| あなたの手。 あなたの背中。 あなたのぬくもり。
「……ん」 自分の声で目が覚めた。どうやら私、眠っちゃってたみたい。 ワインレッドの皮のジャケット。 そうだ。お昼に約束の地に来たら、眠くなっちゃったんだ。 「アリオス……?」 ジャケットをかけてくれた人の名前を呼びながら、辺りを見回す。私が横たわっていたすぐ傍に、その人はいた。 「起きたか」 そう言って、私の頭をくしゃくしゃとかき混ぜる。子供にする様な仕種だったけど、私はこうされるのが決して嫌いじゃないの。 「疲れてるんなら、無理はするな。お前が倒れたらおしまいだろ?」 「……アリオス、なんで居るの……?」 今日はあなたに逢える日じゃない。それを承知の上で、お昼の散歩場所はやっぱりここにしてしまったけど。 嘘つきね、アリオス。 「ごめんね。せっかくだから起こしてくれれば良かったのに」 「いいからもう少し寝てろ。お前、顔色悪いぞ」 「え、でも……」 せっかくあなたに逢えたのに、寝てるのなんて勿体ない。 大きな掌。私の手首なんて、あっさりと包んでなお余る、男の人のもの。 「寝ろっつったら寝ろ。付き合ってやるから」 「アリオスも眠いの?」 「……そういうことにしといてやるよ」 ねえ、自惚れてもいい?
私はふと、自分が包まれたままのジャケットを思い出した。アリオスも寝るんなら、私がこれにくるまってるんじゃ、きっと寒くなってしまう。 「ジャケット、ありがとう。一緒にお昼寝するんなら、あなたが着てた方がいいわ」 返すために脱ごうとして、私はまた気がつく。 ああ、と思う。 「……ふふっ」 「どうした?」 嬉しい。 「アリオス、大好きよ」 あなたと私は違う。全然違う、別の人間。 だけど、ね。 だからこそ愛しく思えることが、たくさんあるの。 『私』と全然違う『あなた』だからこそ、愛しく思えること。 「バーカ。そんなの、今更だろ」 抱きしめられた状態で、吐息が触れそうな距離で。 「今更でも、何度でも、言いたいの。私の心からの気持ちだもん」 私がそう言うと、アリオスは僅かに苦笑を浮かべた。 「気持ちがあるなら、言葉より行動で示せよ」 言葉の最後の方は、私の唇の中に融けて消えた。
あなたの手。 それを身体全体で感じている、優しい午後の陽だまりの中。
Fin. |