| 「お前、ちゃんと食っているのか」 背負った娘のあまりの軽さに、九郎は驚いた。もともと男女の体格の差はあり、九郎から見れば望美など小柄に見えるほどだったし、それでなくても華奢な体つきをしているのは、一目見るだけで知っていたつもりだった。 「は、はい。皆さまに良くしていただいております」 嘘を言っているつもりは、望美には毛頭なかった。 ───そのために毎夜貫かれる、からだとこころ。 「あの……やはり、お捨て置きくださいまし。お武家さまのお手を煩わせたなどと、主に申し訳が立ちません」 九郎は一向に歩みを緩めない。 「断る」 「九郎さま」 「俺がそうしたいんだ。お前が気にすることじゃない」 「…………」 次第にぼうっとする頭を抱えて、それ以上の反論が望美には浮かばなかった。 ことり、と背後のぬくもりが力を抜いて凭れかかってきたのを、九郎は感じ取った。 「───望美?」 「…………」 遠慮からか強張っていた身体が、抵抗を見せぬまま他愛ない重みを伝える。 「望美……眠ったのか?」 耳元にかかるようになった望美の吐息の熱さに、九郎は相手の異変を確信する。 なんにせよ、眠ることは消耗した心身を癒す効果がある。起こそうとは思わなかったが、負傷の具合を早急に検めねばならないことは確かだった。ちらちらと舞う雪は降り方が強くなってきており、それを凌ぐことも必要だった。
中は相当埃っぽかったが、戸外で雪に降られるがままよりはましだった。 そこまで見て取った瞬間、ぎくりと九郎は身を強張らせた。 背に乗れと言った。無理に歩かせる訳にはいかないのだから、真っ当な判断だった。 何よりまずいのは、その体勢だった。 乱れた布地の奥に在るはずの蕾は、もう花ひらく瞬間を待っているのだろうか。 「…………っ!!」 慌てて視線を逸らし、それだけでは飽き足らずにぐっと強く瞳を瞑る。 ───そんな、つもりではない。 九郎は必死に己に言い聞かせた。 だが、普段は色事になぞ疎いのに、こういう時に限って妙に頭が回ってしまう。 「───く……っ」 想いを自覚している以上。 努力して殊更にゆっくりと息を吐きながら、九郎は昂った熱を鎮めようとした。 「…………、ふ……」 鎮まれ。 薄暗い廃屋の中に息づく、ふたつの命のぬくもり。
「その役目、是非に私にお申しつけください」 戻った遊郭では、既に兄と取り引き相手の密談が始まっていた。やはり道中の天候に難儀したが、夜間にまで到着がずれ込む事態にはならずに済んだらしい。 「……お前が出る必要はない」 棟梁の弟を遣わすほどの内容ではない。 「お願いいたします。せめて目に見える形で、兄上のお役に立ちたいのです」 それでも九郎は重ねて申し出た。 兄の鋭い眼差しを、真正面から九郎は受け止めた。 「───ならば命じる。確かに届けよ」 「はっ」 書状を押し頂いて懐に収め、立ち上がった。 望美のいる、この遊郭から。 「京は遠い。道中心せよ、気取られるな」 「心得ましてございます」
続 |
**反転コメンツ**
書きたかったシーンがやっと書けました…本懐を遂げるってこんなに清々しい気分になるんですね!(大袈裟)
ちなみに書きたかったのは、九郎が神子を背負って欲情するシーンでした(殴)。
九郎、自ら名乗り出ておつかい旅行です。これで少なくとも京が舞台じゃないことははっきりしたな(笑)。
これ実は次の展開への導入です。神子の客取りカウントダウンはもうすぐそこまで…!