最後の朝に…

 

「神子様、皆様お揃いですわ。その中でも特に、神子様にご挨拶したいとおっしゃる方がいて……。お通ししますね」

 私はそう神子様にお伝えして、自分は控えの間に下がりました。
 神子様のお部屋に勝手に侵入する不埒な輩なき様、私が目を光らせていなければなりません。
 なんびとたりとも私の目をかいくぐって神子様のお顔を見ることはできませんわよ。

 

 

 まずは天真殿がいらしてますね。

「よう、藤姫。今までいろいろ世話んなったな。……あかねに、逢っていいか?」

「はい、どうぞ。神子様をお励ましあそばせ」

 京より神子様方の世界へ帰られる力を得る為に、最後の決心を神子様に聞いて頂くおつもりのご様子です。
 ……あら、もう出てこられましたわ。お話はもうお済みなのでしょうか?

「俺はあっちに戻ってるよ」

 

 入れ違いにいらしたのはイノリ殿です。まぁ、今日も随分と元気がよろしい様ですわね。

「藤姫っ! あかね、居るよな!? 逢わせてくれっ!」

「はい、どうぞ。神子様にその勇気を分けて差し上げてくださいまし」

 神子様のことを敬うというよりは、「仲間」として神子様を大切に考えてくださった方ですから、きっと大丈夫ですわ。
 ……イノリ殿もやけにお早いお済みですわね。どうなさったのでしょうか。

「じゃな、藤姫っ」

 

 見送っていたら、続いて駆けてこられたのは詩紋殿です。この方にしては珍しゅうございますわね。

「藤姫! あのね、ボクどうしても、あかねちゃんと話がしたいんだ。ちょっとだけでいいから、お願い!!」

「はい、どうぞ。神子様の不安も、詩紋殿ならば鎮められましょう」

 この方も神子様の世界からご一緒された方。鬼を外見で差別していたのは私たちの方だと、気づかせてくださった方です。
 と思ったら、あらあらあら。詩紋殿も早々にお引き上げですの?

「ありがとう、藤姫。ボク、戻ってるね」

 

 流石に疑問を感じ始めていたら、今度は泰明殿がいらしてます。

「……神子に逢わせてほしい」

「はい、どうぞ。陰陽の力と知識は、今の神子様に何よりも必要ですもの」

 普段は表情というものがほとんど伺えない方なのですけれど、何となく、いつも以上にお顔が強ばっている様な……?
 あっという間に出てこられましたわね、泰明殿も。

「邪魔をした。戻っている」

 

 ……って、今度は頼久ですの!? 一体どうしたというのでしょう、八葉が次々と!!

「藤姫様……この頼久、伏してお頼み申します。神子殿に一目なりとお逢いいたしたく」

「はい、どうぞ。神子様をお守り申し上げること、頼みますよ」

 がちがちに緊張してますわね。確かに頼久は真面目な性格ですけど、これはちょっと行き過ぎの様な気が……。
 大体読めてきた通り、頼久もさっさと出てきてしまっています。

「ありがとうございました。戻らせて頂きます」

 

 次にいらしたのは鷹通殿です。随分と悲壮な顔付きをなさっておいでですわね。

「藤姫、神子殿にお目通りを願いたいのですが」

「はい、どうぞ。鷹通殿のお言葉で、神子様も落ち着くことができましょう」

 動作がカクカクしている様に見えるのは、私の気のせいなのでしょうか? 転ばれないとよろしいのですけれど。
 電光石火ですわね。鷹通殿、本当に神子様とお話してらしたのでしょうか?

「ありがとうございます、藤姫。これで思い残すことはありません」

 

 永泉様まで……。帝に御報告に上がられたのではなかったのでしょうか?

「帝には藤姫に謝辞を伝えよとのお言葉です。神子に、逢ってもよろしいですか?」

「はい、どうぞ。お言葉勿体のうございますわ、永泉様」

 女性と見まがうお顔立ちなのですが、何故だかきりりと目元が引き締まっている感じで……少々、別人の様ですわ……。
 永泉様もお早くていらっしゃいます。一体何なのでしょうか?

「ありがとうございました。私はあちらへ戻っておりますね」

 

 ……ここまできたら、いらっしゃると思ってましたわ。最後のおひとり、友雅殿です。

「やあ、藤姫。我らが至宝の神子殿にお目にかかりたいのだがね」

「はい、どうぞ。神子様のお気持ちをほぐして差し上げてくださいませ」

 相変わらずな口調ですけれど、神子様への忠誠は本物らしいので、私も以前の屈辱を許して差し上げることにいたしましたの。
 早々に出ていらして、大変結構なことですわ。この方に限っては。

「ありがとう、藤姫。私は戻っているから、また呼んでおくれ」

 

 

「……神子様? あの、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「あ、藤姫〜。もう、みんなしてどーしちゃったのかなぁ……次々に来るんだもん」

 神子様はうんざりと脇息にもたれかかっていらっしゃいます。

「あの……。皆様、神子様に何をお話しなさったのです?」

「最後の闘いだから連れていってほしいって……そんなの、全員連れてける訳ないじゃない〜〜〜!!」

 ころんと倒れられてしまいましたわ。
 八葉が自分から同行を申し出るのは、神子様との絆が深いからです。それが全員ということは……。

「神子様……あの、それでは……八葉全員との絆を、徹底的に深めたということ……?」

「そんなの知らないよ〜。私はただ、息抜きに誘われたら断らなかっただけ!」

「…………」

 ……流石、ですわ。
 流石は私のお仕えする、尊き龍神の神子様ですわ!
 あれだけ癖のありすぎる八葉全員を三月余りで見事に陥落せしめられるのは、神子様以外にはおられませんわっ!!

「神子様。私、神子様の様な女性になりとうございますわ。神子様は私の目標です!」

「へ?」

 しっかと神子様のお手を取って、私は力説してしまいました。
 ……あら、いけない。今はその様なことを言っている場合ではございませんわね。
 よろしいですわ。神子様に「コツ」をじっくりと伺うのは、全てが終わった後で……。

 私はにっこりと微笑みました。

「神子様。今いらしたのは、神子様との絆の深い方です……」

 

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