原因分からぬ 全身の痛み 〝繊維筋痛症〟 治療進む
 中日新聞 2011年6月

 体のあちこちに激しい痛みが出る繊維筋痛症。知名度はまだ低く適切な診断や治療を受けられないまま、医療機関を転々とする患者も多い。一方、使える薬が増えるなど、療養環境は変化しつある。(佐橋大)

 三重県東員町の女性(60)は十数年来、腕や背中など全身を襲う激痛に苦しんできた。ひどいときは、箸を持つだけで痛みが走った。整形外科などを何カ所受診しても「原因不明」「異常なし」と言われるばかり。痛みを周囲に信じてもらえなかったのがつらかったという。
治療法や痛みとの付き合い方などを情報交換して支え合う患者会は全国に広がる=名古屋市中区で
昨秋保険適用 抗てんかん薬で緩和も

松本美富士教授
 繊維筋痛症と診断され、昨秋から同症を含む「末梢まっしょう神経障害性疼痛とうつう」で使えるようになった抗てんかん薬、プレガバリン(商品名リリカ)を服用体に合ったのか、痛みが和らいでいる。「もっと早く診断してもらい、薬を処方してもらえたら」と感じている。
 繊維筋痛症の痛みは、痛みを感じる神経の異常などが原因との説があるが、根本的な原因は明らかになっていない。激痛で日常生活が困難になる人も多い。

 関節リウマチのような関節の炎症はなく、エックス線検査や、炎症反応を見る血液検査で異常を示さないのも特徴だ。
 国内では、1990年にできた米国リウマチ学会の基準に基づき、医師が診断。広い範囲の痛みが3カ月以上続き、決められた全身18カ所の圧痛点=イラスト=を4キロの力で押し、11カ所以上に痛みがあれば繊維筋痛症と判断している。
 全国に200万人の患者がいるとの推計もあるが、病気の認識や診断技術が広がっていないこともあって、実際に治療を受けている人は、ごくわずか。2004年の調査では、症状が出てから診断に至るまでの時間は平均4.3年。男女比では1対5で女性が多く、中年以降で多発する。
 痛みとともに、疲労感や関節のこわばり、抑うつ症状を伴うことによって、関節リウマチやうつ病などと間違えられやすい。関節リウマチなど症状の似た病気との併発もしばしばあることが、この病気の診断を困難にしている。

正しい診断 新基準に期待
 繊維筋痛症に詳しい藤田保健衛生大・七栗サナトリウム(津市)は「誤った診断から、効果的でない無駄な治療が続けられるケースが後を絶たない」と指摘する。「圧痛点を4キロの力で押す」など、診断基準が専門的過ぎることも、診断が一般に広がらない要因のようだ。松本教授が注目するのは、昨年、米国で提唱された新しい診断基準だ。
 新基準では、痛みや疲労感などを問診し、答えを数値化、一定以上の点数だと「繊維筋痛症の可能性が高い」と判断。合計点数によって重症度も分かる。東京の一部の医療機関では検証が済み、年内にも全国的な検証が始まる予定。「専門的な技術がなくても診断でき、早く治療につながる」と松本教授は期待する。

 繊維筋痛症は原因不明のため、治療は、痛みを抑え、和らげる対症療法に終始している。
 一般的な痛み止めである非ステロイド性抗炎症薬は効かないことが多く、神経伝達物質セロトニンなどの再取り込みを阻害する抗うつ薬(SSRI、SNRI)、抗てんかん薬のプレガバリンなどを用いることが多い。全員に効く薬はなく、使ってみて効果を確かめるという状態だ。
 抗うつ薬は多くの患者で保険が使える。患者の7割で抑うつ症状が現れ抑うつの治療薬として処方できるからだ。これらの抗うつ薬を用いると、痛みを押さえる神経回路が活発になり、プレガバリンが昨年、末梢神経障害性疼痛で保険が適用されるようになるなど、海外で有効とされる薬が、国内でも徐々に使えるようになってきた。
 軽い運動が症状軽減に有効な場合もある。ストレスを減らす生活習慣の見直しも有効とされる。
 繊維筋痛症を診る医療機関は、日本繊維筋痛症学会(学会名で検索)ホームページで閲覧できる。