いつか巡る春に

 

 泣かないでくれ───というのは、俺の我侭だな。
 俺が君を案じ幸いを願うように、……自惚れてもいいのなら、きっと君も俺のそれを願ってくれているのだろうから。
 だが、後悔はしていない。君を護ることができたのだから、後悔などする筈がない。蝕まれた最後のかけらさえも君のために捧げる、それは俺の誇りだ。今日という喜ばしい日を血で穢すことになったのは弁解の余地もないが、君と国の安寧のために必要な、最後の贄だと思ってくれれば有り難い。

 だから、千尋。君は前を向いてくれ。
 俺がいなくなっても、ただ真っ直ぐに───その澄んだ優しい瞳で、安らかな未来をこの国に導いてくれ。
 君にはそれができる筈だから。
 一兵の命をも惜しむ慈愛を喪うことなく、国を取り戻すという途方もない困難を、最後まで戦い抜くことができた君なのだから。

 落ち着いたら、桜の花を、いつか見に行ってくれないだろうか。
 二人では見られなかったけれど、君にはあの淡やかな紅がきっとよく似合う。俺だけがこうして、幸せな夢を見ているだけでは申し訳ない。
 俺が傍らに居ないことが寂しいなら、別の者とでも構わない。いや、豊葦原の要たる王の身だ、一人で出歩くなど決してするな。心安い相手でないと嫌だというなら、せめて狗奴の者を連れていけ。……ああ、文官ではもともと、君の護衛には役立たないか。何しろ君は、長き戦を勝ち抜いた我が軍の大将軍なのだから。
 護衛は主より強くなくてはならない。特に君は、目の前で死にゆく者を捨て置ける主ではないからな。

 多くの命を殺め、多くの配下をむざむざ死なせてきた。仕える国を護れなかった将など、なんの価値がある?
 そんな俺の命でも、潰えれば哀しんでくれるひとが居る。その相手のために何か為し得ることがあったのなら、生き恥を晒してきた甲斐もあったというものだろう。だからどうかあの約束を、いつか果たしてくれないだろうか。君が俺を忘れない、そのために。

 ───共に、見に行きたいと思った。それは本当だ。
 その願いよりも俺にとっては、君と君の国の未来を護ることのほうが重要だった、それだけのことなんだ。決して最初から破るつもりで約束をしたのでも、軽んじていた訳でもない。それだけは信じてほしい。
 豊葦原の中つ国。それを統べる王たる葦原千尋に、畏れ多くも将軍を預かる葛城忍人は、非才ながらも忠誠を尽くすと決めた。

 そして君に、俺は。

 ……何を与えられるだろう。ただの男として俺は、一人の少女である君に、何を与えられるだろう。
 この胸を満たす、あたたかな想いのほかに。

 

 

 ああ、千尋。
 桜がとても、綺麗なんだ……。

 

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**反転コメンツ**
分類としてはダブルパロになるのかな、元ネタは『大神』というゲームのEDテーマ【Reset】(平原綾香)です。
【ただひとつ願いがかなうのなら時を越えて届けたい 変わらない想いがあるのならばいつか桜の下で】
4でまんまと忍人の書EDがツボり、シチュ的にもぴったりだったので…ああこんちくしょう根っからの悲恋萌えですよ!
そういや3の最萌えCPである九望も腰越(十六夜版)で完全に転げ落ちたんだ、思い出した。