さいわい

 

 神子の幸いは私の幸いなんだよ。

 

 

 私の神子は清浄だから、どこにいてもすぐにわかるの。
 神子の気が私を引き寄せるんだよ。あなたは私の神子、人の世で一番うるわしい、私の太一だから。

「神子、神子!」

 呼びかけると、神子はいつも笑ってくれる。龍のころに見た、あの小さな白い木と同じ。今の私よりはもうずっと大きいけど……神子はあの木を『さくら』だと教えてくれた。
 でも私の神子は、さくらよりきれい。さくらがぱっと咲くよりも、きれいな気。

「どうしたの白龍?」

「あのね、譲がぷりん、できたって。一緒にたべよう」

「ほんとに白龍は、蜂蜜プリンがお気に入りなんだねえ」

 うん。譲のぷりん、すき。でも神子はちがうの?
 だって……今の神子の気、私の一番すきな、一番きれいな色じゃない。とてもよく似ているけど、ほんの少しだけ……ちがう。
 神子はぷりん、よろこんでない。
 ぷりんは神子が一番、よろこぶことじゃない。

「神子はぷりん、すきじゃない?」

「え? ううん、そうじゃなくて。でも白龍が欲しいんなら、半分あげようか?」

 ああ、私の言の葉、やっぱり神子に伝わってない。ぷるぷると首を振ると、神子が頭を撫でてくれた。
 なにかがうまくのみこめなくて、ひっかかる。このきもちは、なんて言うのかな。
 ごはんを食べてたとき、譲は私に、べつの器でごはんをくれた。さかなの骨がのどにつかえたら、かまずにのみこむんだぞ、って言ってた。そうすれば、ひっかかったものが、取れるからって。

 じゃあ、ごはんを食べれば、このもやもやも、のみこめる?

「神子、ごはん、食べたい」

 神子が声をたてて笑った。
 ああ、でも、やっぱり私の一番すきな、一番きれいな笑顔じゃない。

「よっぽどおなかすいてるんだね〜! いいよ、今日は特別に、私の分のプリンあげる」

 ねえ、神子。神子はどうしたら、この上ない幸いを得てくれるの?
 神子の幸いは私の幸い。あなたの心が幸いで満ちれば、私も満ちてゆくのだから。

 

 

 神子の幸いはぷりんじゃない。
 じゃあ、何が神子の幸いなのだろう? 神子は何を得れば、幸いを得るのだろう? 私の一番すきな、一番きれいな、さくらよりもきれいな気に満ちるのだろう?

 わからない。ひとのこころはむずかしいね。

「神子、これあげる」

 ひとの感覚に拠る美醜は、私にはよくわからない。私に分かるのは、気の流れが滞っているか整っているか、それだけ。けれど神子は私の神子だから、滞っているものよりも、整っているものをあげたい。そのほうが私には快く感じられるし、きっとそれは神子もおなじだと思うから。

「……白龍、さっきから、どうしたの? いろいろと持ってくるけど、なにか理由があるの?」

 これもちがうみたい。さっき川底で見つけた澄んだ石を、私はがっかりしてにぎりしめた。
 神子、神子、私の神子。
 教えて。あなたの幸いは、なに?

「―――ううん、だめ」

「白龍?」

 この答えはきっと、神子にきいても、わからない。
 私が自分で見つけなければいけないの。そんな、気がする。

「あ、白龍! あんまり遅くまで、一人で出かけてちゃだめだよ〜」

 だいじょうぶだよ、神子。神子の気をいつでも感じているから、私は決してまよわない。
 思いつくままのものをあげても、神子の幸いは見つからない。
 よろこんでくれてるのは、わかる。私のあげたものも、ううん、ぷりんだって、神子の幸いのひとつにはなっている。
 でもね、私が知りたいのは、神子の一番の幸いなの。たったひとつしかない、幸いのかたちなの。だってそのときの神子の気が、あんまりきれいでまぶしくて、それを感じるだけで私は、とてもとても満たされたから。

 ―――あ。

 ずうっとほしかった、その満たされたきれいな色。神子の優しい気が、私を満たす。
 まちがえてない。今の神子のこころは、私の一番すきな、一番きれいな幸い。
 神子のこころをまちがえるなんて、私が龍であるかぎり、神子が私の神子であるかぎり、ぜったいに、ない。

 

 

 ひとの身ってどうしてこんなに、歩みがおそいのだろう。ひとの形でもある私の今のからだは、とても小さい。それは私に力がないからで、それはとてもかなしい。でも神子がいつでも笑って頭を撫でてくれるから、今のからだも、きらいじゃないよ。
 いっしょうけんめい、建物の中にある神子の気のもとへ、走って急ぐ。そうしたら途中で、朔にぶつかった。

「―――まあ、白龍。ごめんなさい、大丈夫だった?」

「ううん……いいの、急いでいるから」

「あ、待って。望美のところに行くつもりなの?」

「うん」

 朔はしずかに笑った。私の神子の日輪のような笑顔とはちがう、でもやっぱりきれいな、笑顔。

「……今は、だめよ。邪魔をしちゃいけないわ」

「じゃま?」

 じゃま。―――妨げ。
 私が神子の、妨げになるの?

「どうして?」

 私の問いかけに、朔は指をたててくちびるに当てた。
 それ、知ってる。『しー』って、神子もやってたの、見たことある。言の葉をつむいではいけない、という合図のこと。

「声をたてないと約束できるなら、連れて行ってあげるけれど」

「おねがい、朔。つれていって」

「いいわ。でも、話しかけてはいけないわよ。声をたてないようにね」

「……うん」

 ほんとうは、神子に話しかけてはいけない、と言われたこと、とても悲しかった。
 でもね、神子の顔を見たら。きれいな気を、きれいな笑顔を見たら。私のきもちはどうでもよくなってしまったの。
 だって神子があんなに満たされた幸いの中にいるのなら、それだけで私も幸いだから。

「───って、え、やだそれ違いますー」

「そうなのか……? お前の世界とやらは、ずいぶんと変わっているんだな」

 神子が声をたてて笑った。その笑顔を受けている九郎も、笑っていた。神子と九郎は、諍うこともいっぱいあるのだけど、今はとても仲良しみたい。何より、神子が一番の幸いを得ているのが分かるから、だから私はとてもうれしい。

「……さあ、戻りましょう」

「うん」

 朔が手をひいてくれて、私はそのまま神子と九郎のもとを離れた。でも、離れてもずっと感じる。あったかい幸いの気。

「朔は神子が九郎といるの、知っていたの?」

「そうね」

 朔が小さく笑った。

「あの二人にあてられるのが厭だから、逃げてきたところだったのよ」

 その後の仲裁と惚気に巻き込まれるのもね。
 朔の言の葉には、私の知らない言の葉が含まれていた。
 ねえ、神子。やっぱり人の世界の理は、龍の知らないことで満ちているのだね。

 

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**ひとこと**
80000Hit申告のぴーにゃさまへのプレゼントSS、リク内容【弁慶or朔がうんざりするほど甘い九望】。
…で、これのどの辺が九望だと主張するつもりなんですか管理人さんよ…。九郎に至っては台詞一行だよ!?
正直白龍がチビ状態の時にこの親密度(ゲーム違)は有り得ないんですが、ちびを書きたかったので。(言い切った)
今回に限ってはいけない人は出せなかった。奴を出すと問答無用で九郎が照れて地雷を踏むからな!

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