シャークから尺へ

□What's Shark?
 シャークという言葉を御存知でしょうか。「サメ」のことではありますが、MTG界でシャークと言えば、サメの如く一方的に優位なトレードを行う人のことを言います。
 例えば、MTGを始めたばかりの人が、「ああ僕の緑デッキには《巨大化/Giant Growth》が一枚しか入ってないんだよな。でも一枚しか持ってないし。あと三枚あればもっと強いデッキになるのに。誰かこの《神の怒り/Wrath of God》と交換してくれないかな」「おおっと、そこの君。私が交換してあげるよ。その《神の怒り/Wrath of God》一枚と、そうだな《巨大化/Giant Growth》三枚に《超巨大化/Monstrous Growth》も四枚つけてあげよう」「え、本当ですかー、ありがとうございます」・・・こんなトレードのことを一般的に「シャーク行為」と呼びます。
 つまり、この初心者はレアカードである《神の怒り/Wrath of God》をコモンカード数枚と交換してしまっているわけです。MTG界ではそのカード価値として基本的にレア>アンコモン>コモンであるのです。ちょっと知った人ならば上記のようなトレードは公平でないと感じるでしょうし、この時はこのトレードに満足した初心者も、将来このトレードを後悔する確率は非常に高いといえるでしょう。MTG界ではカードの価値を知らない人に対して一方的なトレードをしてはならないという暗黙の了解があるのです。

□情報強者vs情報弱者
 しかし、現実社会を考えると、上記のようなシャーク行為は珍しいことではありません。というか当然の原理として働いているようにも思えます。例えば、株の取引を考えても、自分独自の情報に基づき、自分の利益を最大にすることを目的に行動します。取引相手の顔が見えないとはいえ、言ってみれば他人に損をさせるのが原則です。骨董の取引にしても、目利きをするのは自分の責任です。損をしたくなければ自分で情報を集めることなのです。情報強者が情報弱者を圧倒する。これが現実世界での原則です。

□ローカルルール?
 では、なぜMTG界ではそれが悪行となるのでしょうか。私が思うに、それはMTGの共同体がまだ小さく安定していなからではないかと思います。リアルで経済活動をする人間の集まりはMTGをする人間の集まりよりはるかに大きいのです。そのため、冷徹な掟で敗者・敗残兵を産み出しても、それを無視することができるくらい安定しています。
 ですが、小さな共同体であるMTG界でシャーク行為を行って初心者をいじめていくと、後々その初心者は「MTG界って怖くて汚い世界だ」という思いを持ってMTGから足を洗ってしまうかもしれません。そうなるとただでさえ少ないMTG人口はさらに減っていってしまいます。そして、ある一定数のユーザーを割り込んだゲームは消滅してしまうのです。
 つまり、シャーク行為=悪とみなすのは、MTG界が自らの共同体を安定・存続させるために必要なことなのです。初心者を大事にするということは、MTG界を安定させ、より広く世間に広まっていくことにつながっていくのです。
 では、MTG界がもっとずっと大きくなればリアル社会と同じようにシャーク行為が正当化されるのかという質問に対しては、私はおそらく「イエス」であると思います。その時には、カードの価値を自分で正しく知り、それができるまではトレードはしない。もしくは、シャーク行為にあってもそれは勉強代だとする認識が一般的になるのではないかと思います(個人的には、その程度の規模までMTG界が大きくなることはないと思いますが)。

□カードの価値?
 上記の文章では、カードの価値というものを何の定義もなしに使ってきました。おそらく、これを読んでいる皆さんも、「カードの価値=店頭で売られているシングルカードの流通価格」と認識して読み進めてくれたのではないかと思います。
 確かに、一旦、流通価格が設定されると、いかにもそれがそのカードの真の価値であるかのように錯覚されてしまいます。しかし、もう一度よく考えてみましょう。あれは単なる紙ですw 少なくとも1パック15枚が定価500円のものです。500円/15枚=35円/枚です。その程度のものに需要と供給の関係から信じられない価格がついたりしているわけです。
 けれど、MTGにかかわる方法は人それぞれです。まったりマジックを楽しんでいる人たちの中にはシングルカードなんか買わないという人もいるでしょう。コレクターの人もいます。そういう人は流通価格には興味を払わないかもしれませんし、そもそもその価格に納得できないかもしれません。カードに対する価値は人それぞれのはずなのです。
 ですが、流通価格には決してMTGユーザーの最大公約数が反映されているわけではありません。現在、流通価格に主に反映されているのは、MTG界において最大勢力を誇るトーナメントプレイヤーの考えるカード価値なのです。流通制度そのものが経済原則に則って動いている以上、最大ユーザーのトーナメントプレーヤーの価値観を色濃く反映するのは当然のことだとも言えますが、では、トーナメントプレイヤー同士以外の場合でも店頭価格を基準にしなければならないのでしょうか。
 そんなことはないはずです。それぞれ自分の価値観に従ってトレードすればいいはずです。その観点から行くと、《巨大化/Giant Growth》3=《神の怒り/Wrath of God》のトレードが成立することも十分有りなわけです。特にまったりユーザー同士の場合とかには。
 ただ、トーナメントプレイヤーと初心者の場合だと、話は違います。初心者にとっては、《神の怒り》1枚が《巨大化》3枚の価値が十分あるにしても、逆にトーナメントプレーヤーにとっては《巨大化》3枚は《神の怒り》1枚の価値はありません。要するに価値観のすりあわせがなされていないのです。そのトレードで自分に不利になる自分の価値観をオープンにしないままトレードを行うのは決してフェアとは言えないでしょう。この場合、自分の価値観である流通価格も相手に知らせた上でトレードを行うことが必要になるのではないでしょうか。これは上記の共同体保護論にも合致します。

 トレードの原則に関しては様々な考えがあると思いますが、今回は上記のような考え方を述べさせていただきました。


    

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