| 何かを願い怖れる気持ちは、どこから生まれるんだろう。
自分がねだることはそんなに我が侭なことなのだろうか、と望美は思う。 「…………」 はふ、と気の抜けた溜息が小さな唇から洩れた。 「うん、無理だよね、九郎さんに限っては」 愚痴るそばから自己完結してしまった自分に、望美は苦笑した。
望美はなにも、逆立ちしたって不可能なことを要求しているつもりはない。一緒に映画を見るとか遊園地で遊ぶとか、そうやって街を歩く中で友人にはち合わせて「この人、私の彼氏なの」と自慢したい───などと言うつもりはない。この異世界の中でだって十分に可能な、一般的に考えれば恋人同士の間ではごく普通に行われるであろうことを、もう少し期待したいというだけなのだ。恋人なら恋人らしい態度で接してほしい。多くの責任を背負うひとだからいつもとは言えないけれど、ほんのたまに、余暇を楽しむ時くらい。二人きりの時だけでなく、みんなの前でも。 「欲張り……なのかなぁ」
胸元に手を当てて望美は悄然と呟いた。その下にある鱗の感触を、衣越しでも神子の手は既に間違えずに読み取れる。願うたびにちりりと熱を放つそれに触れるたび、受け取った日の熱さを思い出す。止めることのできなかった、運命。
九郎が生きていて。 「…………うん」
それだけでもういいや、と望美は思った。 「鬱陶しい女だって呆れられるのだけはやだし」
日に日に柿頭の尻尾が萎れていく過程を眺めているのが、弁慶の最近の日課である。髪を束ねているだけの筈なのだが、あれは僅かなりとも当人の意思を宿しているのだろうか。だとしたら本当に犬の尾並みだ。 「で、心当たりはないんですか」
九郎の返事は無い。 「……女というものは、分からん」 「僕に言わせれば、君が望美さんの心を射止めた理由こそ分かりませんが」 照れて怒鳴り散らすかと見守る弁慶の前で、九郎は肩を落とす。 「……そうだな。いい加減に愛想を尽かしたんだろう」 おやこれは重症だ、と薬師は内心の帳面に患者の病状を書き付ける。 「俺は女人のあしらいなど分からんし、気の利いたことも思いつかない。もっとあいつのことを分かってやれる男のほうが、共に居て楽しいだろうし」
自信喪失。まあ恋の病においてはこの男に自信など最初から皆無だが。
病状を分析し終えると、弁慶は笑顔で手を軽く上げ、勢いをつけて振り下ろした。 「……っ!」 「呆けすぎですよ。それでも大将ですか、情けない」
がつんとかなりいい音がしたことに満足し、弁慶はようやく湯呑みを床に置いた。 「そうやって一人で拗ねるより先に、することはないんですか」 「……どういう意味だ」 「いつもいつも望美さんが来てくれるのを待つばかり、来なくなったら遠くから物欲しげに眺めるだけ。たまには自分から動いてみたらどうです」 「──────っ!」
九郎の頬にさっと朱が走った。 「手を伸ばさなければ、欲しいものなど手には入りませんよ」
会いたい。 でも、きらわれたらもう生きていけない。
たった一人の相手にだけ、途方もなく欲張りで、途轍もなく臆病になれる。
了 |
**反転コメンツ**
可愛らしい感じで…!と念じつつ書いたら当初のネタとは二転三転。(いつものことです)
いやもう萌えのおもむくままに放っとくといつも切ないモードが点灯するので、これはこれで貴重なノリかも@当サイト。
ゲームシナリオやルートは考えずに…というより敢えて無視して書きました。恋仲@異世界って九望じゃない(笑)。
九郎が無印ルートで自覚したのは壇ノ浦が終わってからだと思ってます。(遅すぎる)