| そりゃあ今までだって、目の前のこの人と衝突したことは数え切れないくらい。 でも、ここまで。 ここまで訳が分からなくなるほど腹が立ったことなんて、あっただろうか。
九郎さんの言葉の意味は最初、よく分からなかった。 ───私、を。 「……え、なに言って……。九郎、さん?」 間抜けな話し方をしているな、と自分で思った。ぽかんと口を開けて、妙なところでつっかえて、ただじっと相手を見上げることしかできていない、まるで子どもだ。 「本陣に残れ。これは総大将としての命令だ」 九郎さんはもう一度、はっきりとそう言った。誤解する余地もないくらい、はっきりと。 私を。怨霊を封じる、白龍の神子の力を。 全身がふるえた。やっと込み上げてきた怒りにすべてがさらわれた。 「どう、いう……ことですか」 言葉までふるえる。うまく口がまわらない。 ふざけないでよ。 私が今まで何のために、剣を取ってきたのか知りもしないで。 「…………っ」 ああ、どう言えばいい? ぶるぶると震えながら立ち尽くす私は、自分の感情に手一杯で、九郎さんの様子なんかちっとも目に入っていなかった。見えてはいたけど、その意味なんて考えなかった。
「……どうして」 ようやく押し出した声は、我ながら面白いくらい掠れていた。 「どうしてですかっ! 理由くらい言ってくださいっ!!」 「言えば従うのか」 返事があまりに冷静だったものだから、私はもう、怒りで視界が歪むかと思った。 「聞かないうちから従えっこないでしょ!?」 「言ったところでお前が従うとは思えん」 視線で人を傷つけることができるなら、今の私は九郎さんを軽くひねり倒せると思った。 認めてくれたと思ったのに、ここまで馬鹿にされて舐められるなんて。 「ふざけないでっ! 九郎さんなんか何も、なんにも知らないくせに」 わたしが どれほど あなたをまもりたいと思っているか。 悔しい、悔しい、悔しい。なんで分かってくれないの。 「……っぅ」 泣くのは卑怯だと分かっている。でも、止められない。 私の好きな人が、私をこれ以上ないってくらい、一方的に否定するから。 「咬むな」 九郎さんが初めて、困ったように声を揺らした。節くれだった指がすっと私の顎をひと撫でして、唇を這う。咬みついてやろうかと一瞬思ったけど、決戦前の総大将なんだから怪我させるのはさすがに不味いだろう、と考え直してやめた。 「怨霊は、どうする、気ですか」 「どうとでもできる。今までだって、お前が戦場の全ての怨霊を封じてきた訳じゃない」 「私は、自分を守れないほど、弱いですか」 「……いや、そういうことじゃない」 「だったら」 もう何を言ってもムダだ、と悟った。この人はハナから、私の話を聞く気なんてないのだ。 「九郎さんが総大将として私に命じるなら」 私、は。 「私は龍神の神子として、八葉に命じます」 私に与えられた、唯一の権威。
「神子として八葉と共に在ります。止めたいなら、私を斬ってでも止めればいい!」
───あなたが逆らえない役割を持ち出してでも、引き下がる訳にはいかない。
【8.冗談じゃない】了 |
**反転コメンツ**
お題連作vol.8【冗談じゃない】語り手:望美。7章屋島の3部作2話目。本気でキレる望美。
相変わらずゲーム本編の流れを完全無視で突っ走っておりますので、ご了承願います。
あれー本当はもう少し甘いとこまで進めるハズだったのに、望美の怒りが激しすぎてそこまでいかなかったぞ(笑)。
まあいいや、九郎、頑張って挽回せいよ。決めるとこはビシッと決めろ。やればできる子だって信じてるからね!