きっとずっと忘れないと思うの。あなたとのことは全部。
小さい頃のことをふっと思い出す瞬間って、ない?
とっても何気なくて、ただ『ごく普通の日常の一瞬』って光景なのに、どうしてだか頭に焼き付いて離れない、残像のような。
それは大抵、何か印象深いことがあったり、楽しい出来事のひとこまだったり、もしかして哀しい記憶にまつわるものだったり……いろいろな理由があると思うんだけどね、忘れているだけで。
でも私、自信があるの。あなたとのことは、全部忘れないって。
記憶ってすごく曖昧よね。
自分では「こうだ」とっていても、他の人のそれとはずれてしまったり、次第に薄れていったり、とても変わりやすいもの。時間の経過と共に、無慈悲に押し流されていくもの。
───でも、変わらないの。あなたの記憶は。
いつもどこか遠くを見ている人だった。
しなやかに細身の剣を扱う姿が、戦いだと思わせないほど優雅だった。
私を見るときの瞳が、ときどきとても哀しそうだった。
ほんの少しだけだったけど、幼い子どものように笑うこともあった。
触れてくれたその掌が、あたたかかった。
思いっきり怒鳴られることはしょっちゅうだった。
でもその後で必ず、ほのかな優しさを見せてくれた。
変わっていく記憶の景色の中で、いつまでもあなただけが、そこからくっきりと浮かび上がっている。取り残された私をあざ笑うように、『幸せだった』という偽りの記憶を、時間さえも決して変えてくれない……。
忘却は神の恩寵だと言う。辛いことを全部覚えていたら、ひとは生きていけないから。
───じゃあ、変わらない記憶を私に植え付けた、あなたは?
どうしてあなただったんだろう。
どうして私だったんだろう。
変わらない、記憶の中のあなた。寂しそうなあなた。
過ぎ去った日々の中にしか居ないから、あなたは私の問いかけにも何も答えてはくれない。
ただ、私を見ているだけ。その変わらない姿で。
忘れられないの。
変わらないの。
消えないの、あなたが。
色あせたとしても決して変わることのない、写真のように。セピアの優しい色合いを帯びて、私の中に留まり続ける。
───忘れたいと願えば、あなたは私の中から消えるの?
……ううん。そんなのきっと、死ぬまで一生無理だわ。
私って絶対、あなたのことは何ひとつ、忘れられないようにできてるんだ。
そういうふうに、生まれてきたんだよ。
海の広がる星で、貝殻を拾ったこと、あったね。
紅葉の中を二人で、郵便配達の真似ごとしたこともあったっけ。
雪も見たよね。ねぇ、オーロラ、見たかったな。
全部全部、私の中で色鮮やかによみがえる……あなたへの想いと共に、溢れるほどの愛おしさと共に。
とても苦しい。
だけど、とても嬉しい。
哀しいけど、忘れたくないと強く思うの。
私の中にいつまでも、写真のように変わらず残り続けてほしい。
ねぇ、アリオス。
きっとずっと忘れないと思うの。あなたとのことは全部。
自分を消し去りたいというあなたの願いは、ごめんなさい、叶えてあげることはできないわ。
だって私が、死ぬまであなたのこと、忘れないから。
心の中のあなたの写真を、お墓に埋められるまで持っていくから。
きっと、ずっと。
Fin. |