三姉妹のある日常:春編
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第3話
クギリは頭痛がひどくなったような気がした。
(取り越し苦労のようね・・・)
それよりも、目の前の抗争をどうにかせねばならないようだ。
「しんくぅーう!」
「ごぉーっつい!」
「…やかましいっ!」
超必殺技に忍者チョップでカウンターをかけると二人は面白いように吹っ飛んだ。
「痛い〜」
「いたい〜」
「全く…ほら。早く食べてお終いなさい。」
シサとナカミはその言葉に、はたと顔を見合わせた。
次に、クギリの差し出した重箱を見る。
そこには、まだ食糧があった。
ああ、食べるに勝る幸せ無し。その顔に、喜びの灯火が灯る。
そうだ、二人ともお弁当の前では平等なのだ。
「は〜い」
結局、仲良く返事。食事再開と相成った。
クギリも、ちょっと目を細めて、金時豆をついばんだ。
「あ〜〜っ!」
…振り出しに戻る。
一方、その頃。
「4260円になりまーす。」
「…5千円カラ…」
コンビニで五人前強の弁当を買う合成音声の姿があった。
「たいちょお、ビックリマン買っていい?」
「…ダメ。」
「うわーん!隊長がどケチだー!」
「…人生ッテ一体…」
この日、彼(?)は一万円札を崩す破目になったと言う。
「むにゃ・・・」
「ほんとに寝ちゃったよナカミ。」
「…おやつの時間には起きるでしょ。」
おやつという言葉に、ぴくりと耳を動かすナカミ。
「…そーね。」
「じゃあ、とりあえず…まずはここがどこかを知る必要があるわね。」
クギリは、辺りを見た。
野原、山、空。以上。
電線すらない。
「…どうしよぉ。」
「…まずは、ここから見えないところを探るのが…ハッ!」
頭を抱えていたクギリが、突然振り向いた。
同時に、岩肌を縫うように針…いや、釘が刺さる。
「何奴!」
推何の声をあげるクギリ。
「お姉ちゃん…?」
きょとんとしておいてけぼりのシサを片手で制して、
クギリは辺りを警戒している。
果たして、岩影から応える声があった。
「に、にゃーん。」
………沈黙することしばし。
「なぁんだ、猫か。」
顔を見合わせて大納得のクギリとシサ。
「ほらおいで〜猫おいで〜」
「エサあるよ〜おいでおいで〜」
呼ぶ始末。
ガサリ…
しかも出てくる。
草むらをかき分けて岩肌から出てきたのは、猫…
…の着ぐるみだった。
「えさだー!」
「え!?この猫しゃべった!」
真顔でボケるシサ。
「しかも二本足で…!っていいかげんにしなさい!」
「てへ。」
「それからどうせこんなモノ着るのっていったら…」
クギリが、着ぐるみの首ねっこをつまむ。
「やーん。」
「ほら、やっぱりナカミね。」
頭の部分をはずすと、ナカミの頭が出てきた。
…割とシュールな物言いではあるが…
「でも、お姉ちゃん。ナカミはさっきからそこで寝てるんだけど。」
「え?」
見ると、確かにナカミがビニールシートの上に寝ている。
「ドライフード…美味しくない…」
寝言まで言っている。
一方、クギリが首ねっこを持っているのもナカミだった。
「え゛!?」
少なくとも、ナカミにとてもよく似ている。
ただ、よく見ると、ちょっとこじんまりとしていて、
更によく見ると、二頭身だったりした。
「この子…誰?」
「…まさか…隠し子!?」
「…誰の?」
「…」
無言で思わずナカミを見るシサ。
「…」
つられてナカミを見るクギリ。
「……………!?」
ナカミをいやな汗を流しながら見る姉二人。
「…んふ…ん…だめぇ…」
折良くか悪しくか妙に色っぽい寝息の妹。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!?」
滝のようにいやな汗が流れる姉二人。
いまや彼女達の邪推はなんだか最悪の方向に流れている。
その邪推が、ついにとても人には言えないようなレベルに達した、その時。
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