Book Review 2000
◇Book Index

『アナザヘヴン』飯田譲治 梓河人 Mar 15〜22.2000
[STORY]
発見された死体は首を切断され、脳味噌が取り出されており、犯人はそれを料理して食べていた――連続して起こった猟奇事件を、ベテラン刑事の飛鷹と早瀬が追いかけ、ついに犯人が女子大生の柏木千鶴であることを突き止めるが・・・・。
−◇−◇−◇−
映画を見たあと(感想はこちら)に読んだんだけど、映画のあとで良かったと思う。原作者が映画化した作品なので、小説にふさわしい表現と映画にふさわしい表現とをうまく使い分けているな、と思った(小説ではできても映画では表現できないこともあるし、またその逆も)
全体的に読みやすく、上下巻あっても全く苦痛にならなかった。でも終始同じ人物の視点では描かれておらず、飛鷹になったり早瀬になったり、またある時は犯人になったりするのが違和感あった。これは意図的じゃないような気がするなー。そうせざるを得なかったように思う。

映画では早瀬中心の展開になっていたが、小説では飛鷹がかなり魅力的に描かれていた。彼の妻と娘までもが事件に巻き込まれてしまうあたりは、映画でもやってほしかったくらい緊迫してて良かった。また赤城先生のキャラクターも映画以上にいい。でも早瀬はあんまり好きじゃないなぁ。映画の、ヒーローっぽいキャラクターにもあまりハマれなかったけど、特に小説のほうはいただけない。かなり美形でモテる役で、さらにホモっ気のある描写が多くて脱力した。小説の場合、容姿のよりもその人物のさりげない行動やセリフを読んでカッコイイと思い、勝手にイマジネーションを膨らませてカッコイイ人物に読者が仕立て上げるのが楽しいわけよ(笑)それがいちいち顔が綺麗だとか書いてあるとかえって萎える。だから見た目が悪いと描写されてる飛鷹のほうがカッコ良かったのだ。

それにしても、犯人が脳味噌を食べちゃう設定が、小説では犯人が変わってもきちんと受け継がれていってるのに、映画では柏木千鶴のみになっている。なぜ脳味噌を食べなきゃいけないの?という疑問が分からなくて、ただショッキングな内容にしたかったからなのかなーと映画を見た時には思ったけど、小説ではそれなりの理由があったので一応納得できた。また、肝心のタイトル『アナザヘヴン』の意味も映画を見たときには全く分からなかったんだけど、読んでみてやっと分かった。でも分かったからといって、新たな感動を得たわけでもないんだがね・・・。やはり映画と同じくだんだん甘い展開になっていったのが物足りなかった。
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『クロスファイア(上)(下)』宮部みゆき Feb 14〜18.2000
[STORY]
『鳩笛草』に収録されている「燔祭」の続編。
念力放火能力(パイロキネシス)を持つ青木淳子は、ある夜、不良たちが瀕死の男を殺して廃工場に捨てようとしている現場を目撃する。男を助けようと淳子は不良たちを焼き殺すが、1人を取り逃がしてしまう。瀕死の男から、恋人も一緒にさらわれたことを聞いた淳子は、彼女を助けようと少年の行方を追った。
−◇−◇−◇−
映画公開前に読んでおかなきゃと思い、ようやく読了した。最近、本読んで泣いてばっかりだな(苦笑)下巻では特に各所で泣かされた。『鳩笛草』では表題作や「朽ちてゆくまで」が好きで「燔祭」に関してはあまり印象に残らなかったが、この作品では異能力を持った青木淳子の悲しみや、未成年者の犯罪等が力強く描かれている。

そしてその事件に関わるようになる中年女性刑事石津ちか子と、念力放火能力を信じる牧原刑事、淳子と同じ能力を持つ少女倉田かおり、そして淳子の力を利用しようとする謎の組織などが絡んでくる。物語は淳子の視点からとちか子の視点の2点から描かれるが、ちか子がバリバリのキャリアウーマン的刑事ではなく、世話好きなおばさんぽく書かれているのが好感が持てる。まさに炎のような淳子の意思や決意が伝わる緊張した文章を読んだあと、お風呂にちょうどいいお湯のようなほんわかした雰囲気を持ちながら、的確な行動を取るちか子を表現する文章。この繰り返しで物語をぐいぐい引っ張って行くところは流石だ。

少年犯罪や、罪が問えないような犯罪については、法改正によってもうちょっと厳しくして欲しいと思う。拉致監禁だってたった懲役10年なんだもん、腹立つよ。正直言って、淳子が犯罪者達を次々に燃やしていくシーンは、読んでてすっきりした。さらにもっとやっちゃえ!とさえ思った。まるで自分が裁いてるような気分。その瞬間は、淳子のことを人間だと思ってなかったと思う。だから彼女が迷いだして「あれ?」と思い、そして「1つのことを除けば自分と同じ人間じゃないか」と気づかされ辛くなった。詳しくは書けないけど、彼女が普通の女の子らしくなるところで涙がこぼれた。

欲を言えば、組織についてもっと詳しく知りたかったが、これが中途半端な印象を受けた。そしてかおりについてもね・・・。続編があればいいけど(ってもうこれ以上はないかしら)

◆映画の感想はこちら
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