熱が、欲しい。
「来たれ……力導き……」 唱える呪文は何度目か、数えてはいない。 骸。魂魄の宿らない肉体。 「……エリス?」 指先がぴくりと震える。閉じられていた瞼が開き───その色は─── 禍つき真紅。 「ッ……!」 何度繰り返そうとも、無駄なのは知っていた。この身体を利用したところで、エリスは決して甦らない。 「我に触れるな」 咄嗟に口にした言葉も通じない。 「失せろ……!」 腕を振ると『それ』はあっさりと薙ぎ払われ、床に叩き付けられた。 この行為に何の意味があるのかすら、俺はもう考えることを放棄していた。ただひたすら、天使の屍を積み上げていく。同じ顔をした女を、迷わず殺せる様に。 『これ』と同じ顔の女が、俺の手で死ぬだけだ───……。
「アリオス、どうしたの?」 不意に話しかけられると、一瞬だが、自分がどこに居て何をしているのか判らなくなる。 お前は誰だ。 「……アンジェリークか。どうしたって、お前こそ何だよ」 それでも間違えずに少女の名前を呼ぶのは、その柔らかな存在感のせい。 何故こうも違うのか。 同じ顔なのに。 少女は俺の前に佇み、困惑ぎみに首を傾げた。 「ん、アリオスが何だか、ぼうっとしてるから……」 「お前に言われるほど終わってねぇよ」 繰り返される、他愛のない光景。 何もかもぶち壊してやりたい。
別にこの宇宙の何に恨みがある訳でもなく、ただ破壊のためだけに力を得たくて、俺は足掻き続けている。 古い玩具の箱をひっくり返すガキの様に、俺は探し続ける。 何を。 力を? 探して探して探して、もう諦めた頃に、膿んだ傷口が疼き出す。 そうじゃないと、俺はお前を───……。
「ドジ」 「ごめんなさい……」 「ま、お前が抜けてるのは、今に始まったことじゃねぇけどな」 海に落ちたり、怪我をしたり。 「謝るヒマがあったらとっとと治せ」 ベッドサイドに置かれた薬を取ろうと起こした上体が、熱のためにふらつく。一瞬の後に、それは他愛もなく、俺の腕の中に収まった。 「あ……ご、ごめん……な、さ……」 「…………」 そのまま、ふっと力が抜ける。 熱い。 片腕で気を失った少女を抱え込み、薬と水を口に含んで、小さな唇に移し与える。 熱い。ただひたすら。 「アンジェリーク……」 熱い。あつい。アツイ。 解放した唇は水に濡れて艶を増し、どこまでも俺を追い詰める。 ───甘い、毒。致死性の毒。 柔らかな天使の翼に焦がれる、愚者の欲。
Fin. |