遙か3の九望(むしろ望九?)で【受け身な君へ5つのお題】+α
シリーズタイトルは「御曹司に抱きついてみよう! 白龍の神子五番勝負」でした(笑)。
叩いてくださった皆様、本当にありがとうございました!
| Lv.1 すぐに引き剥がす 望美の視線はずっと感じていた。 けれどそれが何を意味しているのか、九郎にはさっぱり分からなかった。害意や怒気は感じないし、それならどうせまともに取り合うだけ無駄なことを考えているのだろう、と大して気にも留めなかった。 今はそれどころではないのだ。源氏の実質的な指揮者が三名、顔を揃えての重要な相談時だった。 「……では、糧食の手配はそのように」 「頼む、弁慶。あとは京への配備の手はずだが、どうなっている景時」 「あ〜、昨日連絡が来てね。予定よりもうちょっとだけ、増やせそうだよ」 意識の九割がたは、この話し合いに向いている。 だが、残りの一割がどうしても、望美の方から離れない。 「…………」 「九郎? どうしたの?」 ついに黙り込んでしまった九郎に、景時が呑気な笑みを向ける。弁慶が彼の後方を見やって、ああと得心したように頷いた。 「可愛い許婚の熱い視線を浴びて、困ってしまっているようですよ」 「誰がだ」 不機嫌にぼそりと吐いて、九郎の苛立ちは頂点に達した。もともと気が長いとはとても言えないたちで、よくぞここまでもったと褒めてやってもいいくらいだ。 くるりと向き直り、無遠慮なほど真っ直ぐに見つめる少女のもとへ、ずかずかと歩み寄る。それと同時に望美の顔がぱあっとほころんだ。 「おやおや」 「へえぇ」 軍師と軍奉行には、その変化はいっそ鮮やかなほど目に映える。だが哀しいかな、戦のことには詳しくとも、女心など露とも分からぬ朴念仁には、笑顔は見えてもその意味までは読み取れない。 「おい、何をさっきから、人のことを見ているんだ」 「九郎さんお仕事もう終わりですか?」 九郎の声などまったく耳に入っていない調子で、望美はなおも笑う。 つつっと摺り足で九郎のそばに歩み寄る姿は、まるで見つからないように忍び足をするコソ泥さながらだった。良からぬことを考えている人間は、自然と行動が似るらしい。 「お前がじろじろ見ているから、身が入らな……っ!?」 九郎の声がとても不自然に途切れた。語尾は悲鳴になりかけていた(と、目撃していた弁慶と景時は後に証言した)。 ぽふん、と。 それは愛らしい音を立てて、望美が九郎に抱きついてきた。 「─────────!!??」 「えへへへへ〜♪」 望美は至極満足そうで、その幸せな笑顔は大変可愛らしい。のだが。 抱きつかれた九郎の方はそうはいかず、一瞬何が起こったのか理解しきれない様子で、間を置いて見る見る真っ赤になった(もしや頭に血がのぼりすぎて出血したのではないかと疑いました、と弁慶は語った)。 これ以上ないほど泡を食った様子で、源氏の総大将は白龍の神子の腕を掴み、べりっと音を立てそうな勢いで引き剥がした(勿体無いよね〜まぁそこが九郎なんだけど、と景時は語った)。 「お、お、おまっ!!」 「う〜ん、短すぎるか。失敗失敗」 「一体なに言って……! そ、それより、お前に慎みというものはないのか!?」 「ありませんよ抱きつくぐらいで」 今度は少女の方が、けろり、と音が出そうな調子で言い放った。 これにはさすがに大の男三名、呆れて咄嗟にたしなめる言葉も出てこない。 「じゃーねー九郎さん、次はもっと頑張りますから〜」 上機嫌の望美が去っていった後で、ようやく九郎は我に返った。 「次ってなんだ、次って!! おい、望美!!」 (ざんねんながらふごうかくです) 受け身な君へ5つのお題:正当なる困惑 ***** Lv.2 カチコチに固まる さっさと杯を取り上げていればよかった。 九郎は思うが、人はそれを"後の祭り"と言う。まあ後からするから後悔なのだが、そんな言葉遊びはこの際、何の慰めにもならなかった。 「うっふふふ〜」 九郎の目の前には、非常にご機嫌な望美。ご機嫌もご機嫌、何しろ気分よく酔っ払っているのだから、箸が転んでもおかしい女子高生から笑いが抜ける道理もない。 そもそも大した量を平らげた訳ではないのだが、二十歳にならない望美には少々きつい酒だったのかもしれない。ちびちび舐めていた杯が空になると、望美は九郎の方にずいと身を乗り出してきた。 「くろーさーん、もっとー」 「駄目だ。弱いなら弱いなりに自重しろ」 「けーちー」 「……せめてその話し方をどうにかできんのか、阿呆丸出しだぞ」 「くろーさんがアホっていったー、やーいアホーあほー」 「…………」 思わず怒りで持っていた杯を割り砕きそうになる。水面がふるふると震えた。 堪えろ。酔っ払った女を相手に怒鳴ったところで仕方がない。明日、望美の酔いが抜けた折に、あらためて説教してやればいい。それともこれしきの酒でこれほど酔うのだ、明日は二日酔いで潰れているのかもしれない。 反応を返さない九郎に焦れたのか、望美はさらに身を乗り出してきた。 「くろーさんてばー」 「黙れ」 もう相手にしないに限る。そのうち酔いつぶれて寝るだろう。 そう考えていた九郎の耳に、不意にくすん、と鼻を鳴らす音が聞こえた。 嫌な予感が脳裏をよぎり、目線を上げればそこには。 「ううぅ……くろーさんがかまってくれないー……」 ひっくひっく、と泣き出した望美の姿。 「っ、ば、馬鹿! 泣くなっ、この状況でお前が泣くと俺が殺される羽目になるだろっ」 真っ青になりつつ叫んだ九郎の言葉は、誇張でも何でもない。 白龍の神子一行の面子は、ことごとくが彼女を過保護気味に扱い、彼女に何らかの危害を加えようものなら、一切の事情は斟酌されず、素晴らしいまでに遠慮のない制裁を喰らうのだ。本来は九郎もその一員(それもかなり過保護な方に分類される)のはずなのだが、この集団は仲間に対しても手加減というものをしなかった。いや、むしろ、九郎に対しては過剰気味の制裁が加えられるようになってきている。 その原因が何故なのか、当事者二名のみが知らぬままなのはさておき。 「だってぇ……うひゃ」 懲りずに望美は身を乗り出し続けていたらしい。無理な体勢を取ったのか、ぐらりと傾いた体の平衡をたもつため、とっさに目の前にあるものにしがみついた。 目の前にある、九郎の体躯に。 「──────!!」 ころされる。俺は殺される。ああ、源氏のためと生きてきたがここまでか。 一瞬、辞世の句が頭をかすめた九郎だった。 「……んにゃ」 転倒を免れた望美は、人の体温に安心したらしい。そのままくてっと力が抜けて、完全に九郎に圧し掛かる状態に落ち着いていた。 「離れろっ」 「…………」 九郎の押し殺した悲鳴(大声を上げて死刑執行人を呼びたくない)は、望美の安らかな寝息に弾きかえされて、虚しく宙に消えた。 「……勘弁してくれ」 もはや混乱と恐怖の極みにある九郎は、ひそりと動いた自分の感情に気づけなかった。 やはり小さい身体をしているのだな。 どこもかしこもふわふわとやわらかい。 まもって、やりたい。 「誰か助けてくれ……いや、誰も来ないでくれ!」 (もうすこしがんばりましょう) 受け身な君へ5つのお題:この状況でどうしろと? ***** Lv.3 肩に手を置く はらはらと散る桜の風情は、何とも言いがたい情緒を匂わせる。 「きれーい」 「そうだな」 九郎の簡潔な返事に、望美はむぅと頬を膨らませた。そうすると幼い印象が一際強まるのだが、それもまた愛らしさを醸し出しているのだから、まったくもって姫気質なのは確かだった。 「九郎さんてばムードがない」 意味の分からない言葉を投げつけられても、九郎には反論のしようがない。せいぜいが眉をしかめて問い返すくらいだが、最近の望美の返事は、訊いても彼がうろたえるような内容であることが多いため、開きかけた唇をそのまま閉じた。 それがまたしても、望美の膨れっ面を助長する。 「訊いてもくれないんですか」 「……どうせ俺には分からん話だろう」 意気地なし、と望美は小さく呟いた。夜空にその声はすぅと融けていく。 本当にそうだな、と九郎は思う。目の前の少女に関しては、自分がひどく自分らしくないような、そんな気がする。それは望美のせいか、それとも自分のせいなのか。 考えても仕方ない───その一言で片付けられない。片付けられなく、なってきている。 「───ひゃ」 間抜けな声が上がった。 見ると望美は、その長く美しい髪を夜風にさらわれて、視界がきかなくなっていた。 「何をしてるんだ、お前は」 「だって急に風が……もう、九郎さんこそ、私よりずっと髪の毛が長いじゃないですか!」 わたわた髪を掻き分けては撫でつける望美の仕草が、見守る九郎の胸にほんのりと熱をともした。 しかしこの鈍感な男は、『幼子を見守る親というのはこんな心持ちがするのだろう』と、救いようもなくずれたことを考えていた。 「俺は結っている。お前と一緒にするな」 まあ度外れて長いものは長いが、と内心でひとりごちた。 「結えばいいだろうに」 「んー……こう、かな?」 小さな両手は夜目にもしろい。その手がつややかな紫紺をたばねて、首の後ろでくい、とまとめた。 「──────っ……」 望美の様子をずっと眺めていた九郎は、思わず横を向いて掌を口に当てた。 触れたら折れそうな、細いうなじ。滑らかそうな肌。華奢な、すがた。 そういったものすべてがまともに視界に飛び込んできて、心の臓の音が望美にまで聞こえるのではないかと、そう思った。 「どうですか? 九郎さん」 「……や、やはり、今のままで構わない!」 「?? なんですかそれ、九郎さんから言ってきたくせに」 「忘れろっ! そ、それにだな、髪に花びらがついているぞ」 なんとか話題を変えようとする九郎のわざとらしさは、やはり同じように鈍い部分のある望美には気づかれなかった。 「え、どこですか」 「あちこちだ、さっさと取───」 軽くちいさな、あたたかい身体が、九郎にふわりと抱きついた。 あまりの驚きに声を出すのも忘れて、ただ呆然と、自分の胸あたりにある頭を見下ろす。 「鏡なくて、見えないから。取ってください九郎さん」 「…………」 ───道理は通っている。そうだ、取ってやるだけのことだ。 もはや何に言い訳しているのか。自分にか、見られた時の周囲の者にか。そもそもこんな所を目撃される可能性がある、ということに、九郎の頭は沸騰寸前になる。 けれど───このぬくもりを、自分から離そうとは、何故か思わず。 無骨な指がこわごわ、真っ直ぐな長い髪に伸ばされた。 自然と、まろい肩に、手を添えて。 (どりょくのあとがみられます) 受け身な君へ5つのお題:立ち向かえ ***** Lv.4 恐る恐る腕を回す 「好きです」 いきなり望美の唇から飛び出した言葉に、九郎は首をかしげた。 「なにがだ」 もちろんそれでめげる望美ではない。 向かい合っていた三歩の距離をずいと詰める。と、九郎が目に見えてうろたえ、後じさった。三歩の距離は一歩に近づき、そして二歩に広がる。 「望美!?」 「動かないでくださいよ九郎さん」 「だったら近づくのをやめろ!」 「九郎さんは私が近寄るのが嫌ですか?」 ぐっ、と九郎は詰まった。 ここで嘘でも応と言えるようなこなれた性格であれば、そもそも九郎も望美も、最初からこんな思いはしていない。 こんな気まずい、もどかしい───熱を帯びた想いを。 「いやですか、九郎さん」 望美の瞳は真っ直ぐに、九郎を捉える。 捕らえる、と言っていいほどに、九郎は彼女のすべてに逆らえなかった。 それは望美のせいだけではなく、自分の内に確かに存在している、たったひとつの感情のせい。 「……いや、ではない」 「なら」 三歩の距離は、零になる。 ようやく触れた相手の、その逞しい背に腕を回し、望美はゆっくりと息を吐いた。眩暈がするようなその甘さは九郎の胸にそのまま沁み込み、気が狂うほどに脳髄を痺れさせる。 「───どう、した」 「……これでも、分からない振り、するんですか」 ひきょうもの、と少女は呟いた。 青年の腕が、ためらいがちにゆっくりと、華奢な身体にまわされた。 あふれるほどのこの想いが、たったふたつの音であらわされてしまうなんて。 ことばというのは、なんて不自由なんだろう。 長く延びた二人の影は、寄り添って一つになったままだった。 (たいへんよくできました) 受け身な君へ5つのお題:甘い混乱 ***** Lv.5 自分から抱きしめる 「九郎さんのばかー!」 望美がかっとなって叫ぶ言葉に、九郎もつい熱くなる。 「どっちが馬鹿だ! お前こそ反省しろ、俺は譲らんからな!」 大人気ない、という言葉がぴったりな二人の痴話喧嘩は、もはや誰も見ない振り聞かぬ振りで、止めに入る者はいない。 だもんで現在、喧嘩中の二人の周囲には誰もおらず、声を聞きつけてやってくるような奇特者もいなかった。 「ばかだからばかって言ってるんです……っ!」 望美の大きな瞳から、ぼろっと大粒の雫がこぼれ落ちた。 当然九郎はぎょっとなったが、望美自身にもそれは予想外だったようで、はっと頬を押さえると、くるりと後ろを向いた。 彼女は確かに女性なのだが、自分からそれを武器にしようとはしない。だからこそ九郎は自分のそんな一面を好ましいと想ってくれる、それは望美にも分かっていた。 泣き落としみたいな真似は、卑怯だからしたくない。 「…………」 あれほど喧しく言い合っていた言葉が、ぴたりと途切れる。 間抜けのように二人して立ち尽くす中、庭をおとなう鳥の鳴き声だけが、微かに響いた。 「───望美」 「……なんですか」 依然として後ろを向いたままだった望美は、突如包まれた腕の感触とそのぬくもりに、びくりと身を震わせた。 「望美」 「…………」 返事をしないのは、拗ねているからではなく、急激に速まった鼓動が激しすぎて言葉を話せないから。 背中を覆ってなお余りあるその体躯の持ち主は、拘束した腕の力をきゅうと強めると、後ろから少女の肩口に顔を埋めてきた。 「のぞみ」 耳のごく近くでささやかれた声に、足から力が抜けるかと思った。 「泣かせるつもりではなかった……」 ゆるしてくれ、と。 九郎にとっては故意でもなんでもない、ただの必死の一言だったのだが。 望美には、これ以上ないほどの急所を食い破った一撃になった。 (とてもりっぱなせいせきです) 受け身な君へ5つのお題:苦し紛れの反抗 ***** Lv.Max だから、抱きしめて 「えへへ〜九郎さん、お疲れさまでした!」 「もう二度とやりたくない……」 「私は楽しかったですよ。遠慮なく九郎さんに抱きつけて」 「お前は恥じらいや慎みという言葉を知らんのか!」 「あ、そういうのは九郎さんが持ちすぎているんでですね、私の方は思いっきり捨てることにしたんです。そうじゃないといつまで経っても、ハグすらできないままっぽいから」 「(はぐ?)と、年頃の女がそれでいいと思っているのか!!」 「だって九郎さん相手だけだもの。九郎さんは私に抱きつかれるの、いやでしたか?」 「…………」 「九郎さーん?」 「……情けない、だろうが。そういうことは男からするものだ」 「……え」 「だいたいお前が先に抱きついてくるから! 俺は……どうしようもなくなるんじゃないか!!」 「…………」 「…………」 「……じゃあ九郎さん、抱きしめてください」 「なっ、い、今ここでか!?」 「待ってますから」 「───っ」 「いくら遅くなっても、我慢して、いつまででも待ってますから」 「望美っ……」 「───ねえ、抱きしめて?」 『抱きしめる』だけで終わったのかは、二人だけの秘密。 (だいすき。だから、だきしめて。) |