三姉妹のある日常:春編

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第1話



「おやつは300円まで。」

クギリは、静かにそう言った。

「バナナはおやつに含まれますか?」

手を挙げてシサが発言する。必死だ。

「バナナは、弁当の具。」

思わずガッツポーズのシサ。

バナナ しかしよせばいいのにナカミが駄目押しする。

「ねえ、キウイは?」

「丸ごとは駄目。」

「え〜!?じゃあ、マンゴーは?」

「・・・南蛮の果物は全ておやつ。」

ついにクギリが苛立ちをあらわにする。

彼女は横文字が苦手なのだ。

「それにバナナは含まれますか!?」

シサは必死だ。

この会議は延々半日続けられた。



そして当日。


その日はとっても晴れていた。

「晴れて良かったね〜。」

伸びをしつつシサが嬉しそうに言う。

バスケットを持って玄関を出てきたクギリも空を仰いだ。

「本当、良い天気ね。」

一分の隙も無い青空には、深呼吸をしたくなる要素が含まれているようだ。

クギリも、少し伸びをして、体に新鮮な朝の空気を取り入れる。

「ナカミはまだ来ないの?」

「すぐに来ると言ってたけれど。」

「ナカミ〜?早く来ないと置いていくよ〜。」

シサが家に向かって嘯くと、奥の部屋から情けない声がした。

「待って〜。今行くからぁ〜」

同時に、重いものをあちこちに置いてるような重い音も聞こえる。

しばらくして、ドアの開く音がして、ナカミが走ってきた。

「何してたの?」

怪訝な顔のシサに、

「奥にしまってたこれを出そうと思ったら、他の荷物の中に埋まっちゃった。」

ナカミはほえ、と笑ってそう言うと、手にしたビニールの塊を見せた。

どうやらビーチボールらしい。

「・・・これ、穴開いてるよ。」

「ええっ!?」

・・・まあ、そんな事もあったが一行は出発した。



「♪うーでが飛び出す♪」

「♪ばばんばーん♪」

陽気に歌いながら一行は進む。

実に微笑ましい光景であった。

「♪あーしがとびだす♪」

「♪ばばんばーん♪」

今日は小春日和。気温は心も晴れる22℃と天気予報が言っている。

昨日までの寒さはどこへやら、三寒四温とは良く言ったものである。

所々に腕や脚・・・もとい芽が出て花が綻びつつある。

実に微笑ましい光景であった。

「♪じ・しゃ・く・の・威力だ〜♪」

「♪こ・お・・・?・・・シサ?」

「・・・どしたの?」

はたと、足が止まったシサを、心配そうに見る姉と妹。

シサは地図をじっと見ていた。

その表情は、難しいテストを解く子供のものに良く似ている。

シサは、地図に目を落としたままぽつりと言った。

「・・・・ねえ。ここって・・・何処だっけ・・・?」

既に、彼女達の家は遠く離れ、幾度と無く道を曲がり、

いくつもの川を渡り、人家もまばら、いや、もはや見当たらず、

道路は既にアスファルトではなく、前にも後ろにも土の道が伸びて・・・

要するに、さっぱり知らない土地であった。

「・・・それって・・・」

「・・・まさか・・・」

「多分当たり。道に迷っちゃった。」

もう少し早い段階で気付いても良さそうなものである。



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