たかまがはら

 

 高天原より降つるもの。
 恵み潤す水無瀬の雫。朧とうたうまほろばの花。儚きましろの息吹のかけら。





「雨は嫌いなんです」

「降らねば干上がるだろう」

「嫌いなものは嫌いなんです」

 言い張る神子は小さく震えていた。
 湿気を含んで冷えた空気に当てられたのかと思い、九郎はそれ以上を言わず、まとっていた衣を脱ぎ落として小柄な少女をくるんだ。

「……じめじめするし、髪はからまるし、蒸し暑いのにどっか寒いし」

「天に文句を言ったとて仕方あるまい」

「九郎さん」

「ん?」

 交わった瞳の強さに、心の臓を射抜かれたかと思った。

「───絶対、私を置いて、いなくならないでね」

 さあさあと庭からは水音が響いていた。
 雨はまるで天の涙だと───そう詠んだのは誰だっただろうか。
 孤独に堪えかねる、嘆きのうた。





(だってわたしはもうひとりぼっちになりたくないの)

(たすけたいのみんなをたすけたいのあんなおもいはもういやなの)

(ねえわたしをひとりぼっちにしないでおねがいだからそのためならなんでもするから)





「夜桜ってなんでこんなに白く見えるのかな」

「白いか? 色づいているだろう?」

「えぇ? 昼間ならともかく、今は真っ白にしか見えませんけど……」

「……そうなのか? お前、目が悪かったのか?」

「視力は悪くないはずですけど。うーん、なんでかなぁ」

 九郎の目には夜桜も白には映らない。けれど傍らの神子にはそう見えるらしかった。
 桜よりもなお白くまばゆい少女は、ゆっくりと、頭上から降り注ぐ花びらを見上げた。

「───春も、終わりですね……」

 名残を惜しむように、ぽつりと口にした言葉は、九郎の内に微かな細波を起こす。
 いつまでこうしていられるのか、漠然とした先行きへの不安。

「舞ってくれないか?」

「え、」

 振り向いた瞳が見張られているのを、何故か正面から受け止められず、いやその、と口ごもりながら横を向く。

「……先日はろくに見るどころの話ではなかったから、な」





(はるよはるよどうかいのらせてつぎのはるもみんながわらっていられるように)

(どうかこのさくらがまたさくのをみんなでみられるように)

(どうか)





「……さっきから何をしてるんだ?」

「んーと、やっぱり六角形なのかなって」

「ろっ、か……?」

「雪はですねえ、実はちっちゃい氷の結晶で、それが綺麗に六つの角が出てるんですよ」

「だが素手で受け止めても、すぐに融けるだけだろう」

「うーん。そうなんですよね。黒い手袋すれば上手くいくかな、ちょっと取ってきます」

「馬鹿、やめろ。いつまで戸外にいるつもりだ」

「だってせっかくホワイトクリスマスなんだもん」

 口実なんてどうでもいいのだ。
 こうして肩を並べて他愛ない会話を交わして、笑顔を交わせているならば。
 まだ、もう少しだけは、この我侭も許されるはずだから。

 透けて見える別離は、あの異界の謎をひとつ解くたびに近づきつつある。





(ふりつもるしろさはてのひらのなかですぐにとけてきえてしまう)

(いつまでたってもつかまえられないいっしょにはいられない)

(まるでそれはあなたのよう)





「迷宮が、消えた……」

「───これで、すべて、終わったんだな」





(あなたのしあわせをねがっていたのそれはうそじゃないのけっしてうそじゃなかったの)

(かえりたいというあなたのねがいをわたししってたえがおでみおくろうとおもってた)

(でも)

(でも)





 高天原より降つるもの。
 恵み潤す水無瀬の雫。朧とうたうまほろばの花。儚きましろの息吹のかけら。
 白き光の神代のをとめ。

 分かつさだめを負うからこそ、さやかにかがやくいとしき調べよ。

 

BACK


**ひとこと**
1周年記念・ご愛顧御礼の九望テキストです。SSじゃなくてもはや詩だなこの短さと支離滅裂さは。
ゲーム迷宮EDテーマ『想い出は時空の結晶』のイメージをなんとか文章で表現してみたく思い、みごと撃沈(笑)。
遙か3の一連で印象深かった雨・桜・雪を、無印・十六夜・迷宮に合わせて引用してみました。
どっちかというと挿入モノローグの神子視点がメインな感じ。ほら御曹司はこういうの鈍いから(爆)。

現在はフリー配布は終了しております。2/10にご連絡いただいた方については、ご希望であれば自サイト転載も可。
転載の際にはページのすみっこにでも【あまつそら/由宇製作】の明記をお願いいたします。