遙か3八葉・朔・白龍で【慕情を抱く5つの言葉】+【希望を願う5つの言葉】
シリーズタイトルは「こころに抱くその光の名を教えてください」でした。
叩いてくださった皆様、本当にありがとうございました!
| 永遠 平 敦盛 神子の八葉となった時に、私は自分の真の願いを知ったのだと思う。 あなたの手で五行へと還り、あなたの周りを気脈となって巡りながら、あなたのそばに存り続ける。それが私に───この穢れた存在となった私に許された、最高の至福なのだと。歪められたものが在るべき姿へと戻っていく、それがこの世界にとっても私自身にとっても、喜びなのだと。 神子、あなたはきっと、知らない。 あなたが封印の力をふるうたび、私がどれほどそれに焦がれているのかを。 神も仏も、結局のところ、人を救うために降臨することはない。人はみな、自らの手で自らを救わねばならない。一門に在った頃にも目にしてきた数々の寺院仏閣螺鈿彫刻、それらは確かに美しいものではあったけれど、祈りさえすれば浄土に行けるものなのかと……今の私ならば言うだろう。 人の身は生くるだけで罪深く、増して、死してなお骸から離れられぬ私は、この世の条理を穢す存在そのもの。祈るだけでその罪が祓われる筈もなく、自らの身を処することも出来はしない。なればこそ、最早救われぬ存在となった己が疎ましく、破壊の衝動に抗えない本性を戒めることしか出来なかった。 神子。あなたが、それを変えた。 怨霊を救うあなたの役に立つことが出来るなら、この穢れた力にも僅かながらの意味があったのかと思った。 神子、あなたは暖かい。からだも、こころも、すべてが。陰の気に慣れた私には、その暖かさは喩えようもなく美しいものだと分かる。それは生命の熱、今を生きている者の暖かさなのだから。 どうか、祈る。 最後のその瞬間まで、あなたのそばで微力を尽くすことが出来るように。そしてあなたの戦いが終わった瞬間、この身は五行へ融けてゆくようにと。 それだけが、私の願いなのだ。 【慕情を抱く5つの言葉】01:できうるかぎりひっそりと、ひと知れずに散ってしまいたい。 ***** 安堵 有川 譲 あまりに長い間、同じことを繰り返していると、いつもとほんの少し違うだけでも臆病になってしまう。 俺が何年あなたを見てきたと思うんですか。どんなに突拍子のないことを言い出したとしても、ちょっとやそっとじゃ驚きませんよ。落ち込むこともあるし、怒って拗ねることはもっとよくあって、だけどあなたは結局はいつも、明るい笑顔を取り戻すひとなんだ。 だけど……この世界に来てから、俺は時々、怖くなるんです。 戦うこと。誰かに殺されるかもしれないこと。誰かを殺してしまうかもしれないこと。そういうことが怖くないと言ったら嘘になります。でも、それよりもっと、俺には怖いことがあるんです。 あなたは、俺の知っている、あなたですか? 俺が何年あなたを見てきたと思うんですか。あなたの空気が変わったこと、あなたの表情が変わったこと、俺が気づかないとでも思うんですか。何かあったのかと問いかければ、一瞬気づかないほどの自然な笑顔でかわす、いつの間にあなたは、そんなことができるようになったんですか。 不安───そう、俺は結局、不安なんだと思います。 あなたが、俺の知らないあなたになってしまったようで。 ……身勝手な言い分ですね。俺も分かっているんです。でも、あなたには俺の知っているままのあなたでいてほしいと思う。 あなたの顔を見るたびに、あなたの声を聴くたびに、明るく澄んだその空気を感じるたびに、俺がずっと昔から抱え続けているものを───諦めたくても諦められないものを、再確認したいんです。 俺は俺の中の気持ちに縋っていたいんだと思います。それで"いつもの日常"を確認できるんじゃないかと思って。 【慕情を抱く5つの言葉】02:心を仕舞っておける場所、提供してください。 ***** 約束 梶原 景時 繰り返し降り積もるものはどこへ消えていくんだろう。 ひとつ、ふたつ。ほんの小さなものから始まって、それでも積み重ねられたものは、いつしか大きな山を為す。オレがそうして築いてきた偽りの山は、崩れ落ちそうなくらいにもう大きくて、オレはそれを見ると途方に暮れてしまう。もう息が詰まって仕方ない……オレが言うことじゃないって分かってる、分かってるけど、それでもつらいと思ってしまうんだ。 ひとつ嘘をつけば、その嘘をほんとうにするために、次々と嘘をつかなければいけなくなる。 そんなことしてれば、いつかはぼろが出るって? その通り。だからオレの手は血まみれなんだよ。ぼろが出てしまったら、それに気づいた相手がいれば、その相手を消してしまえばいい。それで、ぼろは消える。 嘘をつくっていうのは、そういうことなんだよ。知ってたかい? でもそのたびに、ひとつひとつ殺されていく、オレの一部。 良心、なんておこがましいことを、言うつもりはないよ。でも、オレがオレであるための、自由に胸いっぱい深呼吸するのに必要なものが、嘘をつくたびに死んでいくのが分かるんだ。オレが抱え込むのは嘘の山とぼろの山と浴びるほどの血と、そしてかつてはオレであったものの残骸の山。 ねえ、君だけはどうか。 どうか嘘をつかないでくれ。 君がこんな思いをする必要はないんだから。 笑っていて。自由に進んでいって。それはオレがもう失ってしまったものだから。 君がそうやって君らしく在るのを見ているだけで、オレにはこの上ない幸せとなるのだから。 導いてなんて言わない。 ただ、君らしく在れ、と───それだけを言えたら、いいのにね。 【慕情を抱く5つの言葉】03:あなたが騙されたふりをしてくれれば、それだけで幸せ。 ***** 欺瞞 武蔵坊 弁慶 運命とは何のことを指して言うのか、僕にはよく分からないんです。 僕が君の八葉となることが運命だったのなら、僕が為してきたこともまたすべて、運命だったとでも言うのでしょうか。そこに僕自身の意図は介在せず、ただ何者かに導かれるようにして、定められていたことだったとでも言うのでしょうか。それならばどうしてその何かは、自らを危険に追いやるような真似を僕にさせるのでしょうか。 運命を司る神がいる、とでも言うのでしょうか。僕たちはその駒に過ぎないのだと。 それは、面白くはない話です。 僕は僕自身の意志で、今までを生き抜いてきたのだと思いたい。そうであればこそ、自らに対して誇りを持つこともできるし、責任を取らなければならないと思える。いつまでも童ではないのですから。すべてを他者の責任にできるなら、これほど楽なこともなく……これほどつまらないこともない。 僕が君に惹かれることも、運命だったと言うのでしょうか? 可愛い人。優しい人。強い人。 君より顔かたちの整った人はいますし、君より優しい人もいる、君より強い人もいる。けれど僕が惹かれたのは君だったんです、他の誰でもなく。それすら運命という言葉でひとくくりにされてしまうのなら、僕は何に対して責任を取ればいいのでしょう。 君に惹かれたこの罪を、運命などという言葉で有耶無耶にできる訳がないのに。 ねえ、教えてください。君なら答えを知っているのかもしれません。 僕が惹かれた、君ならば。 【慕情を抱く5つの言葉】04:運命だと、ほんとうにそう思いこんでいる愚か者だとでも言うの。 ***** 読心 ヒノエ 他人の頭の中が覗けないってのは、不便なもんだよね。 でも、それだからこその楽しみってのがあるって、お前なら分かると思うよ。 なに考えてるのか分からない相手を目の前にして、頭の中を覗いてみたいって思ったこと、ないかい? オレは山ほどあるよ……そう、例えば、お前の心に住まう男は誰なのか、とかね。冗談なんかじゃないさ、オレはいつだって、お前に嘘は吐かない。熊野三山天地神明に誓って言霊を捧げよう、オレはお前に偽りを述べない。だから少しくらいは、オレのこと信用してくれたっていいと思うんだけど。ねえ、姫君? オレは偽ったりしない───言えないことはあるけどね。 だから探ってみるのさ。その表情、その言葉、その気配、その仕草。全霊をかけて相手を見つめ、その内面を探ろうとする、そんな駆け引きがオレは嫌いじゃない。可愛いお前をずっと見つめていられるなんて、サイコーの役得だろ? え、野郎が相手の時はって? ……姫君もキツイね、そんな時はさっさと別の手段で吐かせるだけさ。 相対する者を見つめ意識を向けるからこそ、生まれるものがある。 神はそうやって人の願いを聞き届けている。お前の龍神がいい例だろ? あんなにお前にまとわりついて、お前の一挙手一投足を決して見逃すまいと、ずっと意識を向けている。だからこそ気づくことがある、だからこそ生まれる絆がある。 本音があっさり分かっちまったら、それは台無しになってしまうだろう? ……でもまあ、お前はどうやら、素振りに匂わせてもなかなか気づいてくれないようだから。 気になるなら特別に、オレの心を教えてあげるよ。だからそれまでは、オレのことだけを考えていて。頭も心も意識のお前のすべてを、オレで一杯に満たしてよ。 【慕情を抱く5つの言葉】05:本音は明日のお楽しみ。 ***** 門出 源 九郎義経 どれほど駆け続けても、いつかは果てに辿りつく。 鳥が空を飛び続けること叶わぬように、どんな駿馬も休ませずに駆れば乗りつぶれてしまうように、どんなものにも常に終焉というものは訪れる。 それと同じように、俺は俺の果たすべき役目を終えれば、何処へとも知らず消えてゆくのだと思っていた。俺が兄上のお役に立つ働きを奉じられるのは、ごく限られた部分でしかない。戦が終われば───と考えることは、直ぐに止めた。怖気るなど武士にあってはならぬことだ、目の前の敵にただひたすら邁進してこそ本分を果たせる。出来うることならば勝ち戦の中で手傷でも負って、戦場に散るのが最上だと思っていた。 ものごとには、終わりがある。それは確かだ。 けれどそれだけではないことを、お前に出逢って、俺は知ったのだと思う。 消えて、生じる。死んで、生まれる。 ならば終わったものから新たに始まるものもあるのだと……お前の言葉が仕草が存在が、俺に教えてくれた。 役目を終えても、新たに生きる意味があるのだと、お前は言ってくれた。そんな風に考えたことなどなかったから、最初はひどく面食らったものだ。一命に換えて責務を果たせと命ぜられることはあっても、生きよと命じる武家などない。お前は確かに異界からやって来たのだな、と思ったものだ。 けれどそれでもいい。 お前の言葉はぬくもりは、確かに、あたたかいから。 俺は多くのものを失ったのかもしれない。けれどそれよりも、得たもののほうが遥かに多いと、言い切れるから。 だから、また新たに、ここから生きていこうと───そう思える。 【希望を願う5つの言葉】01:おわらないものはない。けれど、はじまりはいつも側に。 ***** 旅路 梶原 朔 あなたがいつも前へ進もうとするから、私もそれについて行けるの。 あなたと私は対の神子。だからなのかしら……とても気の合う部分もあるし、私にとってあなたは、時々とても驚くべきことを軽々とやってのけるような、そんな不思議な部分も持っている人だわ。だから私はそんなあなたの、時には重石になり、時には和らげる対でありたい。 あなたはとても鋭い人だから、絶えず変転してゆく陽を象徴する人だから。 だから私はその対として、静かにたゆたう水面、留まろうとする陰の力で、あなたの調和の一助となりたい。 あなたに出逢う前の私は、立ち止まったきり動けなかった。進むことも引き返すこともできずに、立ち竦んでいるだけだった。 それをあなたが、私の手を引いてくれた。進むべき方向を指し示し、あたたかなその手で私にぬくもりを伝えて、一緒に行こうと言ってくれた。その場に澱んで動けなかった陰の気は、あなたという陽の気を得て、初めて意味を成すことができたの。 だから私はあなたに、迷ったときは立ち止まっていいのだと、そう伝えるためにそばにいる。 進み続けるのはあなたの───白龍の神子の性だけれど、それを若しあなたがつらいと感じる瞬間があったら、私がそれに気づいてあげたい。大丈夫、立ち止まっても、歩んできたあなたの道は消えたりしない。それを忘れなければ、先行きが分からなくても、あなたはきっとまた、前へ進もうとする人だわ。 ねえ、忘れないでね。 あなたと私は、対なのよ。この世でたった一対の、欠けたものを埋め合える相手なのよ。 行ける限り一緒に行きましょう。たとえその先に何があったとしても、あなたとならきっと乗り越えていける。 あなたがこの世界から旅立っていく瞬間まで───私はあなたについて行くから。 【希望を願う5つの言葉】02:前にあるのは常に未知。そして振り返れば、必ず道がある。 ***** 意思 白龍 私はあなたのすべてが正しいのだと言い続けよう。 あなたが私の神子となったから、様々な試練があなたを襲った。本来ならばただ幸福の中に在った筈のあなたを、私が歪めて請うた。神子が望むなら私の逆鱗で帰そうと思ったけれど、あなたはそれを断ったね。それは私が消滅することだと、あなたは知っていたのだね。 神子。あなたの胸元にある、私の力の欠片、分かっているよ。 私は何もできない龍神だ。神と名乗るにはあまりに無力な存在で、こうして神子に縋るしかない。あなたの強さに縋り優しさに縋り、私はそうしてあなたを不幸にしてしまう。それでもあなたは前を向いて、歩み続けてゆくのだね。 ひとの言霊に、私は縛られている。京を守護する願いは、けれど祈りを伴わなければ失われてゆくのみ。代償がなければ叶えられないと、ひとはそれすら忘れてしまっている。口々に神の名を唱え、そこに祈りのないまま、加護を得られず失望してゆく。狭間に満ちる怨嗟の声が、神子を探している私には馴染んだ音となった。 それでもひとは、あなたのような麗しい存在を生み出す。 だから私は絶望しないでいられる。 神子、あなたの真名は、私の願いそのもの。 神子。この世の誰もが神子を傷つけようとしても、私があなたを護る。 私を救ってくれた、世界を救おうとしている、あなたが進み続ける道を、私のあらん限りの力で守護しよう。だからあなたは迷わないで、どうか心のままに進んでいって。あなたのすべてが正しく清く麗しいものなのだから。 まったき混乱の終焉を導けるのは、私の神子しかいないのだから。 【希望を願う5つの言葉】03:決着をつけるのはあなたしかいない。 ***** 輪廻 リズヴァーン たった一つの運命を探して彷徨ってきた。 望まぬ未来は砂粒よりも多く見てきた、そのたびに、人の身にあらざるものの力を借りた。何時かお前に諭したこともあったな、"変えられぬ運命もある"と。それは私が経験してきた事実であり現実であり、そして何としても覆したい真実でもある。私はたった一つの運命を変えることを欲し続け、今なおそれを諦めることは出来ない。それは僅かながら許されている私という存在の意味を、完全に無へと帰してしまうことだからだ。 私はたった一つの運命のために生きている。その運命を自らの望むように為せるのならば、代償に何を失うことになっても一向に構わない。その運命を───変えられるならば、私の命など惜しくはないのだから。 私の願いは罪深いもの。それを承知した上であっても、たった一人のひとを救いたいと、そのためだけに永劫の輪の中を彷徨い続けたとて、つらくなどない。その運命を諦めて受け入れることの恐怖に較べれば、そんな労など何ほどのこともない。一つ一つの運命のひだをつぶさに見つめながら、私は常に足掻いている。 あの人が生きる運命を。 それが無理なのだと思い知るほど、私はこの輪廻に飽いてはいない。 神子。心しなさい。 お前が手にした力は、人の身にあらざるもの。 頼りすぎれば過信を招き、悪戯に用いればお前に仇為すものとなる。すべてをなかったことには出来ず、お前の心が壊れていくだけなのだから。 ───お前が私を追って、この輪廻に足を踏み入れることのないように。 【希望を願う5つの言葉】04:絶対に無理だと証明する方が、実ははるかに難しい。 ***** 希求 有川 将臣 明日が来ることに怯えたこと、あるか? 何の因果かこんな世界に飛ばされちまって、それでも腹は減るし寝なきゃもたねえし、かと言ってそこらでちょっとばかし稼ぐってワケにもいかねえ状況だ。まあ……俺は運が良かったほうなんだろうな。取り合えず死なないうちに、世話を見てくれるとこにもぐり込むことはできたし、それなりに知り合いもできたし。 けど、夜が明けることが、日に日に鬱陶しくなる。 昨日は大丈夫だった、今日も何とかなった、けど明日は? 考えても仕方のねえことだけどな。強いて思い出さないようにはしてるが、まあ、そうやってドツボにはまっちまう時もある。どうやらお前がこんな思いをしなくて済んでたのを知った時、俺がどれだけほっとしたか、お前にゃきっと分かんねえだろうな。別にお前を馬鹿にしてる訳じゃない。体験しなくちゃ分からねえコトってのは、確かにあるもんなんだよ。 どうして行っちゃうの、と言うお前は、ほんと変わってなくて……俺にとっては嬉しかったんだぜ、これでも。 でもお前よりも俺を必要としている奴らがいて、そいつらに俺は救われて、こうしてお前と再会することもできた。お前よりも───そう、お前よりも、重いものが、もうこの両手には入っちまってるんだ。たった一つしか持てるものを選べない以上、どちらかを選び取るしかない。そして俺は、もう選んじまってるんだ。 俺が勝手なのは今に始まったことじゃねえから、ついでにもう一つ、勝手なこと言っとくわ。 生きろよ。何があっても、生きていてくれ。 明日がある限り、可能性はまだ残されてるんだから。 【希望を願う5つの言葉】05:そしてこれから幸せになる。だから明日を求めてる。 |