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【人気投票結果発表SS(未完)】




第一幕「儀式から再び幕は上がり」

「藍さーん」

 ドガッ!

「藍さーん、起きてくださいよー」

 ズキャッ! ベキッ! ちゅどーん!!

「このガキ、ちっとも起きやしないわねー。
 なら、これでトドメよ!」

 スチャッ

「……誰だ。私の眠りを妨げる命知らずは?」
「藍さん、よかったー。まだ生きてたんですね」
「勝手に殺すな。少し昼寝をしていただけだ。
 それより、お前……。後ろに転がっている武器は、なんだ?」
「いや、これで藍さんを起こそうかと……」
「お前なぁ……。私を起こしたいのか殺したいのか、どっちなんだ?」
「どっちでも………。あ、いえ、起こしたかったんです」
「フン……、まあよい。で、何事だ?
 わざわざ私を起こしたからには、何か用があるのだろう?」
「あ、そうでした。
 大変です。七周年記念人気投票の締切が過ぎちゃいました」
「何……いつだ?」
「二年前」
「………ちょっと待て。ということは、なにか?
 私は締切日が来る前から―――つまり二年以上も眠りつづけていたわけか?」
「はい」
「『はい』ってお前……。何故早く起こさん!?」
「だから、こうやって一生懸命起こしてたんじゃないですかー。
 藍さんが寝坊している間に、えらいことになっちゃってますよ。
『結果発表はいつですか?』発言が26回、『集計しておきましたので使ってください』メールが8通、『やる気が無い企画なら最初からするな』メールが12通。『代わりに発表しましょうか』メールが15通……」
「なんだと……?
 キャラクター人気投票企画開催最多回数(多分)を誇る私を差し置いて、代わりに発表しましょうかだと………?
 クックックック…………よい度胸だ!
 その者どもを片っ端から皆殺しにしてくれるわ!
 ハァ〜ッハッハッハッハ!!」
「はい、藍さん。この泉もお供させていただきまーす」


 泉が相方に加わった!








「………と、まぁ、初っ端の軽いギャグはこのくらいでいいかな」
「あ、ギャグだったんですか。てっきりマジだと」
「皆殺しはマズイだろ、皆殺しは………」
「やっぱ半殺しくらいが適当なんですかねー」
「適当ぢゃねぇよ」










 さわやかな秋晴れ。風が心地よく頬を撫でる。
 澄み渡った空はどこまでも高く、白い雲が時折流れていった。
 芸術の秋、読書の秋、食欲の秋………と様々な秋の楽しみようがあるが、このような気候ならばやはり外に出てスポーツの秋といきたいところである。
 普段さほどスポーツを嗜まない者でもそう思わせてしまうような、まさに絶好に人気投票結果発表開催日和だった。

「人気投票結果発表開催日和ってなんですか?」
「うるさいだまれ」
「そもそも、今、何月ですか?」
「とにかくだまれ」

 既に何回目の開催かは忘却の彼方である、この人気投票結果発表大会。
 サクラ大戦のキャラクターの中から、人気No1を決める大会。
 ゲームキャラとはいえ、お客がいる以上人気商売。
 となれば、順位が気になるのも自然の理。
 エントリーされたキャラクターたちは、やはり恒例の帝立スタジアムに集合し、開会を待ちわびていた。
 同様に、観客席もそれぞれの応援団で満ち満ちており、ある意味一触即発な雰囲気を漂わせていた。

「それではただ今より! 阪神タイガース優勝記念人気投票の………あ、違う違う。
 サクラ大戦発売七周年記念人気投票大会を開催します!」

 参加選手、観客席から、怒涛のような歓声があがる。

「まずは選手宣誓! 選手代表、ロベリア・カルリーニ選手!」

 アナウンスの声に導き出されて、ロベリアが欠伸をかみ殺したような表情で現れる。
 マイクの前に立ち、右手を上げた。

「宣誓! アタシたちはスポー…………」

 そこでしばしの沈黙が流れた……と思う。

「…………戦うことを誓います! 選手代表ロベリア・カルリーニ!」

(………あれ、スポーツマン・シップは?)
(正々堂々は?)
(よけーなことは誓わないつもりか……)

「さて、今回の大会におきまして、優勝賞品は!」

 ごくっと固唾を呑む音が聞こえてきそうだった。
 思えばこの大会、散々悲惨な目にあう割りには、イイ目は全くといっていいほどみない。
 そりゃ確かに人気ナンバーワンという名誉もありがたいが、何か副賞があってもいいんじゃないかと思うのも人情である。

「『サクラ大戦V〜さらば愛しき人よ』登場権です!」

「何ぃぃぃぃぃぃッ!?」

 どよめきが走り、驚愕が突き抜け、歓声が沸きあがる。
 サクラ大戦はいわゆる4で大神編が完結し、5以降は新シリーズという触れ込みになっている。
 当然、新ヒロインも設定され、主人公も新しくなるという見通しであった。
 ということは、4以前のキャラクターたちは、再登場できる可能性が極めて薄いということである。
 いや、もちろん回想シーンとかで出番はあるかもしれないが、それではやはり寂しい。
 最低でも話の一話分をメインではるような出番が欲しいのだ。

「ほ、ホントですか!?」
「マジかよ………」
「再登場できるんですね?」
「やったー」

 もう二度と出番は無いかも……と思っていただけに、この優勝賞品は実に魅力的なものだった。

「………ま、優勝できれば、ですけどね」

 非常なアナウンスの声が、全員を沈黙させる。
 たったひとりの勝者のみに与えられる栄光。
 俄然緊張感が増してきた。





「それでは、シード選手である前回優勝者レニ選手、準優勝者さくら選手は、実況解説席までどうぞ。
 あとの選手の方々はその場で待機をお願いします」

 そのアナウンスとともに、一人の少女がさくらのもとに歩み寄ってきた。
 服装と腕章からすると、スタッフなのだろう。

「さくら選手。実況解説席までご案内します」
「あ、はい。ありがとうございます」

 そう答えてから、はっと気付いた。
 周囲のみんなの視線がキビシィ…………。
 それはそうである。
 シード選手であるさくらとレニは、実績があるとはいえ、予選免除という特権が今回ついているのである。
 この大会、毎回毎回予選が最高にくだらない。
 これでもかというほどくだらない。
 どこからネタひろってきてんだって聞きたくなるくらいくだらない。
 それを回避して本選まで進めるというのは、まさに嫉妬と羨望の的。

「さぁ、参りましょう。レニさんもご一緒に」
「ヤー」
「は、はい」

 つめた〜い視線を背中に受けながら、さくらはレニと案内役のスタッフの後を追いかけた。
 スタジアムから屋内へと入ると、目が慣れていないせいか、薄暗く感じられた。
 先を歩く二人のシルエットがぼんやりとする。

「自己紹介がまだでした。今回、予選終了までお二人の案内役を仰せつかっている泉と申します」
「いずみ、さんですか」
「いーちゃんと呼んでください」
「は?」
「初っ端の軽いネタです」
「はぁ………」

 さくらはツッコミのしようもなく、曖昧な返事を返すだけだった。
 レニはレニで、むっつりと黙り込んだままである。
 これは別に人見知りしているわけではなく、単純に愛想が無いだけ。
 昔に較べて明るくなったとはいえ、年がら年中にこにこにこにこしているわけではないのだ。

「ねぇ、泉さん」
「あ、いっくんで結構ですよ」
「……さっきはいーちゃんって云ってませんでした?」
「いの字とか」
「泉さんと呼ばせていただいてよろしいですね」
「残念。でも、呼びやすいように呼んでください。で、何ですか?」

 薄暗い廊下を歩きながら、さくらは泉に問い掛けた。

「今回の予選なんですけど、どういうものなんですか」
「あ、聞いてませんでしたか?」
「ええ、まったく」
「ん、そうですね。毎回予選はビックリドッキリですからね」
「ビックリというより毎回呆れてる」

 レニが初めて口を開いたが、それはえぐるような冷たさを持っていた。

「あー。それは開催者というか実行委員が悪いんですよ。
 深く考えず思いつきで行動するタイプですからね。
 今回は泥鰌と鰻とミミズ千匹入ったケースの中に選手を放り込んで、何秒耐えられるかって」
「………シードでよかった」

 珍しくレニが安堵の溜息をついた。
 さくらに関しても、全くの同感だった。
 どこか遠くで、「ひぇぇぇぇっ!」とか「ぎゃああああああっ!」とか「がびんちょ〜〜〜〜!」という悲鳴が聞こえたような気がするが、さくらは耳を塞いで後ろを振り返らないようにした。





「やぁ、ようこそお越しくださいました」

 泉に案内されて実況用ボックス席に辿り着くと、そこでは満面の笑みの少年が出迎えてくれた。
 泉とほぼ同年代らしい。十代半ばくらいだろうか。

「はじめまして。実行委員を務めている藍と申します。
 予選終了までの間、お二人には解説役なんかをお願いしたいと思いまして」
「あ、はい。わかりました」
「了解」
「それではこちらの席の方へどうぞ。
 ここからですと、競技場が一望できますよ」

 藍に促されて席に向かうと、泉が椅子をひいてくれた。

「ありがとう」

 そう云って椅子に座ると、なるほど競技場が目の前のガラス越しにすべて見渡せた。
 観客席には各ファン団体が詰め掛け、横断幕や応援旗がはためいている。
 特に花組の各ファン団体は派手で目立っており、ここからでもどのあたりが誰のファンなのかわかる。
 さくらは自分の応援をしてくれている集団を見つけて、嬉しいやら恥ずかしいやらだった。
 そこで視線を下の方、競技場の方に目を向けると…………

「あら?」

 てっきり阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていると思っていたのだが、大神もエリカも、誰もいなかった。
 ただ、何かしらの後片付けをしている係員がいるだけである。

「一次予選はもう終ってしまいましたよ。
 百人以上がエントリーしてましたけど、ちょっと予選方法を伝えただけで半分以上が逃げ出しまして」
「………それは、そうでしょうねぇ」

 さくらはひきつった顔で応じた。

「仕方無いので、さらにパワーアップして烏賊に蛸に海鼠に山蛭とかを追加したら、さらに逃げ出されまして」
「なんでそんなの追加したんですか」
「………面白そうだったから、かな?」

 予選参加者は体のいいオモチャ扱いされていたようである。

「ま、結局、逃げ出さなかった方々で規定人数に到達しましたので、予選終了ってとこですね。
 ちなみにグリシーヌさんは頭の上に蛸が乗せたときに卒倒しそうになりましたが、顔色と服の色を同じ状態にして耐えてましたよ。なかなかの精神力ですね」

 よくグリシーヌに斧で真っ二つにされなかったものだと、さくらはある意味感心した。

「それで」

 ここにきて、レニが口を開いた。
 冷静かつ無表情なところはそのままだが、真剣な眼差しである。

「一次予選突破したのは、誰?」
「はい、それをまだお伝えしていなかったですね。泉」

 ぱちんと藍が指を鳴らすと、泉がさくらとレニに一枚の紙を手渡した。
 そこにはずらりと名前が連なっている。

「一次予選を突破したのは、36人。そこに名前が並んでいる通りです」

 さくらは紙片に並んだ名前を確認した。
 どうやら五十音順に並んでいるようだった。


 イザベル・ライラック 
 イリス・シャトーブリアン
 エリカ・フォンティーヌ
 大神一郎
 太田斧彦
 丘菊之丞
 緒方星也
 影山サキ
 加山雄一
 神崎すみれ
 北大路花火
 桐島カンナ
 グリシーヌ・ブルーメール
 コクリコ
 榊原由里
 サリュ
 シー・カプリス
 ジム・エビヤン
 真宮寺若菜
 真宮寺一馬
 清流院琴音
 ソレッタ・織姫
 高村椿
 土蜘蛛
 ナーデル
 野々村つぼみ
 藤井かすみ
 藤枝あやめ
 藤枝かえで
 マリア・タチバナ
 メル・レゾン
 山崎真之介
 米田一基
 李紅蘭
 ロベリア・カルリーニ
 ロランス・ロラン


「これではアミバのトップが防げません」
「はい?」
「いえ、独り言です」
「二次予選が終ると、決勝トーナメントなんですか?」
「そういうことになります。二次予選を通過するのは、6人の予定です。
 さくらさん、レニさんを加えて、合計8人ですね」
「この中から6人………」

 36人。
 さくらは名前を一通り眺めてから、少し思案した。
 順当なところで云うと、その6人は帝都・巴里双方の花組で占められることになるだろう。
 前回までの実績を考えて、それで大きく間違いは無いはずだ。
 ただ、花組は大神を含めて14人。
 それに自分とレニを除いても、12人。
 確率的には半分くらいというところか。

「紅蘭、すみれは外せない」
「……そうね」

 レニも同じことを考えていたようで、予選突破の予想を立てているようだった。
 前回4位の紅蘭、優勝経験のあるすみれは確かに予選突破の可能性がもっとも高いだろう。
 前回の成績順で考えるなら、大神、マリア、織姫、エリカあたりが出てくるか。
 グリシーヌ、ロベリアあたりも油断がならない………。
 カンナ、アイリス、花火、コクリコはどうだろう………。
 まさか帝劇三人娘やメル&シーが出てくるなんてことは………。

「ま、予想は少し難しいかもしれませんね。
 となれば、やはり現実を見るのが一番でしょう。
 そろそろ二次予選の開始です。準備はできてるかい?」
「はい、完了しています。いつでもOKです」

 背後から液晶パネルをタッチしながら、泉が返事をした。

「ぐっど!
 それじゃあ、二次予選を開始することにしましょう」
「それで、二次予選はどんなのになるんですか?」

 またゲテモノフルコースの予選だったらどうしようかと内心ひきつつさくらは尋ねた。
 自分が参加しないとはいえ、それを見るのもたまったものではない。

「さて、それは見てのお楽しみ。
 ………もっとも、直接は見れませんけどね」
「え?」
「さぁ、二次予選を始めます!
 リボルバーキャノンAsian Edition リフトアップ!!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 競技場の中央部分が割れ、そこから姿を現したのは、紛うことなく巴里華撃団凱旋門支部に設置されているリボルバーキャノンであった。
 が、凱旋門ではなく仁王門である。憤怒顔の仁王が向かい合ってその中に立っている。
 このあたりがAsian Editionなのだろうか。
 巨大な仁王門が変形してリボルバーキャノンになる様は、ある意味壮観ではある。
 わざわざ競技場のド真中にこのような設備を作るのも謎だが、それはあえてつっこむまい。
 そうこうするうちに、リボルバーキャノンはメタリックシルバーの銃身と合体し、その威容を見せつけた。
 グリップにはしっかりと「Asian Edition」のシールが貼ってある。

「ま……まさか」
「そのまさか!」

 ガングリップを握り締め、

「リボルバーキャノン! 発射……もとい連射!!」

 カチッと引き金が引かれると同時に、ズガガガガガガガガガガガガッと轟音が響き渡る。
 さくらたちは思わず耳を塞いだ。
 リボルバーキャノンAsian Editionは、「どこがリボルバーなんだ!」とつっこみを入れたくなるくらいの怒涛の連射を行っていた。
 既にマシンガン。
 帝都からはるか西の空へ向かって、弾丸が白煙をたなびかせて消えていく。

「あの……あの弾丸の中身は……やっぱり」

 さくらがおずおずと尋ねる。

「ええ、今大会の参加者を特製ブリッドに込めて発射させていただきました」
「一体何処に?」
「もちろん二次予選会場です。
 日本各地の六ヶ所に会場を設置してありまして、それぞれの会場を勝ち残った選手が、本選へと出場できるわけです」
「六ヶ所というのは、ええと?」
「第一ブロック長野。
 第二ブロック大阪。
 第三ブロック京都。
 第四ブロック和歌山。
 第五ブロック名古屋。
 第六ブロック徳島。
 以上です」
「何か意味があるんですか、その会場に」
「深い意味はありません。まぁ、善意の協力者が各地にいるってことくらいですね」
「はぁ、善意の協力者が」
「この場合の善意とは、”無断でネタにしても許してくれそうな人”という意味です」
「………最低だ」

 そうこう云っているうちに、全ての弾丸が吐き出され、リボルバーキャノンはようやく静かになった。
 合わせて正面のガラスが薄く曇り始め、やがて緑色のディスプレイに変わった。
 浮かび上がるのは、日本列島のワイヤーフレームモデル。
 帝都から放たれた光点が、日本各地へ向かっているところであった。

「あの光の点が先ほどリボルバーキャノンで発射した弾丸です。
 残念ながら、全員無事に予選会場に到達しそうですね」
「残念ながらって………」
「予選方法は、各ブロックで異なります。
 選手の皆さんがどこのブロックに行くのかも運次第。
 さて、誰が再び帝都に戻ってこれますかね………」

 藍の横顔は、実に嗜虐性に満ちた笑みだった。
 さくらは、全員がせめて文字通り命だけでも助かることを祈った。