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 サーティワン・キングダムは晴樹にとってどうやら「当たり」のようだった。それまではネットサーフィンをしたり、ラジオを聴いたりして有り余る時間をつぶしていたが、この新しいゲームを目の前にして他のことをしようという気にはならなかった。
 この日はいつも通り昼過ぎに目を覚ますと、すぐにサーティワン・キングダムを起動させた。
 今日も昨日と同じエリアでモンスターとの会話を極めるつもりだった。
 実の所、昨日の場所に行けばまた彼女に会えるかもしれない、という期待が晴樹にはあった。会えたからといってどうということはないのだが、引きこもって対人関係が限りなく縮小し、なおかつ声の出ない晴樹にとって、ゲーム上であってもまともな会話は極めて貴重なものだった。
 しかし、だからといって全く見ず知らずの人間に自分から話しかけようという気にはなれなかった。昨日彼女と会話を持てたのは、状況やタイミングが奇跡的に良かったからとしか言いようがなかった。
 昨日の場所へはすぐに到着した。だが、そこは様々なモンスターが徘徊しているだけだった。
 それでも晴樹はそれほど気落ちしたわけではなかった。行動する時間帯は当然人によって違うし、毎日ログインしてくるとも限らないのだから。それにこのエリアを選んだのは、極端に人が少なく、他人の目を意識する必要がないからでもあった。
 とりあえず弱いモンスターを相手に会話のコツをものにしようとHARUは相手を探し始めた。
 昨日の経験から、低級の弱いモンスターの方が会話は成立しやすい、という仮説を立てていた。つまり、経験の少ない内はあまり強いモンスターは相手にしてくれないに違いない。何事にも積み重ねが重要ということだ。
 HARUの視界の範囲には数匹のモンスターがうろついていたが、その距離では相手の姿は分からなかった。
 一番近くにいるモンスターに後ろから近づくとHARUの腰ぐらいの高さだった。最初の相手にぴったりだった。

HARU>>やあ、調子はどうだい?

 HARUの言葉を背中で受けたそれは、くるりとHARUの方を振り向くと、いきなり大げさにしゃべり始めた。

KURORO>>よかったです〜 やっと人に会えたのです〜
KURORO>>ボク、クロロです〜 よろしくなのです〜
KURORO>>誰もいなくてさびしかったです〜 
KURORO>>一緒に冒険してくださいなのです〜


 思わぬ返答にHARUは面食らった。目の前の小さな生き物はモンスターなどではなく、HARUと同じように人が操作しているプレイヤーキャラクターだった。言われてみれば、その黒い二頭身の姿はニームという種族のものだった。ニームは過去の偉大なる種族に仕えていた人工種族という設定で魔法を得意としている。街でも何人かのニームを見かけていたが、その愛らしい外見とよたよたと歩く様は、癒し系の称号を受けるにふさわしかった。
 間違えて声をかけてしまったばつの悪さからHARUは返答に窮してしまった。こっそり調べるコマンドを使って相手のレベルを調べると、HARUと同じ「レベル1」という表示が現れた。つまり、相手も同じ初心者ということだ。
 相手の申し出にどう答えようか迷っていると、彼はその大きな頭を左右にふりふりしてHARUを見上げ、さらに熱く語り始めた。

KURORO>>道に迷っちゃったのです〜
KURORO>>一人だと心細いです〜
KURORO>>ここで出会ったのも何かの縁なのです〜 
KURORO>>一緒に遊んでくださいなのです〜
KURORO>>お願いなのです〜


 どうにも押しの強い相手だった。しかし、なぜ語尾がのびまくりなのか。晴樹はその点がどうにも気になって仕方なかった。無論、ロールプレイングというゲームの性質上、そういう性格を演じているのだと思えば我慢できなくもなかったが、晴樹の好むタイプでないことは確かだった。プレイヤーが本当に小学生か中学生という可能性もある。けれど、こんな平日の昼間からログインしているとなると、案外大学生や自由業の大人なのかもしれない。あるいは晴樹と同じ引きこもりの可能性だってゼロではない。勿論、ネットで相手の素性を詮索するのは意味のないことだと晴樹は理解していた。
 この場合、問題は他人と一緒にプレイすることに晴樹が耐えられるかどうかということだった。他人の存在を常に隣に感じることは少々鬱陶しいように思えた。
 しばらくすると、KUROROは話すのをやめ、天使の輪のような青いアイコンを頭の上に表示させた。パーティ結成を求める意思表示である。パーティを組むと、ひとつのユニットとして戦闘ができたり、パーティ内だけの会話モードが使えたりできるのだった。
 晴樹は強引にパーティを組もうとする相手に対して頭を抱えた。晴樹にはそれだけでプレッシャーだったが、それを断るにもそれ相応の決意が必要だった。

KURORO>>お願いです〜 見捨てないで下さい〜

 短い手足をじたばたさせて哀願する相手にとうとう負けて、HARUは渋々ながらパーティを組むことにした。
 すぐにHARUの画面に次のような表示が出た。

KUROROからパーティの勧誘を受けました。
パーティに入りますか? イエス/ノー


 晴樹は重い気分でイエスを選択した。
 すると、早速パーティ内会話でKUROROが挨拶をよこしてきた。

KURORO>>よろしくなのです〜
HARU>>こちらこそw


 それから再び彼の話を聞くと、彼はこのゲームを今日始めたばかりとのことだった。

KURORO>>HARUさんの方が一日先輩なのですね〜 運命を感じるのです〜
KURORO>>一生HARUさんについていきますのでヨロシクなのです〜
HARU>>一生はやめてw


 晴樹は相手のすりよりにため息をついたが、後の祭りだった。今更、パーティを解散するというのも無理がある。というかどう切り出していいか分からない。というよりそんなにきっぱり言えそうになかった。しばらくはおとなしく彼の相手をするしかなさそうだった。
 しかし、晴樹の予想以上にその押しかけ相棒はよくしゃべった。とにかくしゃべった。これでもかというぐらいしゃべりまくった。

KURORO>>ホントに困ってたのです〜
KURORO>>他の人は話し相手になってくれないで、すぐモンスター狩りに行っちゃうのです〜
KURORO>>これってそういうゲームなのですか。KURORO的にはもうちょっとのんびり行きたいのです〜
KURORO>>こうして話してるだけでも経験値はちゃんともらえるのです。すごいのです、おしゃべりばんざいなのです。
KURORO>>ちなみに今、経験値96なのです〜


 他人が話し相手になってくれないというのはウソだと思った。きっと一方的にしゃべりまくったせいで相手はうんざりして逃げていったに違いない。

KURORO>>ところで、HARUHARUはこんなところで何やってるのですか?

 ……それは誰。

HARU>>HARUHARUはかんべん。
KURORO>>え〜、かわいいのです〜
HARU>>かわいくなくていいから。
KURORO>>HARUるん
HARU>>・・・
KURORO>>HARUるーん
HARU>>いや、HARUるんも、ちょっと
KURORO>>HARUるーんるーん


 晴樹はあきらめた。どうやらこの生き物は放し飼いにするしかなさそうだった。
 晴樹は自分の神経がやられる前にまともな会話に戻そうと試みた。

HARU>>今モンスターと会話してたとこです。
KURORO>>おおお、スゴイのです〜
KURORO>>一体全体どうやるのですか〜


 彼もまた昨日の彼女と同じように大げさに驚いた。モンスターとの会話はそんなに人気がないのだろうかと、晴樹としては大いに頭をひねるところだった。
 HARUはできるだけ弱そうなモンスターを選んで会話して見せた。結果は失敗に終わったが、戦闘にはならず、モンスターはそのまま二人の前から立ち去っていった。
 KUROROは激しいリアクションでそれに応えた。

KURORO>>ほわ〜、すごいです〜、ほんとにモンスターとしゃべれるのです〜
KURORO>ボクもやってみたいのです〜


 二人はパーティを組んだまま、一匹ずつ交代でモンスターに話しかけることにした。
 だが、押しかけパートナーは晴樹が思った以上にお調子者だった。引くことを知らない、いや、そんなことは彼の思考回路にはないかのようにひたすらバシバシとクリティカルな言葉をつっこむのである。晴樹としては冷や汗ものである。晴樹は横から何度もモンスター会話のコツを言い聞かせたが、理解したのかどうか、彼の行動に変化はさっぱり見られなかった。
 KUROROがモンスター七匹との会話を戦闘なしで無事に切り上げられたのは端で見ている晴樹にとって奇跡であった。
 だが、その奇跡も永遠には続かなかった。

KURORO>>それはやっぱり食べすぎじゃないのですか〜 少しはダイエットした方がいいのです〜
HARU>>(だからそんな言葉、モンスターは分からないってば)
オーク>>……
KURORO>>よければピーマンダイエットを教えてあげましょうか。結構効くですよ〜
HARU>>(もっとシンプルな言葉で)
オーク>>…………
HARU>>(何か、ヤバそうだ、逃げた方がよくない?)
KURORO>>HARUるんは慎重派ですね〜)
KURORO>>(大丈夫なのです〜) 
KURORO>>(ためになる話をしてあげてるのにいきなりおそいかかってくる人はいないのです〜)


 だが、相手は人ではなく、モンスターだった。オークの口から不満げな唸り声がもれ聞こえたかと思うと、それは突然大声になり、HARUとKUROROは次の会話をする間もなく、オークとの戦闘に突入した。

オークは怒った。
オークのボディアタック>>KUROROに41ダメージ
KUROROは死亡した。
オークのアイアンクロー>>HARUに56ダメージ
HARUは死亡した。


 訂正。それは戦闘という立派なものではなかった。一方的に殴られ即昇天。わびもさびもあったものではない。 
 オークは二人が死んだことを確認するかのように、地面に倒れ伏した二つの死体に鼻を近づけ臭いをかぐと、納得したのかそのままどこかへ行ってしまった。その仕草のリアルさが余計に晴樹をブルーにした。

KURORO>>アハ、やられちゃいました〜

 死体になったにもかかわらず信じられない脳天気さでKUROROは言った。やられて当然である。ピーマンダイエットなんか糞食らえである。どうして自分までまきぞえを喰らわねばならないのか。晴樹は自分の忠告をきかない相手に少々むかついてきていた。どうやら彼との冒険は今回限りにした方がよさそうだ、とそう考えていたところ

KURORO>>ごめんなさいなのです〜
KURORO>>まさか一緒に殺されるとは思わなかったのです〜
KURORO>>今度から気をつけるです〜


 調子のいい奴だと思ったが、これ以上彼を憎めそうにはなかった。それがニームという種族の強みなのだが、まあそれはそれでやむをえないことだ。そう思い直し、晴樹は内心で肩をすくめるだけですませることにした。

HARU>>パーティを組んでる時は、無謀な行動はつつしむこと。ホントにおK?
KURORO>>おkおKなのです〜


 二人は冒険を続けるため、そろって復活コマンドを使用した。これを使うとそれまでに得た経験値がわずかに減るらしいが、永遠に死んだままだと当然ゲームは進まないので仕方がない。
 派手なエフェクトに包まれ、感動的に復活すると、二人はその後もモンスターとの会話をやり続けた。
 夕方六時半を回ったところで、KUROROが体力の限界を訴えた。

KURORO>>今日はもう限界なのです〜
KURORO>>また明日も遊んでくださいです〜 バイバイです〜


 既に六時間ぶっ続けでゲームをしていたが、晴樹の限界はまだまだ先だった。全く疲労を感じていないといえばウソになるが、ダウンするほどのものではない。KUROROと別れてから、目薬を差して十分ほど小休憩を取ると再スタートに万全の体勢となった。
 相変わらず人のいないそのエリアでHARUはモンスターとの会話を再開した。勿論、慎重に慎重にである。
 そのおかげで、再スタートから十二匹と話し、会話が途中でとぎれたもの七、情報をもらえたもの二、アイテムをもらえたもの二、軽く殴られはしたが逃げきるのに成功したもの一、とまずまずの成果を得ることができた。
 ただ、得られた情報は「タナール山脈にはお宝が眠っている」とか「オークの王はヘビの串焼きが大好物」とか、だからどうしたといった感じのもので、獲得アイテムも【たきぎ】と【さびたカブト】と、いかにも役にたたなさそうなものだった。やはり弱いモンスターからは大したものは得られないようだった。
 そして十三匹目との会話でその好調は一転した。
 モンスターの機嫌は明らかに悪そうだったが、晴樹は会話を切り上げるふんぎりがつかず、完全にモンスターを怒らせてしまったのだ。勿論、今のHARUが勝てるようなモンスターなどいようはずもなく、逃げようとしたが後ろから三回殴られあっさり死亡した。
 今日二度目の死亡に晴樹はため息をついた。集中力の欠如はゲームの大敵であることを痛感させられた。
 ブラインドを閉めっぱなしの窓の外から、いつの間に降り始めたのか、激しい雨音が聞こえてきた。
 もう一度ため息をついてモンスター会話の経験値を調べると、四一になっていた。レベル1になるには経験値を一○○ためなくてはならない。死亡して復活コマンドを使うと、またポイントは減ってしまう。死んでばかりだと永久にレベルアップしないということもあり得なくはない。
 ひゅう、と晴樹は下手な口笛を吹いた。取りあえず、なるべく死なないようにしなくては、そう思ってマウスを持ち直した。
 画面を見ると誰かがHARUの死体を上からのぞき込んでいた。白い鎧に青いマントに長剣。それは見覚えのある姿だった。
 彼女はしばらくHARUを見続け、それから魔法を詠唱し始めた。長い呪文の後、HARUの画面にメッセージが現れた。

復活の呪文を受け入れますか?
イエス/ノー


 晴樹は戸惑った。復活の呪文というのは初耳だった。生き返ることには違いないと思うのだが、復活コマンドと何が違うのか。いくらかの不安はあったが、傍らでたたずむSARAHの姿を見て晴樹はイエスを選んだ。
 すると、画面の中のHARUの体はまばゆいエフェクトに包まれた。復活コマンドよりも随分派手である。光の球が何重にもHARUを包み死の匂いを消し去ってゆく。そして、HPゲージとMPゲージが全回復しHARUは生き返った。経験値は少しも減っていなかった。どうやら魔法で生き返ると経験値は減らないようだった。

HARU>>ありがとうございました。
SARAH>>今日もモンスターとお話しですか?
HARU>>はい。今日もやられてしまいましたw
SARAH>>……戦闘スキルも上げた方が安全だと思うけど、狩りはやらないの?


 彼女のいうことにも一理あった。確かに、会話に失敗する度に殺されていたのでは割に合わない気もする。そんな場合に備え、相手をやっつけられるか、少なくとも逃げ延びられるだけの体力をつけておくことは有効なことのように思えた。しかし……

HARU>>あまり、興味ないのでw

 他人にはそうとしか言いようがなかった。

SARAH>>そうなんだ。

 会話に間ができた。話は一段落ついていた。ここで別れても何の不思議もないはずだった。
 けれど、なぜか晴樹はその場を立ち去りがたかった。
 別に相手の美人なキャラクターにひかれてるわけじゃないぞと、晴樹は自分に言い訳がましく言った。運命的な出会いだと思ってるわけでもないし、ここからの劇的な盛り上がりを期待しているわけでもない。そもそも女性キャラを操作しているのが女性とは限らないことも晴樹には分かっていた。けれど、このまま別れるのは何だか違う気がした。
 さんざん迷った挙げ句、同じように立ちつくしていたSARAHに向かって晴樹は自分から言葉をかけた。

HARU>>このゲーム、長いんですか?
SARAH>>それなりです。
HARU>>戦闘タイプのキャラですよね?
SARAH>>血生臭い人生ですw
HARU>>モンスターとの会話は本当にやったことがないんですか?


 全部質問ばかりだと思って、晴樹は自分の会話スキルの低さが情けなくなった。

SARAH>>戦い一筋、かなw
HARU>>徹底してますね。格好いいです。
SARAH>>そんなことないですよ。でも、稼がないといけないから。
HARU>>上級者も大変なんですね。
SARAH>>一つだけアドバイスいいですか。
HARU>>是非お願いします。
SARAH>>アイテムとかが手に入ったら、お店に売って、そのお金で装備を整えた方がいいですよ。そうすれば少しは死ににくくなるでしょうし。
HARU>>その通りですね。そうします。


 HARUの装備は先日のモンスターにやってしまったままだった。初心者丸出しのプレイスタイルであったことが今となっては顔から火が出るほど恥ずかしかった。

HARU>>SARAHさんは、パーティは組まないんですか?
SARAH>>時間帯によります。夜はもっぱら一人で戦闘マシーンw
SARAH>>HARUさんはパーティはもう組んでみました?
HARU>>さっき押しかけニームに強引に組まされました。
SARAH>>押しかけ、ですかw
HARU>>やたら口数の多いニームでした。


 そう言いながら晴樹も自分がいつもより随分多言になっているのに気がついた。知らない相手にこんなに話せることが嘘のようだった。もっとも、それもネットゲームの世界だからこそなのであるが。

SARAH>>いいですね、そういうの。
HARU>>まあ、ニームですから。ぎりぎり許容範囲内ですw
HARU>>ところで、このエリアはどうしてこんなに人が少ないんですか?


 急に会話に間ができた。

SARAH>>どうしてでしょうね。

 その間に晴樹は違和感を感じはしたが、それほど気にもとめなかった。
 その後も会話は弾んだ。と言っても、ほとんど先輩格のSARAHが初心者のHARUに手ほどきをするという、ゲームのシステム等についての会話だった。使い方の分からないコマンドや、それぞれのモンスターの特徴や、いざというときの有効な逃げ方等々。

SARAH>>あ
HARU>>どうしました?
SARAH>>雷


 晴樹の耳にも雷音が聞こえていた。それはゲームの効果音ではなく、リアルの雷鳴だった。

HARU>>こっちも落ちてる。ひょっとして、関東ですか?
SARAH>>東京。
HARU>>おお、同じですね。こちら杉並です。
SARAH>>近くですね。
HARU>>さすが東京、ゲーム人口が多い。
SARAH>>あ
HARU>>雷、近くに落ちました?
SARAH>>いえ、もう時間が……


 彼女と話し込んでから既に一時間以上が経過していた。

HARU>>すみません、長々と話し込んでしまって。
SARAH>>今日はまだ全然経験値もお金も稼いでないw これから今日の分のノルマを達成しないと。


 ノルマと聞いて晴樹は少し驚いた。ゲームの中でそんな言葉を聞くとは。だが、レベル99にもなると、シビアなプランが計画されているのかもしれない。

HARU>>ええと……あの、これ、少しでも足しにしてください。

 HARUはSARAHに【オークの黒真珠】を差し出した。
 だが、SARAHは笑顔のモーションを出して首を横に振った。

SARAH>>いえ、大丈夫ですよ。
SARAH>>せっかくがんばってHARUさんが手に入れたんだから、HARUさんが有効に使ってください。


 そう言われたからといって、晴樹も簡単には引き下がれなかった。

HARU>>もらってください。
HARU>>SARAHさんには前回も助けてもらったし、今回も生き返らせてもらって、いろいろ教えてもらったし…… 少しはお返しをしたいです。


 彼女は一時の逡巡のあと、もう一度笑顔のモーションを出した。

SARAH>>じゃあ、ありがたくいただきます。

 彼女は早速その【オークの黒真珠】を首に装備して見せた。
 晴樹は何だか気恥ずかしい思いがしたが、それでも悪い気分ではなかった。
 彼女と別れると、疲れがどっと出た。十四時間以上の連続プレイはさすがに限界のようだった。
 押しかけ相棒に、ミステリアスな上級者。サーティワン・キングダムはまだまだ晴樹にとって刺激的な世界だった。

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