三姉妹のある日常:冬編プレビュー

「じんぐるべーるじんぐるべーるすずがーなるー♪」

今日は楽しいクリスマス。

…の10日前。



「ヘイ!じんぐるべーる!」

ナカミのこの歌が好きなのだ。

が、サビの所しか知らないので永久ループ中なのだった。

「きょうはーたのーしいーくーりーただいまー」

ちょっと会話を侵食しつつある。



「おかえり。」

割烹着で出迎えたクギリにもう一度「ただいま」と言った時点で、

ナカミはどこまで歌っていたのか分からなくなってしまったため、

もういちど(知ってる範囲で)最初から歌いだそうとするくらい、

ナカミはこの歌が今のところ大好きなのだ。

「じんぐるべーるじんぐるべーる…。む?」

歌が止まった。

台所に戻りかけていたクギリが不思議に思って振り返ると、

ナカミは首を傾げて何かを考えている様子。



視線を感じたのか、顔を元に戻したナカミが神妙な顔でクギリに聞いた。

「じんぐるべる…って、何?」



「昔、西欧の何処かに神具ル・ベールというそれはそれはありがたいものがあったとか」

「おー。」

「振ればまるで鈴のような音色であるので当時の中枢卿がこぞって求めたと言うが」

「ふむふむ。」

「それは即ち庶民の税負担が高くしてでも手に入れるという状況になり」

「うんうん。」

「卿のみが楽しむ、万人にはつらい状況である事から」

「へー。」

「この神具はいつしか封建制度の負の象徴となってしまったと言われて」

「へー。へー。」

「…」

「…」

「…そろそろ味噌汁が吹き零れるから納得してくれないか。」

「うん。シサ姉に聞いてみる。」



「あばれんぼーのせんとにこらうすー」

シサはクリスマスソングなら大抵好きだが、

細かい事は気にしないおおらかな娘だ。

「くーらーいーよーみーちーにゃー」

「きーをーつーけーろー」

「おーまーえーのーはーなーはー」

「やーくーにーなーるーのーさー」

そこへナカミが加わるともう無敵だ。



「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

「…用件を聞こうか。」

「うん。あのね、ジングルベルの話。略してじばな。」

「じばなー。で、ジングルベル?」

「うん。ジングルベルって、何かなあって。」

「神具ル・ベール…」

「…の話はくぎ姉からさっきしてもらった。」

「うーん。じゃあ、もうちょっと待ったほうがいいかな。」

「待つの?」

「そうそう。多分、姉さん今頃気になって調べてるよ。」

「あ、そか。」

クギリは、そういう性格なのだ。

「そのうちわかるわかる。待てばカイロのチロリアンと言うし。」

「言うの?」

「…いや、ちょっと違うかも…あ。」

ボケ方面一直線のシサが、少し真剣な顔をした。



シサがこのような顔をする時を、ナカミは数えるほどしか知らない。

そのうち一つ、シサが特殊能力を発揮する時。

今がまさにその時なのだ、と、ナカミは悟った。



ゆえに、ナカミもまた、自然と身構えて、次のシサの台詞を待った。

願わくば、それがせめても救いのあるある話である事を星に祈った。



その時かの時。

クギリは電話中だった。

『ジングルベル?』

「そう、ジングルベル…って何だろう、と聞かれてしまって。」

『…ふむ。私も咄嗟には出て来ませんが、調べておきましょう。』

「ああ、ありが」

『…と、言いたいところですが。』

「え?」

『今は出先で祓の最中なので。』

「え?え?それは…電話に出てはいけなかったのでは…」

『踏を踏むだけなので手も口も空いてますから。』

「…はあ。あまり無理は」

『(ずぎゅーん)』

『(かきーん)』

「ち、ちょっと!?今の音は!?」

『ふむ。少々掛け直します。』

『(「これはどういう事か?くみち」…ぷち)』

「あ…」

クギリはしばし、電話口を見て呆然としていたが、

「…」

ため息を一つ吐くと台所から霞のように掻き消えた。



ナカミはまだ祈っていた。

シサは、噛みしめるように押し黙っていたが、

とうとう、厳かに言った。



「…ごはんが。」

ごはんが。と。



「はぅ…。」

ナカミは猫耳もしおれんばかりにうなだれた。



「今日のご飯が…忍者食になるかも。」

「はぅぅぅ…。」



それは、やはり、悪い知らせだった。

シサの特殊能力、今日の晩御飯予知。

細かいメニューこそわからないものの、

当たりか外れか、くらいは恐ろしいほど的中する。

そして、シサの言う忍者食とは。

この妹たちにとって、姉を畏怖対象とせしめるに十分な食料であるのだった。

つうか保存食。



「このままじゃまずいよぅ…。う。」

「まずいものがくるよう…う。」

ナカミとシサは顔を見合わせて

「こげくさい。」

というが早いが、台所に駆けていった。



「ぶにゃー」(時間の経過を表わすぶた猫)



「…ごめん。」

「はにゃー!」

「ふみーん!」

かくして。台所は悲惨なことになってしまいまった。

クギリが帰って来たころには今日の晩飯は夢の後でした。

味噌汁はこげ味噌、焼き魚は灰魚、肉じゃがは炭じゃがになったのでした。

「なんで肉じゃがとご飯まで駄目になってるのか判らないけど…ごめん。」

「うぐ…はーん!」

「ぎゅ…みーん!」

で、晩御飯は結局どうしよう。

という話を振るのも怖いので泣き続ける妹共。

困った様子でひたすら謝る姉。



と。

「あ。そうだ!」

手を打って、クギリが切り出した。

(キタ―――(゜∀゜)―――!!)

妹たちは覚悟した。

「ケーキ頂いたんだけど。」



…(゜∀゜)

ハァ(゜д゜)?

「ケーキ?」

「ケーキ?」

豆鉄砲を食らった鳩のようになっている妹たちに、

クギリはにこやかに白い箱を差し出した。

「これ。要らないっていうから貰ってきたんだ。」

箱の中身は…

おおっと!

…いやいや、クリスマスケーキだった。

「まだ気が早いかもしれないけど。今日食べちゃおう。」

「わぁい!」

「わーい!」

「クリスマス当日もなんだか貰えるらしいから。」

「わぁぁい!」

「たりほー!」

こうして、三姉妹のちょっと早いプチクリスマスパーティーが催され



「早く食べよー!」

「はいはい。ご飯の後で。」

「ご飯…?」

「仕方がないので忍者食な。」

Σ(゜д゜)



「はッ!?」

「どうしたのシサ姉!?」

「クリスマスの晩御飯はチゲ鍋のヴィジョンがッ!?」

「な、なんだってー!?」
戻ります