| Q:ご機嫌を損ねてしまったお姫様への対処法は? A:喜びそうなものを贈りましょう。そして誠心誠意、謝りましょう。
九郎はむすっと眉をしかめたまま、都路を行き交う人々を眺めていた。 「まったく……」 締め出し、とは不穏当な言い方であるが、今回に限っては何ら誇張ではない。 『君の責任ですからね。天の岩戸は自分で開けてください』 顔も声も笑みを含んでいるが、目がそれを完全に裏切っている。 『これ以上ぐずぐず言うなら、銃と弓の的になるかもね?』 オレたち金属性だよ忘れてないよね飛び道具だし、と立て板に水で口も挟めない。 『九郎殿! 少しはあの子の気持ちも考えてあげてください!!』 かくして現在の状況がある。無論、永久に九郎を屋外へ締め出せと言っている訳ではなく、彼らはあるひとつの条件を達成することで、その禁を解くのだと言った。 ───望美の喜ぶようなものを贈って機嫌を直させろ、というものだった。 そもそもなんだって望美があれほど怒ったのかは、九郎にはさっぱり分からない。 「喜ぶようなもの、か……」 それが分からない限り、仕事が溜まっていく一方である。
「……神子、かなしいの?」 房にこもってしまった望美のそばににじり寄り、白龍がそう訊ねた。 「んー。哀しいって言うか、悔しいって言うか。そんな感じ?」 曖昧に誤魔化そうとはするのだが、神の追求はある意味で容赦がなかった。 「でもちがうよ、神子。神子のこころは、"くやしい"じゃないよ」 畳み掛ける白龍は、まるでどこかの誰かのようだ。普通なら察して引くくらいのことはできるのに、その機微が分からずにどこまでも訊ねてくる。望美はそれを思い出し、きゅっと唇を咬みしめた。 「いいの。こういう気持ちも、悔しいって言うんだよ……」 座り込んで膝を立て、腕に抱えて頭を埋める。九郎との言い合いの場面がぐるぐると頭を巡り、さっさと忘れたいと思うのに、それは一層鮮明さを増すだけだった。 「はくりゅ……?」 「私は神子にこうしてもらうの、すき。だから神子も、すきだといい」 「……うん、ありがと」 見た目がどうだとか、些細なことでいつまでも動揺を隠せない自分が嫌になるとか、そういうことは今は考えないでおこう、と望美は思った。心弱くなっている時に与えられる、無条件に自分を受け入れてくれるそのぬくもりが、今は本当にありがたかった。 「神子は九郎をおこってるの?」 ぴく、と望美の肩が震えた。 「……ううん、ちがうね。神子がおこってるのは、うたがってるのは、神子」 「白龍、それはもういいから」 望美は思わず顔を上げたが、幼子の顔は予想以上に真面目な表情を浮かべていた。 「信じるのが、神子のちからだよ」 金色の瞳に、吸い込まれそうだ。 「神子、あなたが信じることが、私のちからになる。八葉のちからになる」 にこ、と白龍は笑った。 「だから信じて、神子」
「望美」 房の前でそう声をかけたはいいものの、九郎はそれ以上の言葉を持たなかった。 帰り着いた邸では、求めた品を取り上げられ、まさしく品定めをされた。 「───望美」 再度の呼びかけに、扉がするりと開いた。 「済まなかった」 「……理由が分からないんなら、謝ってもらっても仕方ないです」 「その、分かった、と思う」 望美は何も言わなかったが、疑っているのがありありと分かった。 「これを、お前に」 「───これ……」 少女の掌に納まったのは、小さな合わせ香。九郎の香りと、同じもの。 「自分の香を贈るのは───好いた相手に想いを告げるのだ、と、教えられた」
───午の、京。 『もし、そこな武家は、九郎義経様ではござりませぬか』 いかにも高貴そうな牛車から呼び止められて、九郎は立ち止まった。龍神の神子として勤めを果たしているさなかのことで、当然ながら望美も他の仲間も周囲にいた。 『なんと嬉しや。妾の祈りが通じたのでしょうか、お逢いしたいと思うておりました』 『はあ……? 失礼だが、どなただろうか』 『まあ、憎いかた。文に染ませた薫り、お忘れになったとおっしゃりますの?』 文とは何の話だ、と九郎本人は思った。自分宛ての文など、よほどの京の権力者か、鎌倉からのものしか読んだ覚えはない。しかし相手はどうやら何処ぞの姫君らしい、ならば無下に扱って源氏への反感を買うのは得策ではなかった。 『ほんに口惜しい……なれば移り香なりと差し上げましょう』 ややあって従者が差し出した香を、九郎は何の気なしに受け取った。
望美にはそこまでの詳細な事情など分からないが、九郎が他の女性からの贈り物を、自分の目の前で受け取ったこと、これだけで理由は十分だった。 「───俺が贈るのは、贈りたいと思うのは、お前にだけだ」 「…………」 「だから……受け取って、ほしい」 望美は片手に香を握りこむと、九郎との距離を詰めて、爪先立ちをした。 それが、仲直りの合図。
Q:謝りに来てくれた王子様へ取るべき態度は?
了 |
**反転コメンツ**
京でケンカと仲直り、九郎の貢ぎ物。パラレルですね、展開が早すぎるもの。
こやつらケンカ自体は年中なので、そのたびに九郎が何かあげてたら、遅かれ早かれすっからかんになるぞ(笑)。
店の前で営業妨害になるくらい散々悩みまくって決めてればいい。
香をあげるのが告白ってのは捏造ですが(おい)、この時代に文とか花とか香とかって色恋ムードがあるので。