| ゆらゆらと、たよりなく。
どうしてそれが気にかかったのかと問われれば、何となくだった、としか答えられない。 「……将臣、くん?」 寝そべって庭を眺めていた将臣の姿が、僅かに揺れたような気がした。望美は少しだけ怯んだが、一旦声をかけた以上、そのまま立ち去ることはできなかった。 「───おう、お前か」 ごろりと転がってこちらにしっかり顔を向けた時には、もういつもの将臣だった。大らかで気取らない、豪放磊落な幼馴染み。 「どうかしたのって、訊いてもいい?」 「お前、そりゃ、もう訊いてんじゃねえかよ。この確信犯」 「そうだね」 将臣が少し笑った。やはり、どこかが少し異なる印象の、笑顔だった。 そんな望美の気持ちが伝わっているのか、いないのか。 「───平家の、連中な。何とか無事に逃げ延びたって、連絡よこしたんだ」 「……そう」 望美はただ、相槌をうった。 「今となっちゃ、俺にしてやれることは、もう何もねえけど……ほっとした」 「うん……」 幸せを祈っている。たとえ自分の手が届かなくても、ずっとずっと。 みんな、傷ついた。誰も、幸せになれなかった。 「───いくさって、イヤだね」 寝そべった将臣を倣って望美も寝転がり、小さくそう呟いた。 「……だな」 静かに答える声に、目を閉じた。
何故それを見つけてしまったのかと考えれば、ただの偶然に過ぎなかった。 それに、平泉を目指す道中で起こした将臣との諍いが、尚更九郎の足を遠ざける。 ───だが、詫びねばならんな。 本来の目的からは外れるが、こうして足を向けたのは、存外いい機会かもしれない。 そうして、それを見た。 「将臣、いるか……望美?」 将臣は確かに在室だった。ただし、毛皮の上で肘をついて寝ていたが。 心の臓が、厭な音を立てて軋んだ。 「…………」 何をうろたえる必要があるのか。 いくら自分に言い聞かせても。 「ん」 見ている先で、望美が小さく呻いて寝返りをうった。 「…………っ」 拳をぐっと握った。今この瞬間、太刀を帯びていなくて幸いだった、と思った。 「……くしゅっ」 その音で、九郎ははっと我に返った。 「───風邪をひくぞ、二人とも」 布を二人の上にそっと落として、九郎は立ち去った。
「……ああ、動きは雪が降ってからになるだろう」 「そうですか。では、宣戦の使者が訪れるのも、もうじきといったところですね」 弁慶と九郎が話し込んでいるところに、朔が盆を持って訪れた。 「お疲れさまです。譲殿が、一息入れてはどうかと」 盆の上には湯呑みに入った白湯と、譲が作ったのであろう甘味が載っていた。 「ああ、すみませんね。ありがとうございます」 弁慶が受け取って礼を言うと、朔はいえ、と微笑む。 「そうそう、望美にも届けないと。どこにいるか、九郎殿と弁慶殿はご存知ですか?」 その瞬間、九郎の脳裏を先ほどの光景が過ぎった。 「いつもだったら、出来上がる頃には厨の周りをうろうろしているのに、今日は見当たらないんです」 「それは珍しいですね……生憎、僕は心当たりがなくて」 交わされる会話が遠くから聴こえるようだった。 「───いや、先ほど見た時には、寝ていた」 「まあ。望美が、ですか?」 「ああ……よく寝ているようだったから、起こさないほうが、良いだろう」 「そうですか。分かりました、そうします」
ゆらゆらと、たよりなく。 けれど確かに其処に在る、ものおもいの名を、まだ知らない。
了 |
**ひとこと**
55000Hit申告の乃亜さまへのプレゼントSS、リク内容【九望・異世界で将臣or弁慶に嫉妬する九郎】。
九望です。これは九望SSです。たとえどんなに攻めの出番が少なくて影が薄くても!!(爆笑)
…いえ、自分でも念仏のよーにそう唱えて自己暗示をかけないと、到底九望には見えないというだけです…。
正直に白状します兄貴と神子のトップ会談(違)のほうがずっと描写に力入ってました☆
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