ちょっとした、幸せ

それは、残暑が続く9月初めの日曜日だった。

商店街で夫と二人買い物をしていると、すぐそばを70歳前後の女性が通り過ぎ、
信号のそばで立ち止まって青に変わるのを待っていた。
直感的に私の脳裏には彼女の名前と生年月日が、少々癖のある字で浮かぶ。
それは、カルテの表紙に記されている文字だ。
今日の彼女は外来で会う印象とは違って、10才近く若く見え、
すぐそばには同年代の女性の姿があって、笑顔で話している。
信号待ちをしているすぐそばの、店先で咲く朝顔にも負けない笑顔。
「同級生かなあ」
つぶやく私に、夫が「知り合い?」と声をかけた。
「うん。ちょっと」
そう。私は彼女の病人としての面を「知って」いる知り合いなのだ。
決してそれ以上ではない。
けれど、
それだけだけれど、なんだか少し足が軽くなる。
外来で医師の前に座り、病状の相談をする彼女の眉間の皺は深い。
しかし、今日見かけた彼女は、友人と思われる女性との会話に目元の皺が深くなっている。

外来で会う彼女達の姿しか知らない私は、彼女達が元気に楽しそうにしているだけで、
こんなに気持ちが軽くなるのだ。
こんなに簡単に幸せになれる。私達。

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