「んん……」
炭を掻き起こしたところで、背後の寝床から声が上がった。獣のなめした皮を何枚も重ねた弾力のあるそれに、最初のうちはどうも慣れず、なかなかそこで眠ろうという気にはなれなかったものだ。
妻となった少女いわく、彼女の郷里の寝床はこうした柔らかみのあるものが主流で、実はこちらの寝床は硬いから馴染みにくかったのだ、と今更白状された。とにかく九郎と違って、少女はこの国の寝床が気に入ったらしく、いつまでももぐり込んで起きてこない。もとからの寝起きの悪さに一層磨きがかかるようになったが、これからの季節はむしろそのほうがいい、と九郎は考えている。
身震いするほどの寒気の中に、その柔肌を晒させてはならない。
「まだ寝ていろ。寒いぞ」
声だけかけて、炭を掻きまわす。日が経つに従って、昨夜の種火を探し当てるのに手間取るようになったのは、冬が徐々に近づいているからだろう。
「くろーさんも、さむいでしょ……」
舌足らずな声でむにゃむにゃと、半分以上寝たままの少女───望美が呟く。掛け布代わりにかぶった毛皮の端からちょいちょいと手招くその間にも、ふるっと震えた身体の線を九郎は見逃さない。己のためでなく彼女のために、寝床に戻ることにした。火が熾ってぬくもりがゲルの内部に行き渡るまでは、望美一人では寝床の暖が足りないのだ。
九郎は防寒具を脱いで寝床に再度入り、求められるままに望美を抱き締めた。
「……つめたーい」
ふふ、と胸元を笑みがくすぐる。
「離れたほうがいいか?」
「いーですよ、そのうちあったかくなりますって」
(【秋暁】より)