Book Review 2001
◇Book Index

『ハリー・ポッターと賢者の石』J.K.ローリング Dec 1〜2.2001
[STORY]
両親をなくしたハリー・ポッターは意地悪な伯母家族に引き取られ、10歳までいじめられながら育った。そして11歳の誕生日を迎えようとしていたある日、ホグワーツ魔法学校から入学許可の手紙が届き、自分が魔法使いであることを知る。ハリーは両親の遺産で魔法学校に入学できることになり、ホグワーツ行きの汽車に乗り込んだ・・・。
−◇−◇−◇−
世界中で大ベストセラーとなった作品。今更だけど読みました。4作出ているうち、とりあえず1作目だけね。これ読んだだけだと、なぜこれがこんなにヒットしたのかあまりよく分からない。確かに読みやすくて面白いけど、夢中になるほどじゃないかな。・・・年か?(笑)

文学というほど堅苦しくなく、魔法使いの話なのに現代的な雰囲気。伯母の家でいじめられながら育つという設定は、今だと虐待だと騒がれそうな気もしますが(笑)全寮制の学校での生活、人気スポーツの花形選手になる、なんてビバヒルみたいな世界が好きな人はすごく好きだと思うし(現に映画化するにあたってハリウッドのハイスクールを舞台にしたいという希望まで出たそうだ)
また魔法使いのほかにトロール、ドラゴンも出てきてまるででR.P.G.の世界だなあと思ったら、後半の、悪と戦うシーンではR.P.G.そのもののような展開だった。これはゲーム世代ならハマルかも。

そのかわりといっちゃなんだが、読みやすいおかげか物語に深みがなく奥行きを感じない(笑)人物にしてもそう。生まれて間もないというのに魔法界の英雄となってしまったハリー。そんな彼がちやほやされないようにと魔法学校の校長はマグル(人間)の家庭に彼を託す。この設定には無理がないし、なるほどと思った。でもそれが彼の性格にどんな影響を及ぼしたんだろう?普通あれだけ虐待されれば屈折しちゃわないのかなぁ。両親の死や闇の魔法使いの存在などで、少なくとも彼自身に少しは影がさしていなければならないと思うんだけど、それが見えなかったね。さらに学校に入ってから急に注目の的となってしまうのに、戸惑いだとか嬉しさだとかそういうのも見えない。なんか全体的にハリーの性格というのがとても曖昧な気がするんですよ。同じ生徒でもハーマイオニーやマルフォイのほうが類型的と言われればそれまでだけど、よっぽども生き生きして見えるのね。2作目、3作目と読み進むうちに見えてくるのかもしれないけど、1作読んだだけでは分かりませんでした。そこが一番のめり込めなかった理由かもしれない。
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『こんな映画が』吉野朔美 少しずつ読んでたので特に日付は記せず
[EXPLANATION]
少女漫画家である著者が雑誌で連載していた映画コラムを1冊の本にまとめたもの。イラスト付きのものから文章だけのものまで全部で105本の映画を紹介をしている。
−◇−◇−◇−
この人の漫画は実は読んだことがありません。だからファンだとかそういうんじゃないんだけど、映画の感想が絵入りで書いてあるというところと(石川三千花のも持ってたりする) 自分が見た映画がかなり紹介されているからだった。あとで数えてみたら105本中55本と、だいたい半分だったんだけど。でも2本に1本と考えるとかなり確率いいかな。

全体的に語り口はやわらかで分かりやすい。イラストも。ただイラストは思ったよりもちょっと・・・はっきり言って全然似てねーのよ(失礼すぎ(笑))それにあんまし面白くもない。石川三千花のほうが笑いは取れてる。

どの映画に対しても“愛”を感じる。どういう“愛”かは映画によって違うけど、人から強制されて見たわけじゃなく、自分が選んで見たものだから愛してやらなくちゃ、って感じかな。まぁ本当にダメダメだったものは書いてないだろうから、ほんの一部分でも面白いとか好きだと思えるところがあれば、それでもういとおしい――そんな風に思っていそうだ。読んでるこっちに映画を見ることの楽しさを改めて気づかせてくれるのだ。

そんなほのぼのした中で、たまに鋭いことが書いてあったり「なるほどね」と思わせる表現がある。例えばこんな文。
(前略)改めてやっぱり大きいスクリーンはいいなあと思います。映画の中に取り込まれるような気持ちになれるからです。(中略)でもやっぱり画面が小さいとそれは難しい。ビデオだとつい電話が掛かってきたら取っちゃうし、お茶なんかも入れちゃったりしてしまいますからね。あれはきっと自分よりも小さいから甘く見てしまっているんだと思うな。(本文87ページより)
そうなのそうなのこれなの!(興奮)私がビデオで映画を見るのがあまり好きじゃないのはこれなのだ。同じ気持ちさ。なんかこれ読んだだけでもう今すぐ映画館に行きたくなりましたよ(笑)

見てない映画の中で、これはぜひ見てみたい!と思ったのはハル・ハートリー監督の『フラート』だった。ビデオ出てるかな。

追記(2003.9.25)
たまたまCSで『フラート』をやっていたので見ました。・・・うーーーーん。
ニューヨーク、ベルリン、東京。3つの都市で、同じようなシチュエーションで登場人物たちが同じようなセリフを喋るというオムニバス映画。NYとベルリンの話は風変わりだけどなかなか楽しめた。でも東京編は「やっちまった」って感じ。典型的なダメ邦画(セリフ棒読みで意味不明な展開で独り善がり)を見せられてるようで、何故かとても恥ずかしくなってしまった。NYやベルリン編も言葉の違いに騙されてるだけで、言葉が分かればやっぱり恥ずかしく思ったのだろうか?
どうでもいいけどこの映画のビル・セイジはえらいカッコイイな。素晴らしく綺麗で目の保養になった。
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『模倣犯 上・下』宮部みゆき April 23〜May4.2001
[STORY]
過去に家族を殺され1人生き残った少年が、公園で女性の右腕を発見した。一方、そのニュースを知った豆腐屋の主人は、その右腕が失踪した孫娘のものではないかと思い警察に確認するが、別人であることが分かる。しかしその後の調べで、孫娘のバッグが同じ場所から発見されたことから、彼女もまた何らかの事件に巻き込まれた可能性が出てきた。そんな時、豆腐屋の主人の元に犯人と名乗る男から電話が掛かってくる・・・。
−◇−◇−◇−
本の感想を書くのは久しぶり。ちょこちょこ読んではいたんだけど、感想を書きたくなるような本がなくて。でも、これはもう書かずにはいられない作品でした。

直木賞を受賞した『理由』も読んだんだけど、正直言って私はこれはあまり面白いと思わなかった。彼女には他にもっと面白い作品があるはずなのに、どうしてこれが選ばれたんだろう?って思った。半分くらい読んだ時点で一度止まっちゃって1週間程ほったらかしに、それくらい引き込まれなかった。しかし『模倣犯』は止まらなくて、重たいのに通勤にも持ち歩いてました・・・おかげでバッグを掛けてた鎖骨のあたりを痛め湿布を貼ったほど(笑)でも痛くても何でも読みたかった。そんで今言いたいのは「文庫落ちを待ってなくて良かったー!」かな(笑)高かったけど早く読めてかえって得した気分。

ある殺人事件の被害者と加害者、そして警察やマスコミと様々な方面から描いたストーリー。いつも宮部さんの作品て(全作品読みきったわけじゃないけど)ほのぼのしてるというか、語り口が柔らかい印象があるんだけど、こういう作品も書けるんだと非常に驚いた。特に加害者側から描かれた第2部は読んでて苦しかった。

また、被害者の家族、そして加害者の家族の描写も苦しくてやりきれない。現実もこうなんだろう。つい最近、やはり女性が殺された事件をニュースで見たが、被害者のご家族の言葉に胸を痛み、加害者の自宅前から中継するという無神経さに腹を立てた。けれども、やっぱりどこかで事件を興味本位で捉えてしまう自分がいるんだよね。結局、自分に降りかかるまでは所詮他人事なのだ。この作品ではそういう部分にも触れられている。読み進めていく途中途中で問題を投げかけられ、そのたびに自分がそれぞれの状況に立たされた時のことを想像してしまう。物語にのめり込む、というのはこういうことを言うんだな。

不満もある。長い割には最後はトントン進みすぎて物足りない。もっと地道な捜査で犯人を追い詰めていくのかと思っていたら、いい具合に偶然が重なったり大きな賭けに出て成功したりと、ご都合主義と言われても仕方ない展開になっている。ただし、タイトルの『模倣犯』の意味が分かった瞬間だけは「おお!」と声を上げそうになった・・・けど、ちょっと劇的すぎるというか古畑任三郎チックじゃないですかね(笑)

でもそういう不満を凌駕するほどの展開が最後のほうにあった。恥ずかしながら泣かされてしまったのであります(笑)ある人のたった一言のセリフで。まさか声に出して泣くとは思わなくて自分でもびっくりしたなー。
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