うつ病救済へ 「GPネット」
中日新聞2011年10月4日(火曜日)
一般医から精神科医へ連携

 うつ病の早期発見、治療推進のため、愛知県精神科病院協会(愛精協)などは11月1日から、地域のかかりつけ医と精神科医の連携を強化するシステム「あいちGPネット」の運用を始める。愛知独自の新システムで、一般 医と精神科医の垣根をなくし、うつ病患者の救済につなげたい考えだ。(加藤美喜)


かかりつけ医が精神科専門医を検索できる「こころのドクターネット」のHPを説明する杉浦伸一准教授=名古屋市昭和区の名古屋大医学部で



 GPネットのGはGeneral Physician(一般医)、PはPsychiatrist(精神科医)の頭文字を示す。うつ病は本人の自覚がなく、進退症状に現れることが多い。ご飯が食べられない、だるい、動悸どうきがする、微熱がある、などだ。このため、患者の多くは、まず地域の内科など一般のかかりつけ医に受診する。
 かかりつけ医が「うつ病では」と気づき、精神科医に相談したり紹介したりすればよいが、実際はなかなかそうならない。精神科領域の知識が不十分なことと、普段から精神科医と気軽に相談できるような連携ができていないからだ。
精神科医からかかりつけ医への「受け入れ可能」の送信メール画面
ウェブ上で検索や連絡 垣根なしで紹介
 東京の心療内科医が2002年にうつ病患者330人を対象に行った調査では、64%の患者が初診時に一般内科を受診し、精神科専門医を受診した人は10%に満たなかった。
 理由の一つについて、愛精協の舟橋利彦会長は「患者だけでなく、医者の間にも精神科への偏見や誤解がある」とみる。「患者を薬物で抑制し、囲い込んでおくというイメージが根強く、紹介をためらう医者は今も少なくない」と話す。近年は、新世代の向精神薬の開発で入院から外来診療へと移行が進み、駅前のクリニックなど敷居の低い精神科も増えた。うつとそううつ、適応障害などはそれぞれ薬などが違うといい、舟橋会長は「早く精神科専門医に紹介することが必要」と訴える。

 では、どのように両者を結び付けるのか。
 GPネットの重要なツールとなるのが「心のドクターネット」というウェブサイト。これまで、愛知には厚生労働省の精神科医療連携モデル事業として設立された「こころのドクターナビ」というサイトがあった。一般の人が地域や医療スタッフ、診療時間などの条件で県内の精神科医療機関を選択できる仕組みだった。
 今回、このサイトを改称拡充し、荒谷医療機関専用のGPネットページを設けた。かかりつけ医はネットに登録し、IDとパスワードをもらう。ログインすると、さまざまな症状に対応できる精神科専門病院が一覧から検索できる。愛精協加盟の40病院の救急当番表も見られ、何日にどこの病院が緊急対応をしているかが分かる。
 例えば、かかりつけ医が、この患者は一刻を争う状態で緊急入院が必要だと判明した場合は、一斉メールを送信して受け入れ可能な病院から即座に返事をもらうことができる。
 具体的には、患者の性別、一人暮らしかどうか、症状などを選択して「送信」ボタンを押すと、かく精神科病院の担当者の携帯に一斉にメールが行く。病院側は受け入れの可否を選択して返信。かかりつけ医には、受け入れ可の病院と担当医(または精神保健福祉士)の連絡先が書かれたメールが届き、その場で直接電話で話すことができる。

システムを考案したのは、名古屋大の杉浦伸一准教授(医療システム間理学)。これまでに、一般の人が地域の病院を検索できる「ホスピタルナビ」を始め、一斉メールで重症の妊婦や急性心筋梗塞患者の搬送先を探すシステムを全国に先駆けて構築してきた。
 他地域では昨年、神戸市医師会がファクスを用いたGPネットを構築したが、一斉メールを駆使して瞬時に検索や取り次ぎができるのは愛知独自のシステム。かかりつけ医だけでなく、産業医や精神科医同士の相談・連絡にも用いることができる。
 杉浦准教授は、システムの目的は患者とかかりつけ医、精神科医の「心と心をつなぐこと」と強調。システムを「道具」としてうまく利用し、溝や垣根を取り除いてほしいと話す。
 愛精協では、すでに県内4700の医療機関にGPネットの登録を呼び掛け、研修会も今後順次開催する。並行して、地域での連絡会議や研修など「顔の見える関係作り」にも力を入れ、包括的なGP連携を実現したい考えだ。