| 心のままに動かすことなど、もうこのかいなに望めはしない。
九郎は秋の深まってゆく平泉の野山を歩いていた。散策などという呑気なものではなく、人を探してのことだった。連日のように伽羅御所と柳御所を往復しているのが日課になりつつある九郎の瞳には、色づいた紅葉の存在すら新鮮に映った。 「秋か……」 時節のうつろいとは早いものだ、と九郎は思う。それとも己の心にゆとりがないだけか。 今更考えても詮無きこと、と割り切れるなら、最初からこれほど苦悩していない。 「…………」 息を吐き、九郎はひとつ頭を振った。探し人はいまだ見つからない。 泰衡に対しての感想を一言で述べるなら、分からぬ男だというのが素直な結論だった。 ぼんやりとそんなことを考えていたせいか、人の声に気づくのが遅れた。
「考えれば分かります。本気で追われてたら、私たち、ここまでたどり着けてない」
予期せぬ声を聞きつけ、九郎の足は止まった。 「そこまで分かるなら、何故、奴に与した?」 本来探していた相手の声も聞こえ、立ち去ろうとしていたのに動けなくなる。増してその内容は明らかに、己のことを示していた。 何故、などと。 何故、お前は折れないんだ。 「何故、って。それが私にとっては当たり前だからです」 あたりまえ、と。 「鎌倉につけば、源氏の神子のままに安泰で在れただろうに」 そうだ。
「───私は、あのひとの神子です」
それ以上、その場に留まることはできなかった。
高館へ戻ると、白龍が門前で柳眉をひそめている姿が目に入った。 「どうしたんだ白龍、こんなところで?」 「…………」 小首をかしげた白龍は、ふと眉を解く。 「神子をね、待っている。穢れを祓うのは、私の神子の本性だから」 「穢れ……」 呪詛がある、と言ったのは、この神だった。五行を穢す呪詛がある、と。 「九郎も見たのだろう? 私の神子はとても清浄」 「───済まないな。お前の大事な神子を、こんな境遇に陥れてしまって」 てらいなく己の神子を褒めちぎる神に、九郎は自嘲の言葉を漏らす。 「私の神子は、蓮」 「はちす?」 「泥中にあってなお清く、つよい。それが私の神子」 「…………」 そうかもしれないな、と九郎は思った。 「それに、神子がこころから願うのは───」 「あれ、白龍、まだ待っててくれたの? 九郎さんも、お帰りなさい」 不意に割って入った声は、他でもない望美のものだった。 「……ああ」 言葉少なに答えて、九郎はまたしてもその場を逃げ出した。
何ひとつ求めてはならないのだと、知った。 このかいなに収めて良いのは、己の命ひとつだけ。
了 |
**反転コメンツ**
【誰がため】が望→九の一方通行描写だったので、これはその対で九→望の一方通行。
結局総合すれば九→←望みたいな感じですな…そのすれ違いっぷりがもう楽しくて楽しくて萌えます。(鬼)
あとはもう…泰衡→九郎の超☆一方通行が…すいません私の中での奴らのイメージってこんなんです。むくわれねえー!
これまたグダグダで煮え切らない御曹司ですが、平泉ルートはむしろそのヘタレっぷりが愛しいです(末期)。