| 奥州藤原の総領は、犬を一匹飼っている。 先日鎌倉から訪ねてこられた客人一行の中のお一方が、ずいぶんとその犬をお気に召したご様子で、何くれとなくご一緒にころげ回っておられるのを、よくお見かけする。 以上、奥州藤原郎党の武士による証言。
「うふふっ金、おいで!」 ころげ回っている、と称された白龍の神子は、今日もご機嫌に高館でくだんの犬と遊んでいた。少女の足元をくるくる回る犬も、嬉しそうにワンと吠える。 「お前たちは本当に仲がいいな」 「そうかな、金は九郎さんの方が好きみたいだよ」 体当たりしてきた金を軽々と受け止めたのは、九郎だった。そもそもこの犬を拾ったのは九郎だそうで、それを今でも金は憶えているのかもしれないな、と望美は思う。犬は賢くて情深い生き物だ、それを望美はよく知っている。家で飼っていたあの子は、今頃寂しがっていないだろうか。 「う〜ん……なんか悔しい」 「なにがだ?」 「だって私、こんなに金が好きなのに。こんなに可愛がってるのに、金は九郎さんが一番なんだもん」 ちょっとした嫌がらせに、耳をつまんでえいと引っ張る。きゅんと目をつぶった表情が『やめてくださいよぅ』と訴えていて、望美は笑ってすぐに指を離してやった。 「……お前、そんなこと言ったら、俺はどうなるんだ」 九郎の声が不意に沈んだ。おやこれは機嫌が悪くなった時の癖だ、と望美は思う。 「どうなるって、なにが? おーい金ー、もっと私と遊ぼうよ〜」 「…………」 ああ今度は黙り込んだ。本当にこの人は素直なひとだ。 「九郎さん、いい加減、金返して。もっと遊ぶんだから」 「……お前は」 眉が下がってますよ九郎さん。ああほんと可愛いったらもう。 「俺より犬と戯れるほうがいいのか」 おや思っていたよりわりとあっさり白状した。前はこんなことすら言えなかったくせに。 「なに言ってるんですか」 肯定の返事と取りかけてがっくり項垂れる九郎の首に、ぎゅうと腕を回した。 「九郎さんも私と金と一緒に遊ぶんです」 いや出来れば金はいらないんだが。 「金って大好きなんですよ、九郎さんに似てて可愛いから」 「───っ!」 「ねー、金? お前も九郎さんのこと、好きだよね?」 ワンッ! 「私のことも、好きだよね?」 ワンワンッ! 「ほーら似てる」 「望美、もう黙れっ!! 金、お前もだ!!」 くう〜ん。
奥州藤原の総領は、犬を一匹飼っている。 ───奥州藤原郎党のあいだに流行る、噂話である。
了 |
**反転コメンツ**
十六夜最愛のキャラ・金ラブが高じて書いた超短文。九郎いらないかもな!(爆笑)
犬はほんと可愛いです。猫も大好きです。十六夜記の直前に飼い犬が死んじゃってね…もう涙のプレイでしたよ。
とことん九郎をからかい倒す神子は上手な御曹司での遊び方をマスターした模様。
十六夜記は動物ネタがいっぱい出てくるので、日常の和気藹々が妄想しやすくてイイ。