冬の夜、草原で

 

 ……なんだ、眠ってしまったのか?
 今宵が特別な祭祀の夜だと言い出したのはお前のほうだったのに、まったく、幼い童のようなところは、いつまで経っても変わらないんだな。
 もたれてきた肩をもっと引き寄せて、被った布で更に慎重にくるむ。こうして二人、星空を見上げながら身を寄せ合って。星が綺麗ですよ、と言ったお前は早々に眠り込み、俺だけが取り残されてしまう、そんな静かな夜。

 ───ああ、そうか。
 とても静かに感じるのは、普段ならば喧しく回るお前の唇が、寝息ばかりをつむぎ出している所為か。

 なにもこの寒い中をわざわざゲルの外に出ることはあるまいに、どうしても星を眺めたいのだと言ったはずの瞳は、長い睫毛に閉ざされている。風邪をひかさないためには、さっさと中へ運び入れてやらねばならない。
 それを理解していても、お前の寝息を乱したくないと思う俺がいるのも、本当のことだ。
 これほど安堵しきって無防備に眠るいとおしいものを、許されるならいつまででも眺めていたいと感じる自分を、どこか不思議にも思う。戦を生き抜いて勝ち続けるためならば、他のすべてを犠牲にしてきた。常に厳しく自他を律していたはずなのに、こうしてお前の寝息に耳朶を擽られていると、そんな過去が馬鹿馬鹿しいものにも思えてくる。この隣に寄り添う温度を護ること、それ以上に、優先すべきことなど思い当たらない。

 しあわせ、とは、何だろうな。
 力の限りを尽くし結果を得ること、認められて評価を受けること、信ずる使命のために己が命を賭けて果たすべく努めること───自らの存在する所以を知り現実を知った時からずっと、そう思って駆けてきた。

 それだけじゃないよ、とお前は言った。

 言の葉に乗せ、その生きざますべてで、戦に凝り固まった俺にそう教えてくれた。
 時に微笑みながら、時に激した顔で、ともすれば生を厭うようなことを抜かした俺を、叱咤し支えて引きずり上げてくれた。当然のような顔をして、どんな時も隣に居てくれた。

 俺はずっと、それを負い目に感じていたんだ。何も報いてやれないのに、どこまでも俺を甘やかしてくれる、お前の存在を。
 触れることの出来ない慈愛を誇示されるくらいなら、いっそ手の届かない場所に在ってくれればいいと思いもした。お前は神に選ばれし清らかな存在だから、哀れだと思う相手に情けをかけずにはいられない、ただそれだけなのだと思いもした。

 

『神子だとか、そんなの関係ないの。私が、九郎さんに、幸せになってほしいの』

 

 俺の、しあわせ。
 それは、伸ばせば腕の中に収められる場所で微笑む、お前自身。

 それだけなんだ。
 それさえあれば、他には何も要らないんだ。
 お前の手を取り共に駆け、お前を抱き締めぬくもりを感じる。それだけで俺は、この上なくしあわせなんだ。

 

「……望美」

 

 お前は、しあわせだろうか。
 お前が俺に与えてくれるほどに、俺はお前に喜びを与えてやれているだろうか。
 そうであればいい。俺という存在がほんの僅かでも、お前に笑みをもたらしているのならば、それだけで俺は生きていける。

 心から願い、額にそっとくちづけを贈った。

 

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**反転コメンツ**
クリスマスネタなのに何故かモンゴルでしかも神子は寝てるだけという反則スレスレのイベントSSでした(笑)。
いえね、モンゴルEDが一番、九郎がさして照れもせずベタベタに神子を甘やかしてくれるんじゃないかなーと思うのですよ!
それにしてもうちの神子はほんと、どこででもよく寝ますね。オヤスミ3秒のび太くん状態。
てーか九郎のほうが、神子が寝てないと素直に甘い言葉を垂れ流してくれないからなんですけどね…!!