三姉妹のある日常:春編
前の話へ
最終話
ナカミは、夢を見ていた。
光の中、着ぐるみの後ろ姿が見える。
「あなたはだあれ?」
ナカミが問い掛けると、着ぐるみは振り向いた。
(゚x゚)「ム…」
低くうなって、着ぐるみはナカミを見つめている。
「…?なあに?」
小首をかしげるナカミ。
その脳に、直接、着ぐるみの意思が伝わった。
『狩りの時間だ〜』
思わずツッコミ入れたくなる台詞だった。
「それは置いといて。狩りって何?」
『ついてこい♪』
言うが早いが、着ぐるみは、ナカミを粘着質の何だか良く分からない触手で引っ張った。
ツッコミを入れる間もなくナカミの意識は急速に白く光って…
「何でエイプレやねん〜!」
…と。
突然ナカミが起きたので、クギリとシサはもちろん、合成音声サイドもびっくりした。
生まれる沈黙。
注がれる視線。
みんながたっぷり10秒間は固まった。
「えー…と。」
「……」
「エイプレって言ってもエイドリアンvsプ○イディアの事だから、だいじょうぶだよ。」
「……」
全然大丈夫ではない。誰もがそう思った。
そうやって、空白の時間が過ぎて行き、そろそろ誰かが口を挟もうとした時。
大地が割れた。
「はいぃ!?」
そこから、粘着質の何だか良く分からない触手が大量に出て来て、
さっき八頭身になったばかりでぽけーっとしていたメカ三姉妹を、
むんずと掴んで地底に引きずり込んで行った。
大地は閉じた。
「え…?あれ?終わり?」
『狩り終了☆』
「あー!さっきの着ぐるみさん…」
「知りあい…なの?」
「ううん。さっき夢に出たばっかりの…」
「…で、狩りって…?」
「…何か嫌な感じがするけど。」
井戸端モードに入る三姉妹を余所に、こちらも考え中の合成音声。
「ソーカ。ツマリ感度モ1.5倍…シカモ等身変形デ皆安心………ハッ!?」
そこまで言っておいて、合成音声は三人分の殺気を感じた。
「ダ、大丈夫。ドンナニ幼ク見エテモ、メカッテコトデ当局カラモ逃…」
三姉妹は、綺麗なコンビネーションで巨大ロボットを殴った。
合成音声は、生まれてはじめて空を飛んだ。
それは見事な放物線を描いたという。
「はーはーはーはー」
「ふーふーふーふー」
「この件は、心の中にしまっておきましょう。」
クギリが言った。
「思い出したくない…」
シサが頭を振った。
「…ま、いっかぁ。」
ナカミが指をくわえながら言った。
クギリとシサが、凄い形相で振り返る。
「…あ、あはは、心の奥の引き出しの中にいれて鍵掛けとく。うん。」
ナカミは、手をひらひらさせながら姉をなだめる。
「あ、そだ。さっきの巨大ロボさんって、コンビニの袋持ってたじゃない?」
ナカミの言葉に、クギリがはっとなる。
「そうか。この近くに店があるのね。その袋は何処…?」
果たして、コンビニの袋は見つかった。お弁当は、まだ暖かい。
「やはり近いわね。問題は…奴等の来た道筋がたどれるかどうか…」
「ねえ。」
「…まずはさっきの奴をもう一度捕まえて…」
「ねえったら。」
「もしかしたら尋問になるのかしら、久しくやってないけど。」
「ねえ。クギリお姉ちゃんったら。」
「そもそもロボットに誘導が…」
「お姉ちゃんてばぁ」
「…んもう、なによ。」
クギリが拗ねたようにナカミを軽く睨んだ。
ナカミは、何時の間にか少し離れていたシサを指差す。
そこに視線を移すと、シサは、地面を指差した。
そこで地面を見ると、地面が、一定規則で長方形に沈み込んでいる。
「これってさ。巨大ロボさんの足跡じゃない?」
またしても空白の時間が流れて、クギリはどっと疲れを感じた。
もちろん、この足跡が馬鹿正直にコンビニに続いていた事は言うまでもない。
こうして、三姉妹のピクニックは疲労の果てに終わりを告げた。
<終>
戻ります