| 私はもう、自分の手の届かないところで、誰かを喪いたくはなかった。 なのに。それなのに。
「……あら、起きたのね。うたた寝なんてしていると、風邪をひいてしまうわよ」 不意に聞こえてきた朔の声に、はっとした。私はどこへ向かっていた? 「朔……ここ、どこ、だっけ?」 なるべく、寝ぼけた自然な感じに聞こえますように。必死にそう念じながら、私はもっとも知りたいことで、もっとも恐れていることを尋ねた。 「まあ。疲れているの? 福原へ向かう途中よ、忘れてしまったかしら?」 親友の笑顔はいつも通り、静かで落ち着いたものだった。それでも不安は拭えない。 「……九郎、さんは?」 「九郎殿なら、弁慶殿と兄上と、陣幕にいらっしゃると思うわよ」 朔の言葉は耳に入ってきている、ちゃんと理解もできている。 「……望美!?」 後先を考えずに駆け出した。 ───九郎、さん。 「…………っ」 「どうした!? 怨霊の気配か!?」 慌てた様子で大股に歩み寄る、その白地の笹竜胆。 「おい! 望美!?」 「…………っっ」 ───全身から込み上げたものが、あっという間に目から溢れ出した。
「……どうしたんだ一体。お前がここまで取り乱すなど」 私が大声で泣きながら九郎さんにしがみついて離れなかったので、話し合いは一時中断という形になった。いつの間にか、弁慶さんと景時さんはいなくなっていた。 「くろ、さ……ッ、くろう、さん……!!」 私の手は、夢を抱きしめている? 「望美」 困ったように頭に置かれた手。私は必死に、そのおおきな掌を握り締めて引き寄せた。 「泣くな。俺が、困る」 いや、だ。 「……っふ、ぅ……っ」 ぬくもりが、私をすっぽり包み込んだ。 「望美」 九郎さん。もっと話して。あなたの声を聞かせて。 「お前がそんな風に泣いていると、俺も、つらい」 九郎さん。九郎さん。九郎さん。 「望美……」 無骨な指が、私の頬を撫でた。これって涙を拭ってくれてるつもりですか、九郎さん? 「くろう、さん……しんじゃ、いやだ」 泣き喚いていたせいでつっかえつっかえ言うと、九郎さんが身じろぐ気配が伝わる。 「……俺が死ぬ、夢でも見たのか?」 夢じゃない。ゆめじゃない。そうならどんなに良かったか。 「ほら」 九郎さんの胸に抱きこまれるかたちになっていたのが、ぐいと顎を持ち上げられた。 「俺を見ろ」 ああ今私は、ひどい顔をしてるんだろうな。 「生きている」 九郎さん。 「俺は、生きているだろう?」 九郎、さん。 「大丈夫だ」 なにを根拠にそんなこと言うの。 ───まもるんだ、と思った。 私がまもるんだ。優しくて不器用で、誰よりも純粋な、このひとを。 九郎さん。私、あなたに殺されかけました。
私は弱くて愚かで、先を見通すこともできなくて。 あなたの記憶に残らなくても、私はずっと、忘れない。
【5.忘れられない】了 |
**反転コメンツ**
お題連作vol.5【忘れられない】語り手:望美。5章福原で腰越状入手→時空跳躍直後。
全キャラ攻略するとやっぱり思うけど、九郎ルートって一旦死亡時の他キャラのリアクション、うすい…。
掘り下げ不足でモッタイナイ。そのぶん、十六夜での爆発的萌えが待っていたワケですが(苦笑)。
単発作品の方で、牢屋イベントの補完SSも書いております。