遙か3の九望で【隠れ甘々なふたりに7つのお題】(御曹司ハピバ企画)
シリーズタイトルは「あなたの上にたくさんのしあわせがふりそそぎますように。」でした。
叩いてくださった皆様、本当にありがとうございました!
| ふれあそび 「よし、ここまで」 「……ぁ、ありがとう、ございましたあ……」 息ひとつ乱していない自分に較べ、目の前の少女はもう息も絶え絶えといった表情で、地面に突き刺した諸刃の剣に縋ってへたり込んだ。腕は決して悪くはないのだが、どうにも体力が続かないのが、この妹弟子の課題だった。 とは言え、咄嗟に立ち上がれないほど疲弊した望美に、無闇に鍛練を強いても効果は望めない。状態を見極めながら相手をしてやるのも、兄弟子としての務めだと九郎は思っていた。 「はー……もう、九郎さんも先生も、どうやったらそんな体力つくんですか」 なかば呆れたように望美がぼやいた。 「先生や俺とお前は違う。技にせよ力にせよ、いきなり身につく訳がないだろう」 「そうですけど。なんか悔しい」 「悔しいって、お前な……」 負けず嫌いな妹弟子の言い分に、九郎も今度は呆れた表情を返す。 地面に膝をついて一休みしているせいか、一層小柄で華奢な印象が強まっていた。紫紺の髪は美しく流れ、鮮やかな濃紺の陣羽織と薄桃の小袖にやわらかくなびいて、時折風にさらりと音を立てる。小づくりな顔の中に大きく主張する澄んだ瞳、まろい頬も剣柄を握ったままの指も、驚くほどにしろい。 まるで華のようだ───と、ごく自然に、思った。 「……ほら。戻るぞ」 「はーい」 差し出した手に、望美が掴まった。 その、細い指が宿すぬくもり。 「…………」 無意識のうちにその掌を引き寄せ、指を絡め合わせていた。 しろくて、ほそくて、あたたかい。 自分とは明らかにちがう、その感触─── 「……あ、の。九郎、さん?」 どもりがちな望美の声に、はっと我に返る。同時に絡め捕らえていた手を、ばっと音がしそうなほどの勢いで振りほどいた。 「───っ、その、これはだなっ!」 これは───なんなのだろう。 咄嗟に口を開いたはいいものの、そこで九郎は見事に詰まった。 なんなのだろう。 自分は一体、どういう理由でこんなことを仕出かしたのだろう。 こんな、女人の手を検分するように、必要以上に触れるなど。しかもその触れた心地を味わっていたなどと。 「……これは?」 混乱状態のところに少女が自分の口走った言葉を復唱するものだから、九郎の頭はますます焦って回らなくなる。 「───わ、わざとではないっ!!」 隠れ甘々なふたりに7つのお題:故意じゃない、恋なんかじゃない ***** かげふみ 「……どうした? 遅れているぞ、疲れたのか?」 「あ、ううん、平気です。コンパスの違いなんで、気にしないでください」 隣を歩いていたはずが、いつの間にか少しずつ距離が開いてきた望美に問いかけて。 耳慣れない言葉を聞いた九郎が、振り返った体勢のまま、きょとんと足を止めた。 山道を、荷物を抱えて歩く。大規模な行軍ではないから気は多少楽だが、それだけにかえって、各自の入用なものは道々仕入れて進まねばならない。当然ながら、こうやって買い出しの当番が割り振られるのも、ごく自然な成り行きだった。 九郎は総大将という立場の割に、普段は気安い面がある。さすがに行軍中では示しがつかないという理由でやらないが、こういった仲間たちだけの行動の時には、不平も言わずに雑用もこなす。だから今この山道には、望美と九郎の二人だけが、買い出し帰りの荷物を持って歩いていた。 「あ、えーと。足の長さが違うって意味です」 「ならばそう言え。お前の言葉は時折分かりづらい」 ぼやいた九郎が、括り紐で下げた炭を抱え直した。 望美はその仕草を見、次いで九郎の手に抱えられた荷物の量と自分の持っている荷物の量を見比べ、首をかしげた。 「って言うか。九郎さん重いでしょ、私まだ持てますよ?」 親切心からの望美の一言は、九郎に素っ気無く捨てられる。 「馬鹿。こんなものをお前に持たせてみろ、帰り着く頃には筋を痛めるぞ」 「だってそれじゃあ九郎さんだって同じでしょう」 「俺はいいんだ。そんなやわには出来とらん」 望美は内心、こっそり笑う。 観察事項追加。 九郎さんは意外に、ナチュラルに、フェミニストかもしれない。 「……暮れてきたな。疲れていないのなら、急ぐぞ」 「はーい」 足を止めていた九郎が、再び歩き出した。影がゆらりと離れていく。 望美も小走りに後を追いかけ───しかしやはり隣には並ばずに、ちょうど九郎の影がゆらゆらと揺れるあたりに落ち着く。隣に立つのも好きだけど、こちらのほうが最近は好きだ。九郎の姿ぜんぶがよく見えるから。 ふふっと小さな笑い声が耳に届いたのか、九郎がこちらを振り返った。 「何を笑ってる。……お前は今の状況を理解しとらんのか」 「分かってますよ?」 九郎の影を、踏んで。 にっこりと、笑う。 「私と九郎さんが二人っきりの時間が、暗くなってもまだ続くってことですよね?」 ───振り返ったその顔に射した夕焼けは、照らされたのか、それとも。 隠れ甘々なふたりに7つのお題:敵情視察中 ***** にらめっこ 「九郎さんちょっとかがんでください」 ある朝、顔を合わせたなりの望美の第一声が、これだった。 色気も素っ気もない源氏軍総大将と白龍の神子は、偶然二人きりになった時でも、交わされるまともな話題は剣と戦の話だけ。もしくはその途中で言い争いに発展し、時には少女から平手が飛ぶといった具合だった。(ちなみにグーでないのは優しさだ、と少女は公言して憚らなかった) ともあれ、彼女の一言とそれに含まれる要求は、九郎の脳裏に警鐘を鳴らした。 「……何故そんなことを」 「いいから」 「理由もないのに出来るか。これから鍛練なのだから、邪魔をするな」 つっけんどんに言うのは、今回ばかりは意図的だった。この娘は意外にも敏いところがあるから、言われるままに動けば、悟られるかもしれなかった。 こう言えば大抵の場合、望美はぶうっとふくれて機嫌を損ね、凄まじい勢いで文句を言いつつ立ち去っていく。実のところ、九郎は内心でその反応を期待していたからこそ、こんな物言いをしたのだ。 望美は小首をかしげると、にこりと笑った。 その笑みに背筋を悪寒が走る。なんだろう、この笑いは。あの荒法師にやけに似ていた気がする。自分の居ない間に彼女は何を吹き込まれているのだろうか。 「ねえ九郎さん」 「───なんだ」 目を逸らしたまま退き気味の九郎に、望美は畳み掛けた。 「武士ともあろう人が、話す時に人と目も合わせられないんですか?」 「…………」 その誇りに爪を立てられてしまえば、九郎としても受けざるを得ない。 渋々ながら顔を真正面に戻し、望美を見つめて。 まるで吸い込まれそうな瞳に、むかえられた。 動けなくなる。息が、止まる。 時すら歩みを止めたように、見交わす望美の眼差しだけが、その時の九郎に自覚できる世界のすべてだった。 そんな九郎には構わず、望美は距離を詰めて白い大紋の袂を捕まえ、背伸びをして男の額に掌を当てた。 「……あ、やっぱり。熱ありますよ、顔赤いし目が潤んでるし、息もちょっと荒いし」 顔が赤いのは。 目が潤んでいるのは。 意識しないと息が切れてしまうのは。 ───心の臓が早鐘を打っている、その理由は。 「……誰の所為だと思ってるんだ」 隠れ甘々なふたりに7つのお題:動悸息切れの理由 ***** じゃんけん 眠れない。 何度も寝返りを打つのに睡魔が一向に訪れてくれず、苛立ちにさいなまれる所為で更に九郎の意識は冴えてしまう。熊野川が氾濫しており足止めをくっていることで、疲労が蓄積していないという事情は、この際救いと言うべきか災難と言うべきか。 『まず、げんこつを作るんです。これがぐー』 昼間の少女の声が仕草が、未だに脳裏をちらつく。 『で、ピースサイン……じゃ分かりませんよね。えっと、こう、ものを二つ数えるみたいな感じで、これがちょき』 指がくるくるとかろやかに動いていた。 『最後はぱー。これは簡単ですよ、ほら、ただ開けばいいの』 ぱっと指先が五つに開かれた掌は、それでも男から見れば呆れるくらいに小さくて。 『それでね、ぐーはちょきに強くて、ちょきはぱーに強くて、ばーはぐーに強いんです』 簡単でしょ、と望美は笑った。 九郎には到底一度では覚えきれないような、煩雑で不可解なことを言いながら。 『じゃあね、せーの、じゃんけんぽん!』 教え終わったばかりの遊戯の音頭を神子がとった時。 飲み込みの早い軍師と軍奉行はあっさりと波に乗れたのに、総大将ひとりが間抜けのように突っ立ったまま、何をどうすれば良いのか分からなかった。 『───九郎。君はどうしてそんなに、戦以外のことが駄目なんですか』 『仕方ないよ。それが九郎らしいんだし』 『……あの、九郎さん。私の説明、分かりづらかった?』 口々に言われ、心なしか同情とも憐憫ともつかぬ視線を浴びていることに気づき、かっと頬が赤らんだのが自覚できた。 『じゃあもう一回。ほら九郎さん、手、貸して!』 望美が手首を掴んで引いた。そのまま両手で、こちらの指を動かされる。 『難しいのはちょきかなぁ。えっと……こう、人差し指と、中指だけを立てて……で、他の指はこう、折り曲げて……』 九郎の意識はそれどころではなかった。 なんでこうも衆人環視の中で、女にいいように指をいじくり回されなければならんのか。 硬直した己の指と格闘するのに熱中している神子の頭上を飛び越えて、突き刺さってくる微妙な笑みが痛い。心なしか軍師の背後には妙な黒雲が漂っており、軍奉行はのほほんと『あ〜いいな〜九郎、羨まし〜』などと呟いている。 『…………っ、離せ馬鹿!!』 振りほどいても、望美は呆れた顔をするだけ。 『だって実際に、出来てないじゃないですか』 『知らんっ! 俺抜きでやれっ!!』 そのまま逃げるように踵を返した。いや、実際、逃げたのだ自分は。 あのまま望美のぬくもりを感じ続けていては。 自分の奥底に在る何かが、やどす色を変えてしまいそうで。 隠れ甘々なふたりに7つのお題:深層回転 ***** くちげんか 並んで向かい合う姿を傍目に見ると、いろいろな面での差異というものが際立つ。背格好も違えば持つ雰囲気も違う、どちらも長い髪をしているのは似ていると言えなくもなかったが、その色も流れもまったく異質なもので、かえってその対比が目に楽しい。 互いのおもてを面と向けて色めいた風な空気のひとつも醸すのかと思えば、そんな気配はまったくない。少女のほうは相手を睨みつけているし、男のほうも腕組みをして厳しい表情を崩さない。 少女が意気込んで何かを言いさした。ほぼ同時に男がしっしっと犬でも追いやるように手を振った。 それでますます少女のほうはぶんむくれ、つかつかと歩み寄ると、男の足を渾身の力で踏んづけた。咄嗟の攻撃をかわし損ねた男は、一瞬頬をゆがめると、踏まれた足を退いて庇いつつ口をひらいていた。大方、女性たるものの振る舞いについてどうこう、という説教でもしたのだろう。少女がつんと横を向いた。 朔はそんな彼らの姿を横目に、局の中で草紙の綴りをめくっていた。 今日はとてもいい日和だ。ぬくみのある陽光、明け方の朝露を含んできらめく庭木も大層心地よく、ほんのつかの間ではあるが長閑な時間が楽しめそうだった。 さてそろそろ白湯の準備でも始めようか、と朔は思い、でももう少しだけ、区切りのよい部分まで書に目を通しておいてもよいかしら、と考え直した。 ケンカしたから喉が渇いたの朔お水ちょうだい、と彼女の対は言ってくるし、苦虫を噛み潰したような総大将が軍議にかこつけて茶を言いつけるのもいつものことだった。けれど彼らの様子を時折窺っている感じでは、今日はもう少し、他愛ないにらみ合いは時間を費やしそうな塩梅だった。 不意にざあと風が吹いた。それに驚いた鳥の飛び立つ音や、築地の脇に積んであった材木が崩れる音が、朔の耳にも届いた。 思わず目を向けて庭の様子を見れば、少女を引き寄せて己の胸に抱え込み、油断なく周囲を見据える男の姿があった。 今ので風の流れる方向が変わったのだろう、声が朔の耳に無理なく入るようになった。 「───曲者、ではないようだな」 朔の対である少女の返事は聞こえなかった。 しっかり抱き込まれている所為か、それともそもそも届かないほど小声だったのか、それは朔には分からなかった。白地の絹にすっぽりと覆い隠されて、今は少女の姿は朔からは見えない。その顔がどれほど愛らしく染まっているのか、腕に閉じ込めた男しか見ることはないだろう。 それでいいのだ、と朔は思った。 白湯の準備は必要なさそうね、ちょうど草紙の続きが面白いのだし嬉しいことだわ、と、そっと立ち上がって障子を閉めた。 隠れ甘々なふたりに7つのお題:(なんだこの甘酸っぱさは!) ***** きのぼり 馬鹿と煙は何とやら、という諺が彼らの世界にはあると聞いたが、それは真実らしい。 幹に取りついてよじ登ろうとしている薄桃の色彩をうっかりと見つけてしまい、取りあえず九郎はそんなことを考えた。食い意地の張った神子はそんな観察相手には一向に気づかず、頭上にたわわに実った甘い果実を手に取ろうとするのに必死だった。 足をかけようとするたびに、丈の短い白い衣がめくれ上がるが、そんなことを気にするような女であれば、最初からこんな真似はすまい。かえってこちらが正視に堪えず目を逸らす。いや醜悪だから正視できないのではなく、むしろそれとは逆の───とそこまで考えかけて、何を考えているのか言語道断な、と我に返って己の煩悩を叱咤した。 それにしても、さてどうするべきか。九郎は思考をめぐらせる。 柿の木はただでさえ折れやすい。小柄な彼女はともかく、目の前の木は細く頼りなく、己を支えることは少々難しいのではないかと思われた。よって代わりに取ってやるという案は却下した。 叱りつけて首根っこを引きずり戻すのは手っ取り早い。しかし一度でも食い物を目にした彼女が、おとなしくそれに従うとは到底思えなかった。第一、自分とてそう暇ではなくこれから軍議を控えているのだから、馬鹿げた諍いに時間を費やすことは、無意味なだけで効果は薄いと思った。どうせ己が踵を返した直後に、同じことをやらかすに決まっている。 ならば彼女の気を引くような甘味を別に与えてやればどうだろうか。厨を自在に扱いこなす彼女大事の幼馴染みにでも言伝てれば、あっさりと首を縦に振って何かを作り始めるだろう。そうだ、それが一番いい。 つらつらと考えていた九郎がようやく適切と思える結論を導き出した時、気がついて視線をやれば少女はすでに木に登っていた。妙な節回しを口ずさみながら、枝から袖の中に次々と木の実を強奪していく。 九郎はまず呆れ、次いでぎょっとした。 まずい、考えに没頭していた所為で、阻止せねばならないことを見逃してしまっていた。 「望美、そこから降りろ!」 声を荒げれば、少女はたった今まで九郎の姿に気づいていなかったらしく、木の上でへらりと笑いながら手を振ってきた。 「あ、九郎さん。この木の柿、美味しいかどうか、知ってます?」 「馬鹿っ───手を離すな!」 「へ? ……っわ、」 手を振った桃色の小袖は、ごっそり入った柿の実でずっしりと重く、意識せずに動かした少女はものの見事に枝の上で体勢を崩した。 言わぬことではない、と九郎は思いながら、地を蹴った。 どさり、という音と、ばらばら、という音が、響いた。 柿のつぶてをくらいながらも、それを為した少女の身を、男はしっかりと受け止めて抱えた。 過保護な総大将から跳ね駒のごとき神子に対して叱責の雷が落ちるまでの、ほんの僅かな瞬間。 回された男の腕は、やわらかな少女を壊れ物のように抱き締めていた。 隠れ甘々なふたりに7つのお題:踏み外せば別世界 ***** おいつおわれつ 「私がそんなに邪魔ならそう言えばいいでしょ!?」 噛みつくような剣幕でそんなことを言うくせに、それを口にする当の望美の顔は、悔しそうと言うよりも、哀しそうだとか寂しそうだとか、そんな形容のほうがしっくりきた。 その表情をちらりと盗み見て、九郎は内心嘆息する。 「邪魔とは言っとらん」 「同じことだよ。そばをうろうろするなって言った」 「用もないのに寄ってくるな、と言ったんだ」 「それが邪魔にしてるって態度じゃなくて、なんなんですか!!」 望美の言い分は分かりやすい。第三者が彼らの諍いを聞けば、今回の場合は誰しも、少女のほうに理を認めるだろう。 対して九郎の言い分の真意は、言葉の表面をなぞっただけの意味合いとはかなり隔たっていた。それは当人も自覚している、もっと簡潔に誤解のないように、言葉を選ぶ必要があるのだということは。 分かっていて、それでも、そうしなかったのは。 できなかった、のは。 「───確かに、邪魔なものは、ある」 「…………っ!!」 感情の波が一気に高まったのか、望美のつぶらな瞳にじわりと涙が盛り上がり、それを恥じるようにぐいと乱暴に小袖を当てた。 偽りを述べないよう注意深く言葉を選ぶことはできても、真実を包み隠さず告げる勇気は、いまだ持てない。そんな自分を情けなく持て余しつつ、九郎は続けた。 「だがそれは、お前の所為ではなく、俺自身の未熟が招くものだ」 「……別にいいです、今更そんな言い訳しなくたって」 「虚言ではない」 「いいよもう! 九郎さんは私が嫌いなんだって、よく分かったから!!」 なにが"よく分かった"だ。 まったくもって何も分かっていないではないか。 自分の言葉の拙さを棚に上げて、九郎はそう思った。 もともと彼女とは、言葉を交わせばその半分以上が言い合いに発展する。互いに言葉の選びかたが上手くないのかもしれないし、意地と見栄が背を押して、つい心外なことまで口にしてしまう部分もあった。 だからこんな咄嗟の瞬間はいつも、口ではなく身体が先に動く。 「っ……!?」 いきなりの抱擁に硬直する華奢な身体をしっかりと捕らえて、腕の中の比売神に、九郎は懺悔する。 「───何時かこうなるから、不用意に寄るな、と言ったんだ」 何時かお前の意を無視して、ぬくもりを求めてしまうから。 己をそう為さしめる感情の意味に、もう、目を瞑って知らぬ振りができないから。 「望美」 分かりやすい言葉を選べば。 この熱を告げる以外無いと、本能が知っていたから。 「望美……」 幾度も自分の名を呼ぶその声の甘さに、少女は震えた。 その怯えを知りながら、男は繰り返すことを止めなかった。 「───距離を埋めたのは、お前のほうだろう?」 隠れ甘々なふたりに7つのお題:知らないふりはもうできない |