| 「うあ〜〜〜サイアクだぁ」 私は重い足を引きずりながら、家路を急いだ。 『お父さんがね、あなたに話があるそうよ。早く帰ってらっしゃいね』 心当たりは……ある。ありすぎてヤバい。 お母さんに恐る恐る見せた時は、困ったように『しょうがないわね』って言われただけで。 「ううぅ……怖いよう……」 お父さんが声を荒げて怒ることって、滅多にない。もちろん、娘の私に手を上げるような、家庭内暴力を起こしたこともない。 『えー? べつに親の言う事なんて、テキトーに流しときゃいいじゃん』 友達はそう言う。私も半分くらいはそう思う。 でも───それでもやっぱり、真面目な顔をしたお母さんとお父さんには、逆らえない。 「……もしかしてウチの両親って、すごく子供泣かせなのかな」 夕焼けに照らされて伸びた影を追いながら、私はそんなことを考えた。
「ただいまぁ……」 そーっと声をかけると、ダイニングキッチンからお母さんが振り返った。 「あ、お帰りなさい。お父さん、和室にいるわよ」 「……はーい」 お母さんは普段どおりの表情で、少し笑った。うーん、こっちの機嫌は悪くないみたい。 「まずは鞄、自分の部屋に置いてきなさい。話が終わったらすぐごはんだし」 「はいはいー」 「返事は一回」 「お母さん、それ、お父さんのセリフ」 「いいでしょう別に。それと、ごはんの前に、全員連れてくること」 「了解しました〜」 うちはお父さんとお母さんと、私と、弟の四人家族だ。どうも我が家の男性陣は、他に集中していることがあると、呼ばれてもなかなか食卓に揃わない傾向がある。いい加減に片付かないでしょう、とお母さんが雷を落とすたびに、すまん、と小さくなるお父さんと、だって夢中になると声なんて聴こえないんだもん、と口答えする弟。 部屋に鞄を置いて、ついでに着替える。制服は面倒になったので脱ぎ散らかしたけど、お母さんは別に怒らないんだよね、こういうこと……。大雑把なひとだ、我が母ながら。 和室の前で、深呼吸。おなかにぐっと力を入れる。 「……お父さん、ただいま」 「ああ、お帰り」 襖を開けた瞬間に厳しい声が飛んでくるのかと身構えていた私に、お父さんは拍子抜けするくらい、いつも通りの態度で出迎えた。 「休日も予備校とはな。体調を崩さないよう、注意しておけよ」 「───うん……?」 あれ。なんだろ。模試の話題が出てこないんだけど。 「座らないのか?」 「あ、……うん」 促されて座ったはいいものの、私はもちろんのこと、お父さんもしばらく黙っていた。 「お父さん、話ってなに?」 「…………」 お父さんは口を開きかけ、また閉じて、それを何度か繰り返していた。指が落ち着かなくテーブルを叩き、横を向いてあー、だのうー、だの唸っている。 お父さんは今、死ぬほど照れている。 「お父さん?」 苛ついて再度問いかけると、お父さんはやっと観念したのか、私のほうを向いた。 「お前に、話しておきたいことがある。お前が十七歳になったら、話そうと思っていた」 「なに?」 「───俺と、母さんが、出逢ったときの話だ」
「…………は?」 えーと。どういう脈絡でそんな話になるんだろう。 「幼い頃によく、聞かせろとせがんでいただろう?」 「…………」 言われてみれば、遙か昔にはそんなこともあったのかもしれないけど。 「お前があの頃の母さんと同じ年になったら、話そうと、思っていた」 「……はぁ……」 ……ええーと。取りあえずお父さん、そのシャイっぷりは反則です。 「冬の日に、俺と母さんは出逢ったんだ───」 そう前置きして語られる話は、ちょっと、と言うかかなり、頭のおかしい内容だったけど。 瞳も、声も、仕草のひとつひとつまで。 私はアホらしいのと微笑ましいのがごっちゃになって、なんだかドッと疲れた。 「……お父さん、ラブコールはお母さんに直接やってほしいんだけど」 「なっ、そんなんじゃないっ! 茶化すな!!」 真っ赤になってあわあわと怒鳴るお父さん。 「───お前ももう、立派な一人の女性だ。本気で好いた男がいても、おかしくはない」 あー。お気遣いはありがたいんだけど。 「だから、その……」 お父さんは口ごもった。 「……本気、ならば。俺も、きっと母さんも、止めはしない。お前の選ぶ道だ」 「───うん、ありがと、お父さん」 ノロケを聞かされただけか、と思ってたけど。 「じゃー次のリクエストは、プロポーズねっ」 「───っ!」 「今の話とお母さんの年齢から逆算したら、結婚したの、知り合って一年くらいじゃない」 「ばっ、馬鹿者! 親をからかうなっ!!」 「えーケチー。いいもんお母さんに聞くから、お父さんが途中まで教えてくれたよって」 「やめろ!!」 「じゃあ、私が十八歳になったら、プロポーズの話。約束だよお父さん」 「……仕方ない。母さんには絶対に言うなよ」 「はいはいー」 「返事は一回だ」 「はい!」 ちょうどいいタイミングで、ごはんよ、というお母さんの声がした。 「ね、お父さん。陽一にもいつかこんな風に、話すの?」 お父さんはちょっと私を見つめると、くしゃっと掌を私の頭に置いた。 「ああ。あいつには、俺が母さんと出逢った時の、二十二になったら話すつもりでいる」 「……そっかぁ」 「お前、言うなよ」 「うん。あーもう、おなかすいた! 早くごはんにしよっ」 私はお父さんの背中をキッチンへ向けて押しやると、弟を呼びに階段を駆け上がった。
了 |
**反転コメンツ**
取りあえずどこから謝ったらいいのか不明なくらい捏造激しすぎてすいません。
オリキャラについてはどの辺でお気づきになられたのでしょうか…「お母さんに甘いお父さん」あたりかな(笑)。
今回ナレーション役のお嬢さんについても一応名前の設定はありまして、続編では出せる予定。
次はちゃんとマトモに九望です。しかし相変わらず捏造ワールド炸裂中です。