人子どもセンター「パオ」のスタッフが常駐する。


スタッフ(中央)と食卓を囲む入所の少女たち。食事を皆でとるのも大切な経験だ=愛知県春日井市の「ぴあ・かもみーる」で

 入所者たちは、三食を共にしながら、病院やカウンセリングに通 ったり、手芸などを楽しんだりして生活のリズムを整え、社会に出る力を付けようとしている。短期のアルバイトに通う子もいる。
 少女の一人は「ここでは食事や寝る場所がある当たり前の生活ができる。温かくてホッとする場所。ここに来て、自分で何かを決めたり、夢を見つけて頑張ろうと思えるようになった」と話す。
 パオは2007年、愛知県内にシェルターを開設し、性虐待などを受けた少女らを児童相談所などと連携して保護してきた。しかし、緊急保護を目的とするシェルターにいられるのは2カ月ぐらいまで。心に深い傷を負った少女らは、保護された後も、心身ともに不安定になりやすく、自尊心、コミュニケーション力などの面 で問題を抱えることも多い。
 「継続的な支援のため、次の居場所が必要」という声が高まり、昨年11月、寄付金などで開設にこぎ着けた。対等な仲間を意味する「ピア」と、「癒やし」の意味を花言葉に持つカモミールから命名した。
 パオ理事長で弁護士の多田元さんは「少女たちは、大人からの暴力で、生きている価値がないという意識を持つほど傷つき、パオにたどりついている。本来の力を出せるようになるまで、支える場所が必要」と話す。
 昨年12月に茨城県つくば市で開かれた日本子ども虐待防止学会でも、全国のシェルター関係者から、保護後の子供たちの就職や自立の難しさが報告された。
 「ぴあ・かもみーる」運営の原則は「自立をせかさない」こと。県からは、通 常は入所者が働きながら寮費を払う「自立援助ホーム」として認可されているが、「働きながら自立を学ぶ」ことを目標に置いてはいない。
 「通院などで就職どころではない子もいるし、生活習慣を身に付けることに取り組んでいる子もいる。いわば、自立援助ホームの前段階の施設」とスタッフ。寮費は原則、徴収しておらず、措置費だけでは運営できないため、寄付やボランティアなどの支援も募っている。

 子どもセンター「パオ」は2012年7月21日午後1時半から、名古屋市中区大井町の市女性会館で「子どもの『生きる』を支えるために」と題したイベントを開催。歌手の藤田恵美さんのコンサートやタレントの矢野きよ実さんも参加するトークショーがある。無料。
問い合わせ パオ=電話052(931)4680