| 今日はひと月前の返礼をする日なのだと、聞いた。 だから、だ。貰っておいて何も返さぬなど、義理が立たない。かと言って、情けないことだが、俺はまだこの世界に在っては己の身すら立てられない暮らしをしていて、無意味に右往左往するのが関の山だ。お前に何かを贈ることなど、望むべくもない。
その……嬉しかったんだ。お前が俺にくれた、その気持ちが。
けれど後悔はしない。することなど有り得ない。
俺はこんな性格だから、面と向かっては言えないかもしれない。分かってはいるんだが、どうにも気恥ずかしさに襲われると、思っているのとはまるで違う言葉が勝手に口をついて出てきてしまうんだ。尤も、それはお前も同じことらしいがな。 だから、こうして文に託す。
望美。お前が、好きだ。
別れ際の九郎に『絶対に家に戻ってから開けろ』と言い渡された手紙は、飾り気も素っ気もない茶封筒に無地の便箋で、人となりが知れようという情緒のなさだった。
仮にも公家との付き合いをこなしていた筈の元御曹司は、料紙も花も香も、恐らく自分で考えたことは一度もなかったのだろう。
何度も何度もコール音を鳴らす。出ない。が、居留守(?)なのは分かっている。 「九郎さん」 『…………なんだ!』
デジタル音として聞こえる恋人の声は、やはり普段と少し違う。 「手紙、ありがとうございました」 『…………』 「あの、それでですね」 『ま、待てっ! みなまで言うな!!』
「いえ、私、あれ読めなかったんですけど」
『…………は?』 「だから。私、あんな達筆な崩し字、読めません」 『…………』 「もらっておいて悪いんですけど、なんて書いてあるのか読んでもらえません?」 『出来るか馬鹿!!』
通話は一方的にぶち切られた。
本当はね。 『望美』『好』『幸』 ───ねえ、これってラブレターだよね?
望美はくすくすと笑いながら、手早くメールを打った。 『私も九郎さんが大好きです』
了 |
**反転コメンツ**
ホワイトデーは現代ネタで。電話かけるのもメールするのも神子からという攻め将棋(笑)。
そう言えば昔、遥か対応メールソフトでこういうタイトルのありましたっけね。私は興味なくて持ってなかったけど。
九郎は何しろオフィシャルで手紙に柿な人だから、そんな便箋を選ぶとかいう発想は絶対ないと思われ…!
こんなネタでもなきゃ九郎は死んでもラブレターなんてくれないと思うので、書いてて楽しかったです。