| 私の世界ではね、知らずに犯してしまった罪は、軽くなるんです。 でも、そんなのは嘘。 だって、私が知っていれば。ほんの少しでも知ってさえいれば。 こんなことには、ならなかった。
「九郎さん……」 暗く湿った牢に、呼びかけた声は茫洋と響いた。 「よく、牢に入れてもらえたな」 九郎がほのかに笑みを見せた。けれどそれは、かつて望美が見たこともないような弱々しい笑顔で、かえって彼の苦痛を浮き彫りにするだけの表情だった。 「おいっ……そんなところに座ったら、汚れるだろう」 「うん」 「ここは冷える。風邪でもひかれたらかなわん」 「うん」 「聞いているのか? 望美」 「うん」 言葉の無駄を悟ったのか、九郎はもう一度だけ微笑んだ。 「……仕方のない奴だな」 「うん……」 だから望美も、必死に笑おうとした。
「兄上への書状をしたためた。これを鎌倉の兄上に渡してほしい」 九郎が懐から差し出した書状を見て、望美の瞳から涙がこぼれた。 「……っ九郎さん、分かってるんでしょ? ほんとうは、分かってるんでしょ!?」 ───鎌倉殿が許しを与えることなど、有り得ないと。 望美の悲痛な叫びに、九郎の眉も一瞬、歪んだ。 「望美」 格子越しに手を伸ばし、いつもしていたように、望美の頭を撫でてやる。さらめく手触りは九郎の指に、甘いぬくもりを宿した。 「比売神の言霊だ……口にすればきっと、真実になる」 ───だから、言わないで。 望美が顔を上げた。涙に濡れた頬は痛々しく、それがすべて自分のために流されたものなのだ、と気づくことは、ひどく九郎の心を騒がせた。九郎のために、九郎のためだけに泣いてくれるひとなんて、望美と、彼女によってもたらされた仲間たちくらいしか、思い当たらなかった。 「……わか、た……ごめ、なさっ……」 この優しい娘をこれ以上、ここに留めてはいけない。九郎はそう思う。 「これを読んでいただければ、兄上の疑念も晴れるはずだ」 また溢れそうになる涙を、口から飛び出そうになる頼朝への弾劾を、望美は必死で飲みくだした。九郎さんは言ってほしくない、と言った。私の言葉は真実になる、と。 「うん……きっと……そうだね」 望美の髪を繰り返し梳く九郎は、静かに微笑んだ。それが本当におだやかで嬉しそうな、優しい笑みだったから、望美はそれ以上の言葉が出てこない。 「九郎さん。私、もう行かなきゃ……」 髪を撫でる指が、止まった。やがてそっと、名残惜しげに離されていく。
格子を隔てて掴んだ九郎の手は、冷たかった。かたく骨ばった指も、心労のせいか心無し細くなったようで、今更に望美の心には強い哀しみが湧き上がる。 「九郎さん……待ってて……」 絶対、絶対、あなたをこんなところで死なせないから。あなたが書いた手紙、頼朝さんを脅してでも読ませるから。 「ああ」 九郎がゆっくりと、格子に向けて顔をかたむけた。望美もそれに応える。 「俺の運命は、お前に託したんだ」 ああ、どうして。 「お前は、あたたかいな……」 涙よ、どうかこぼれないで。 「……九郎さんが、冷たいんだよ」 「そうか……」 ───触れ合った額は、互いの想いでひりつくようだった。 抱きしめ合うことも叶わず、二人でただ、祈る。 「本当に、お前はあたたかいな……」 さようなら。さようなら。許してくれ。ごめんなさい。 とても虚しい、けれど心からの祈り。 「望美、忘れないでくれ」 瞳を閉じたまま、九郎はつぶやく。 「お前がもたらしてくれたもの全てが、俺にとっては代えがたい宝だ」 やはり瞳を閉じて聞き入る望美に、その言葉はあまりに哀しかった。 「───ありがとう」
お前を最後まで哀しませてしまって、済まない。
了 |
**反転コメンツ**
腰越状を入手する牢屋イベント(十六夜版)。これだよこういうのが欲しかったんだよイベントー!
MIXJOYで3のコンプデータ使ってたもんですから、まさかあの場所にあんなスチルが出るなんて思ってなかった!!
しかしあそこって牢なんだよね。格子の隙間があんなでかくていいのか?(笑)
九郎の頭がポニテごと余裕で外側に出てるぞ。手が出るのがやっと、くらいに考えてたので、意外っちゃ意外。