拡張性の功罪

 今回はMTGの特徴の一つとして上げられる拡張性について考察してみたいと思います。
 つまり、次から次へと新しいカード(及びシステム)がエキスパンションとして追加され、基本セットも時間とともに入れ替わるということです。MTGはその初期から拡張性とペアになって育ってきましたので、拡張性はMTGに不可欠な特質だと考えているユーザーも多いのではないかと思います。

 これはMTGというゲームが一企業(個人)が商用に開発したことに大きな要因があるのではないかと思います。拡張性は商業主義と相性が良いのです。
 将棋・碁・チェス・トランプ・花札といった対戦ゲームを想像してみてください。これらのゲームでは新しいパーツが新規発売されるというようなことはありません。これらのゲームは一企業が創設したものではなく歴史的に成立してきたもので、現在も一企業がゲームシステムの決定権を持っているのではないからです。

 このように一見商業的判断として採用されてきたように思われるMTGの拡張性は、果たしてMTGというゲームにとって必須条件なのでしょうか。

 まず、MTGのゲームとしての特徴を先ほどの歴史的対戦ゲームと比較してみましょう。 (トランプには数多くの遊び方がありますが、対戦ゲームとしてMTGとイメージの近いポーカーを想定します)(将棋もいわゆる本将棋ってやつです、挟み将棋や回り将棋や将棋崩しじゃなくってw)

・MTGでは自分のリソース(資源:ここではカードとか、駒とか)も対戦相手のリソースも固定化されていません。自分と相手のデッキの中身はほとんどの場合異なっていることでしょう。将棋・チェスでは同じリソースを用いますし、トランプでは、共通の山札からランダムに分配します。
・MTGではドローの不確実性によって対戦状況が変化します。トランプもMTG同様ですが、チェスや将棋には不確実性はありません。あえて挙げるなら「プレイヤーの気分による判断」でしょうか。
・MTGのルールは、他のゲームに比べて複雑だといえるでしょう。覚えなければならないことはかなり多いです。また、カード種が固定されているなら難しいパターンは限られてくるはずなのですが、拡張性がMTGのルールの複雑さを増長させているとも言えます。


 
MTG
トランプ
将棋・チェス
リソース
激しく可変
緩やかな可変
セットは固定
固定
対戦の流れにおける
不確実性
ルール
複雑
簡単
簡単


 これらからMTGがどのようなゲームかをおおざっぱに判断すると、トランプと将棋・チェスの間に位置すると言えるのではないでしょうか。不確実性を高くしている分(運げー要素が強く)、完全な知的ゲームにはなりえず、かといって、リソースもルールも複雑でなので気軽な娯楽には成り得ない。悪く言えば非常に曖昧な、よく言えば微妙なバランスの上に成り立っていると言えます。
 つまり、MTGはもともと、気軽なプレイを許さない仕様になっていると言っていいのではないかと思います。つまりやる気のある相手同士の対戦という点に特化したゲーム なのです。
 そして、そこには拡張性が必要不可欠である理由は見いだせません。

 では、もし拡張性がMTGから排除され、「環境」がずっと変わらなかった場合、どうなるのでしょうか。
 MTGでは新しいカードやシステムが追加されることにより、新しいデッキタイプやコンボが登場してきますが、それがなくなるわけですから、当然基本のデッキのアーキタイプが固定化されることになります。ただし、デッキの細かいパーツは個人によってチューニング可能なままですが、アーキタイプが研究されつくされているのでデッキ構築の面白みは半減するでしょう(マイナス要因)。環境はメタがぐるぐるまわるだけになるでしょうし、そこではプレイ技術が今よりも追求されるゲーム、プレイを楽しむためのゲームとなるのではないでしょうか(プラス要因)。

 同じ環境でずっとプレイしているとつまらなくなると考える方もいるかもしれませんが、それなら将棋やチェスはとっくに廃れていてもいいはずです。これらのゲームとの差異である不確実性が長期間同一環境でのプレイを陳腐化させる可能性も排除できませんが、あえてここでは目をつぶり、同じ環境でやり続けても面白いと考えます。
 もう一つ想定できる大きなプラス要因として、プレイヤーの経済的負担が軽くなるということがあります。永遠の拡張性は永遠の経済的負担と同義なのです。また、これにより一旦遠ざかっていたプレイヤーが復帰しやすくなることも容易に想像されます。復帰しようと思っても環境が変わっていて使えるカード資産がないということがなくなるのですから。また新システムも導入されることなく、知的な努力を強いられることもないでしょう。

以上をまとめると、拡張性は

・デッキ構築の面白さと環境変化の面白さ(物量的刺激)

を与えている代わりに

・ユーザーに敷居を高くしている(ルールの複雑さ・経済的負担・ゲーム成立の容易さの拒否)

と言えるでしょう。
 これらを比較した場合、現在のままの拡張性には問題があると青峰は考えますが、皆さんはいかがでしょうか。実際、ウィザーズ社でも新たに出すカード枚数などの見直しを始めているようなので(参照 http://www.hobbyjapan.co.jp/magic/articles/files/20030718_01.html)、将来どのように変わっていくかが注目されます。MTGは変わってゆくゲームなのです。


 実はもうひとつやっかいな特質がMTGにはついています。「トレーディングカードゲーム」と言われるものです。これはどういうことかというと、一人が普通に買っていてはすべてそろえるのが無理なほどたくさんの種類のカードが存在していて、足りないカードはトレード(交換)で手に入れようという概念です。この概念からすると、拡張性はこの概念に非常になじむといえます。ですが、これは「トレーディング」という特質が存在していると考えるより、購買意欲をかき立てる新商品を次々に提供するという商業戦略を言い換えただけの概念であり、ゲーム本来の特性とは異なると考えた方が適当ではないかと思います。
 ちなみに商業主義そのものが悪いとは青峰も考えていません。ゲームそのものとユーザーをないがしろにする行きすぎた商業主義でなければ、それは必要不可欠なものだと思います。

 


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