| 禁忌とされればそれに一層惹かれるのが人の常というもので。 その煩悩を完全に絶ちたければ、最初から近づかないのが我が身のためなのだ。
九郎がさっぱり分からない些細なことで、その神子は即座に空気の喜怒哀楽を変える。 「九郎さんの馬鹿っ!!」
今日は泣くまでいかずに怒りの段階で終わったらしい。望美の叫びを耳にした仲間たちが考えることといったら精々その程度で、誰もその少女と、彼女の罵声を浴びた男を心配する者はいなかった。何しろ連日のことなので、いちいち気に留めるのも阿呆らしい。もちろん、尊い神子様のご機嫌を損ねた馬鹿者に対して、一部の者たちから他愛のない報復が行われるのではあるが。 『可愛いひとの味方になってあげるのは当然でしょう?』 『男と女が諍ったら、女が正しいって世の中は決まってるのさ』 頼んでもいないのに口だけ挟んでくる朱雀の男どもは、そうした薄情な台詞ひとつで九郎の肩を持つことを拒否した。もっとも九郎とて、彼らの加勢を求めるつもりはなかったが。 『またなんですか。もう、九郎殿もいい加減に、少しは望美のあしらいを覚えてください』 彼女が大体において泣きつく相手である対の娘は、そう言って嘆息する。己が直接迷惑をかけているのではないが、間接的に被害を与えていることになるので、申し訳ないと頭を垂れるしかない。だが、あしらいを覚えろと言われても、どこに問題があるのか。 上辺だけの言葉をつくろうなど無意味だ。 「無闇に誉めそやされるのを求める訳でもあるまいに」 九郎が認めた戦神子は、そんな驕慢な女ではない。 「……女というのは、分からん」
そんな諍いから数日後、板敷に転がって眠りこける神子を発見したのは何の偶然か。 「っ、おい!」 驚いてつい上げた声にも、望美は目覚めなかった。 「…………っ」 こくり、と喉が鳴ったのは、暑さのせいだ。 「……ん、……ぃしく、ない」 望美が何かをもごもごと言い、やがて上がった瞼の奥から、ぼんやりと翠の色が覗いた。 「……あれぇ。くろう、さん?」 「…………」 何を言ったらいいのか分からずに九郎が固まっていると、望美は寝ぼけていたのか、再度瞼を閉じてしまった。 白く、細く、やわらかくて華奢な。 「───まったく、まるで神子らしくない神子だな、お前は」 九郎は呟き、嘆息した。 天女を恋うて、何になる。 動く気も失せ、九郎はそのまま、望美の傍らに胡坐をかいて座り込んだ。
目で見て愛でることができるのに、手を伸ばしても届かない。
了 |
**反転コメンツ**
九郎がひたすら悶々としてる話を書きたかったので、季節柄、夏をからめた小ネタでした。
ツンデレというのはかなりの確率でむっつりなんじゃないかと思います。脳内ではデレてるってことなんでしょ?
まあ正確な定義うんぬんは脇に置いておくとして、私が書くと御曹司は大抵むっつりになります(爆笑)。
神子は自分がどんな目で他人から見られてるかもっと自覚したほうがいいと思います。(譲も含め)